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【リーダーシップ】謙虚なリーダーは、メンバーの境界を超える行動を介して創造的成果を高める(Zheng et al., 2024)

謙虚なリーダーシップ(Humble Leadership)は最近実証研究も増えてきているリーダーシップの1つです。このリーダーシップが、従業員のバウンダリースパニングを促し、その結果として創造的な成果を導く、という文献を紹介します。

Zheng, Z., & Ahmed, R. I. (2024). Humble leadership and employee creative performance in China the roles of boundary spanning behavior and traditionality. Personnel Review, 53(1), 193-210.


どんな論文?


この論文は、中国の企業で働く従業員を対象に、謙虚なリーダーシップが従業員の創造的なパフォーマンスにどのように影響するかを調査したものです。
謙虚なリーダーシップとは、自分の限界を認め、部下の強みを評価し、学ぶ姿勢を持つリーダーシップスタイルです。

研究の結果、謙虚なリーダーシップは従業員の創造的なパフォーマンスを高める効果があり、その効果を高める要因として、従業員が外部の関係者とつながりを持ち、情報やリソースを得る「境界を超える行動」(バウンダリースパニング:BS)が重要な役割を果たしていることが示されました。

さらに、伝統的な価値観を重んじる従業員(伝統性が高い従業員)は、謙虚なリーダーシップに対して特にポジティブに反応し、境界を超える行動を積極的に行う傾向があることも示されています。

伝統的な価値観とは、儒教に基づき、社会倫理や階層的な役割関係を重視する考え方を指します。具体的には、権威への服従、祖先への尊敬、孝行、自己保護、男性優位などが含まれるようです。

こうした価値観のもとでは、リーダーの謙虚さや部下への尊敬は、儒教的な「徳」として認識されると共に、階層的な役割の中で、信頼や評価に対してより返報的に行動しようとする、と仮定し、以下のようなモデルを想定しました。モデルに示されている仮説はすべて支持されています。


バウンダリースパニング(BS)が創造的な成果を生むメカニズム

謙虚なリーダーシップと創造的パフォーマンスを媒介すると想定されたのが、バウンダリースパニング(BS)です。
なぜ、BSが創造的な成果につながるのか、本論文では以下のように整理されています。

1.外部からの知識やリソースの獲得
BSとは、従業員が他の部署や外部の関係者と連携し、情報やリソースを集める行動を指す。この行動により、従業員は新しいアイデアや方法、技術的な知識を得ることができ、こうした外部リソースは、従業員が新しいアイデアを生み出すための材料となる。

2.多様な視点の取り入れ
BSを通じて、従業員はさまざまな視点や異なる意見に触れる機会が増える。異なる視点を取り入れることで、従業員は問題解決の新しいアプローチを考え出し、革新的な解決策を生み出すことが可能になる。

3.外部支援の活用
BSにより、従業員は外部の専門家やクライアントなどからの支援を受けることができる。この支援が、従業員が新しいプロジェクトやアイデアを実行に移す際のリスクを軽減し、創造的成果につながる。

4.環境の機会と脅威の理解
BSは、従業員が外部環境の変化やトレンドに敏感になり、機会や脅威を早期に察知する能力を高めるため、従業員は環境に適応した創造的なアイデアを生み出しやすくなる。

5.非公式なリーダーシップの発揮
BSを行う従業員は、チーム内で非公式なリーダーシップ(Informal Leadership)を発揮することが多くなる。この非公式なリーダーシップは、他のメンバーを巻き込み、新しいアイデアの開発や実行に積極的に取り組む姿勢を引き出し、結果的にチーム全体の創造的成果を高める。



謙虚なリーダーシップがBSに有効な理由

この論文で扱われている「謙虚なリーダーシップ」とは、リーダーが自分の過ちや限界を認め、部下の強みや貢献を評価し、学ぶ姿勢を持つリーダーシップスタイルを指すものです。

この謙虚なリーダーシップが、BSに有効な理由は以下の通りです。

・リーダーの謙虚さが従業員のモチベーションを高める
謙虚なリーダーは、自分の限界や過ちを認め、部下の強みや貢献を評価し、学ぼうとする姿勢を取るため、従業員はリーダーから信頼されていると感じ、自分の存在が重要であると認識するとのこと。
リーダーのこの態度が、従業員の「自分もリーダーの期待に応えたい」というモチベーションを高るようです。

・リーダー・メンバー間の社会的交換
・社会的交換理論によれば、従業員はリーダーから受け取った信頼や評価に対して、何らかの形で応えようとします。
具体的には、リーダーの期待に応えるために、境界を超える行動(外部との連携を通じて、チームに有益な情報やリソースを獲得する行動)を積極的に取るようになるようです。

・心理的安全の提供
謙虚なリーダーは、失敗を許容し、学びの機会とする風土を作り出します。これにより、従業員はリスクを取ることに対する恐れが減り、安心して外部との連携を試みることが可能になるとのこと。

このように、謙虚なリーダーシップは、従業員に信頼と評価を与え、リーダーシップを共有し、リスクを恐れずに新しい挑戦をするための環境を整えることで、従業員が積極的に境界を超える行動を取ると想定され、実証的にもその有効性が示されています。


感じたこと

境界を超える行動、BSは、チーム内への貢献活動以上に負担のかかるものです。そのための上司のかかわりとしての謙虚なリーダーシップが有効、という点を解像度高く理解できました。



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