スクラムガイド2020が示すスクラムマスターのリーダー像
スクラムガイドの改定されたトピックスの中でとびきり盛り上がったものは「スクラムマスターのリーダー像」における変化ではないでしょうか。新たに登場したワード「真のリーダー」って一体なんなのさ、という話が読み合わせ会でも出てくるぐらいなので、ここで一発自分の解釈を見つけてモヤモヤを解消していきましょう。
責任の変化
スクラムマスターが持つ責任の変化がリーダー像を明確に表しています。まずは2017年で定義されている責任を見ていきましょう。
スクラムマスターは、スクラムガイドで定義されたスクラムの促進と支援に責任を持つ。スクラムマスターは、スクラムの理論・プラクティス・ルール・価値基準を全員に理解してもらえるように支援することで、その責任を果たす。(スクラムガイド2017)
この定義でいえば、スクラムマスターはスクラムをチームに定着させ、それを進める上でステークホルダーにもその価値を理解してもらうことが求められていそうです。「全員」というワードが少し曖昧さを感じますね(原文ではeveryone)。どこまでスクラムを広めていけば良いんだというのがイメージしづらい。それでは比較として2020年で定義された責任を見てみましょう。
スクラムマスターは、スクラムガイドで定義されたスクラムを確立させることの結果に責任を持つ。スクラムマスターは、スクラムチームと組織において、スクラムの理論とプラティクスを全員に理解してもらえるよう支援することで、その責任を果たす。(スクラムガイド2020)
「スクラムを確立させることの結果に責任を持つ」というのは、2017年版で定義された「促進と支援」より一歩進んだ表現に感じます。ここには明確にスクラムチームとして成り立たせることをスクラムマスターに求める意図があるのだと思います。2020年版ではこの責任ともう一つスクラムマスターに課された責任があります。
スクラムマスターは、スクラムチームの有効性に責任を持つ。スクラムマスターは、スクラムチームがスクラムフレームワーク内でプラクティスを改善できるようにすることで、その責任を果たす(スクラムガイド2020)
この「結果に責任を持つ」ことが明示された点が最大の変化ではないでしょうか。2017年版ではスクラムを定着させ広めていくことがスクラムマスターの役割と読み取れました。ただスクラムは目的を達成するための手段でしかありません。大切なのは目的であり、目的を果たして結果を出すことにコミットする意識が多くのスクラムマスターに足りていない状況を変えるべくこの責任が明文化されたのでしょう。
スクラムマスターのリーダー像
続いて、話題のリーダーについてです。まずは2017年版。
スクラムマスターは、スクラムチームのサーバントリーダーである(訳注:メンバーが成果を上げるために支援や奉仕をするリーダーのこと)。
(スクラムガイド 2017)
訳注にもあるように、メンバーが成果を上げるために支援や奉仕をする、縁の下の力持ち的なニュアンスでこのサーバントリーダーという言葉をとらえている方は多いと思います。私もそうです。そしてそれは間違いなく、スクラムマスターに求められるリーダーシップだと今でも思っています。では、2020年版ではどうでしょうか。
スクラムマスターは、スクラムチームと、より大きな組織に奉仕する真のリーダーである。(スクラムガイド2020)
出ました!「真のリーダー(True leaders)」です。ここでも「奉仕する」という言葉が使われているのでサーバントリーダーシップがなくなったわけでは無いと思います。それでもサーバントリーダーという言葉を使わなかったのは、私たちがサーバントリーダーという言葉を知る前に思い描いていたリードするリーダーシップも必要であることを示唆していると考えています。解りやすく言えば、後ろから支えるリーダーシップと、前へ導くリーダーシップの両利きであることが求められているということです。なぜか、それは次に記されているスクラムマスターの支援する対象が重要になってきます。
スクラムマスターは誰を・何を支援するのか
スクラムガイドではリーダーシップのすぐ後に支援の対象と支援の内容の説明が続きます。2017年版では、「プロダクトオーナー、開発チーム、組織」。2020年版では「スクラムチーム、プロダクトオーナー、組織」と大きな変更はありません。大切なのは、チームや組織を支援するということです。チームや組織を支援し、スクラムを確立させ結果を出すのに、後ろから支えるだけでうまくいくでしょうか。チームの習熟度にもよりますが、当然スクラム経験が浅ければ先導していく必要はあるでしょう。スクラムがまだ定着していない組織であれば、率先してスクラムの理論を説明するのはスクラムマスターの役割です。
体感ですが、組織に対する支援というレベルでリーダーシップを発揮できているスクラムマスターは少ないと思います。もっというと、バリューストリームを意識して行動しているスクラムマスターは更に少ないですし、技術的に支援しているスクラムマスターも多い印象はありません。スクラムマスターが最初からすべてを出来ることは当然必須ではないと思います。ただ、これらのことはチームを本気で支援しようと思ったら自ずと知らなければいけないと気付くことがらではないでしょうか。それらに気づいて、自ら行動し、実践し、リーダーシップを発揮していくことがスクラムガイド2020に込められたリーダー像だと感じています。
スクラムマスター道
実は、この記事で言いたいことの8割は #ScrumMasterWay (スクラムマスターの道)で語られています。笑
スクラムマスター道における3つのレベルのうち、レベル1、つまり自分のチームしか見れていないスクラムマスターは多いです。ただ、なぜそのレベルに留まっているかと言うと、スクラムガイド2017年版が良いガイダンスでなかったからともいえます。ですが、今日これを読んでくださった方はスクラムガイド2020も読んでいるし、私が描くスクラムマスターのリーダー像も理解してくれ、更にはスクラムマスターの道すらも見えていると思います。
スクラムガイド、スクラムマスター道、そしてさしでがましくもこの記事をきっかけに真のリーダーになることをまっすぐ目指す方が増えたら嬉しいです。