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【社会的アイデンティティ】一体感の醸成やグループ間の協力・対立はどのように理論的に説明されるのか?(Ashforth & Mael, 1989)

今回も社会的アイデンティティ理論を扱います。一体感醸成やグループ間の対立や競争を、社会的アイデンティティがどう関連するのかを解説した展望論文です。

Ashforth, B. E., & Mael, F. (1989). Social identity theory and the organization. Academy of management review, 14(1), 20-39.


どんな論文?

本論文は、社会的アイデンティティ理論(SIT)を使って、組織内での個人とグループの関係を説明したものです。

社会的アイデンティティとは、個人が自分自身を特定のグループの一員として認識し、そのグループの成功や失敗を自分のものと感じることです。
たとえば、自分の会社の成績や評判を自分のことのように喜んだり悲しんだりする感覚に該当します。

SITによれば、個人は所属するグループを他のグループと比較し、自分のグループを特別で優れたものと感じる傾向があります(内集団バイアス)これが、組織やグループに対する強い忠誠心やコミットメントを生み出します

内集団バイアスがグループへの忠誠心を強めるとすれば、個人が複数のグループに所属する場合、グループ内での役割や立場の葛藤が生じやすくなります。派閥の両方に属していると、葛藤が生じる、という感じでしょうか?
(その結果として、両方に良い顔をする「二枚舌」が生じるのかもしれません)


社会的アイデンティティが一体感醸成を強める理由

内集団バイアスによって、グループに対する忠誠心が生まれることを説明しましたが、SITでは、他にも、他のグループとの関連性や独自性の観点、地位・権力、他グループとの競争等が、組織への一体感を高めるメカニズムの一環であると紹介されています。それぞれについて補足します。

  1. 自己分類と集団識別
    人々は、自分自身を特定の集団に属するものとして分類し、その集団と「一体感」を感じるとのこと。たとえば、社員が自分を「この会社の一員だ」と認識すると、その会社の成功や失敗を自分のもののように感じるようになり、組織全体に対する帰属意識が強まるとのこと。

  2. 集団の独自性と魅力
    組織やグループが他のグループと異なる「独自性」を持っていると、メンバーはその違いを誇りに思いやすくなり、より強い一体感を抱く。たとえば、新しい技術や革新を追求する企業で働く従業員は、その会社が他社とは違うユニークさを感じ、自己肯定感が高まるとのこと。

  3. 集団の地位と権威
    SITによれば、人は高い社会的地位や権威を持つ集団に所属することで、自尊心が高まりやすくなるとのこと。組織が社会的に高い評価を受けたり、成功を収めたりすると、メンバーはその栄光を自分のもののように感じ、組織への忠誠心が高まる。

  4. 外部グループの存在と競争
    組織外にライバルや競争相手が存在すると、メンバーは自分たちのグループをより強く意識し、一体感が高まります。これは「私たちvs彼ら/彼女ら」という対立構造が、組織内の結束を強めるため。(仮想敵を作ることで一体感を得る、という感じでしょうか)たとえば、競争の激しい業界に属する企業の社員は、他社との競争が激しいほど、自社に対する忠誠心が強くなる傾向がある。

  5. シンボルや文化の共有
    組織内で共有されるシンボル(ロゴやスローガン)や文化(伝統、儀式)が明確に定義されている場合、それらを通じてメンバーは組織に対する一体感を高めやすくなる。メンバーが自分たちの所属する組織を明確に認識し、その価値観や目標に共感することがその理由。グループを越えて、組織の価値観や目標に共感することで、グループの差異が薄まる。

こうした、社会的アイデンティティにもとづく人の心理を知っておくことで、組織施策の妥当性や効果性を検討しやすくなるかもしれません。


グループ間の協力と対立のメカニズム

組織に対する一体感に加え、本論文では、グループ間の協力と対立についても説明されています。

1. グループ間の対立  

SITによると、グループ間の対立は主に「社会的比較」と「集団識別(アイデンティフィケーション)」に基づくと説明されます。
上でも見た通り、人々は自分が所属する内集団を他の外集団と比較し、自分たちの集団を他集団より優れていると見なすことで、自尊心を高めようとします。
この比較は、他のグループとの違いを強調し、内集団の結束を強化する一方で、外集団への対立や競争意識を生む原因となるようです。

対立は特に次のような状況で強まるとのこと。

  • 外部グループの顕在化:外集団が明確に認識されると、内集団メンバーはその違いを意識し、自分たちの集団の価値を強調する傾向が強まります。これにより、競争や対立が激化します。

  • 資源やステータスの競争: 限られた資源や地位を巡る競争も、グループ間対立の原因として挙げられます。SITは、こうした状況で内集団が外集団と差別化を図り、優位性を示そうとする動機が対立を促進することを示しています。


2. グループ間の協力

一方で、SITはグループ間の協力がどのように生まれるかについても説明しています。協力が生まれる状況としては、次のような要因が影響します。

  • 共通の目標: SITの観点では、異なるグループが共通の目標に向かって協力する場合、外集団との境界線が曖昧になり、内集団バイアスが弱まることがあります。これにより、競争意識よりも協力的な態度が促進されます。(上述のシンボルや文化の共有と同様の機能)

  • 組織全体のアイデンティティの強化: 強い組織的アイデンティティが形成されている場合、各サブユニットのメンバーが共通の組織全体の一部として自分を認識し、対立よりも協力を優先する傾向が強まります。この場合、グループ間の違いが強調されにくくなり、組織全体の目標達成に向けた協力が促進されます。

簡単に言えば、上位の目標や、上位組織とのアイデンティティ強化が、グループ間対立を薄める、といえるでしょう。


3. 対立と協力のバランス

本論文では、組織内でのグループ間対立と協力は、競争と協力のダイナミクスによって相互に影響し合う複雑な関係にあると説明されています。

例えば、資源が限られている状況では対立が生じやすいものの、強い組織的アイデンティティや共通の目標があれば協力が可能になります。
つまり、SITは組織におけるグループ間関係の正と負、両面を説明する理論的枠組みを提供することになります。

そのため、グループの協力と対立をうまくマネジメントするためには、このバランスを意図的に、うまく活用する必要があると言えそうです。


感じたこと

社会的アイデンティティ、という理論的枠組みは、人とグループの関係、グループ間の関係などでよく用いられます。一方で、正と負、両方の側面を説明するメカニズムでもあるようです。

組織に起きている問題や事象を見るときの一つの視点として、知っておきたい考え方の一つだと改めて感じました。




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