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【研究手法】仮説の形式とモデル図を体系的に整理している必読の文献!(林・内藤, 2023)

これほど網羅的に、仮説の形式や型を体系化した資料はあまり見たことがありません。何度か定期的に見返したい文献です。

林洋一郎, & 内藤知加恵. (2023). 仮説検証型研究における仮説の形式―主効果, 調整, 媒介, 調整媒介についてのチュートリアル―. 産業・組織心理学研究, 36(2), 189-211.


どんな論文?

この論文では、仮説検証型研究におけるパターンを、4つの仮説の形式に分けてそれぞれ解説した展望論文です。
仮説検証型研究とは、ある仮説を立てて、その仮説が正しいかどうかをデータを使って確認する研究方法です。本論文で取り上げている4つの仮説形式は、主効果、調整効果、媒介効果、そして調整媒介効果です。

主効果は、2つの変数の間にどのような関係があるかを調べる仮説です。例えば、「勉強時間が長いほど成績が良くなる」という関係を調べることができます。

調整効果は、第3の変数が2つの変数間の関係にどのように影響するかを考えます。例えば、「勉強時間と成績の関係は、睡眠時間の長さによって変わる」という場合です。

媒介効果は、ある変数が他の変数にどのように影響を与えるか、その間に別の変数が介在しているかを調べます。例えば、「勉強時間が増えると自信がつき、その自信が成績を上げる」といった関係です。

調整媒介効果は、媒介効果が他の変数によってどのように変わるかを考える仮説です。例えば、「勉強時間が自信を高め、成績に影響するが、その効果は性別によって異なる」という場合です。

この論文では、これらの仮説形式をどうやって統計的に検証するかが説明されており、仮説検証型研究の進め方を学ぶ上で有用なガイドとなっています。


4つの仮説形式をもっとわかりやすく

本論文がわかりやすいのが、簡単な数式や図も使いながら、各仮説の形式を説明している点です。特に図は視覚的にイメージできるので、ど文系の自分にも大変ありがたいです。

1.主効果
これは、X→Yの単純な直接効果なためか、図は省略されていました。

2.調整効果
Wと書かれているのが、調整変数(モデレーター)です。
XとYの関連の強さや方向性を変化させる変数で、Wから伸びる矢印は、X→Yなどの矢印のところにぶつかります。
調整の種類は、「強める」「弱める」「逆転させる」の3種類あるようです。また、論文でよく「交互作用効果」(分散分析における)と言われているものも、調整効果にあたります。

以下が代表的な調整効果の図として掲載されています。

3.媒介効果
本論文では、以下のように紹介されています。X→Yの心理的メカニズムとして、間に介在するMを置くモデルです。

独立変数(X)が従属変数(Y)に与える心理的メカニズムを正確に記述して,予測することは,心 理学研究の重要な目的である。そのためには,Xと Yの間にある心理メカニズムの解明が不可欠である。その際,XとYの関係を仲介する変数を仮定し て心理メカニズムを説明することがある。このよう にXとYの間をつなぐ役割を果たす変数Mがあった場合, このMを媒介変数(mediator/mediating variable:M)と呼ぶ(MacKinnon, 2008;Preacher, 2015)。

P192

代表的な図として、以下が紹介されています。

4.調整媒介効果(条件付き間接効果)

簡単に言えば、調整モデルと媒介モデルを組み合わせたものです。著者らの説明を引用します。

媒介効果(間接効果)は一定ではなく,文脈,個人差,Xの値によって異なるという仮説も興味深い検証課題となりうる(Preacher, Rucker, & Hayes, 2007)。例えば,MがX→Yの関連を媒介する効果が,少年には見出されるが少女には見出されないというケースも考えられる。つまり, XがMを介してYに与える間接効果が変数Wに依存するといったモデルである。 調整効果と媒介効果を組み合わせたものとして調整媒介モデル(moderated mediation)と媒介調整 (mediated moderation)の二つが知られているが, 媒介調整モデルは調整媒介モデルの一形態(部分集合)として捉えられる(Preacher et al., 2007)

P194
調整媒介と媒介調整、両方あるのは知りませんでした。。。

このほかに2つのモデルが紹介されていましたが、複雑なので割愛します。

著者らの想い

最後に、結語に述べられている著者らの想いが感じられる箇所を引用します。

 多くの研究者が「経験的に」理解している仮説の形式や型を体系化することで,仮説の導出とその妥当性の検証が理にかなったものになるだけでなく, 仮説と分析方法に間に齟齬が生じるといった弊害が無くなることが期待される。良い研究を構築するためには,分析方法までを見通しながら研究を計画・ 実施することが求められると思われる。これに寄与することが,本論文の企図するところである。

感じたこと

これまでいくつか定量研究に携わってきているので、それなりにこうした仮説の形式には理解があると思っていましたが、「なんとなく」理解した気になっていたかも、とハッとさせられました。

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