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「オンライン授業」という名の下のハイブリッド対応の要求の無茶さ

1年数ヶ月前に大学教員の世界に押し寄せてきたオンライン授業への対応という荒波が、今、地域や学校による違いはあれ、小中高の教員らにも押し寄せている。教員側の機材の問題、(双方の)通信環境の頼りなさ、機器およびアプリの操作のおぼつかなさ。これらは昨年大学教員らが一通り経験したものだ。

ただし、1点大きな違いがある。それは、今の小中高の先生方の場合、全面オンラインでの授業の経験がないままに、いきなり、教室に来ている対面の子どもたちもいれば家からオンライン参加の子どもたちもいるという「ハイブリッド」への対応を、結構な割合で迫られているということだ(計画的な分散登校によるものの場合もあれば、「登校を希望しない者はオンライン」という措置によるものの場合もある)。

自分自身が昨年度・今年度と経験してきて痛感するが、ハイブリッドでの授業は、全面オンラインでの授業よりも何倍も難しい。教師が一方的にしゃべり続けてそれを中継する形ならいざ知らず、学校現場で普通に行われてきたような子ども同士の活動を伴ったような授業になると、ハイブリッドの場合、対面組とオンライン組に別個の指示が必要になる。授業中も両方の状況に気を配ることが必要になるが、チャンネルが異なる2つのものに1人で同時に意識を向けておくなんてどだい無理な話なので、どうしても、「オンライン組に音声が届いていなかった!」「チャットでの問い合わせに気付かなかった!」といった事態が生じてしまう。
だいたい、オンライン一本でも、双方がある程度慣れるまでは難しいのだ。オンライン授業の初期段階というのは、以前も書いたように、たとえて言うなら、教室への入り方や筆記用具の使い方を教えながら、「先生、ボールペンのキャップが開けられません」といった問い合わせに対応しながら、内容についても教えることが求められるようなものだからだ。

学校現場だって、1年間ただ手をこまねいてきたわけではない。学校や教育委員会で教員向けのオンラインツール研修を開いたり、機器や通信環境を整えたり、実際に教室で使ったり、場合によっては遠隔授業の試行を行ったりもしてきた。

それでも、地域や学校の状況はいろいろだ。環境面でも、「1人1台端末」こそ配布を終えたものの、子ども全員がインターネットにつなぐと回線がパンクする学校、いやそれどころか、ビデオ通話を利用した同時双方向型でのオンライン授業を教師が一斉に行おうとしただけで回線が落ちる学校の話も、ざらに聞く。
だいたい、大学の場合だって、いまだに回線状況があやしい場合もあったりするのに(実際、私がいる院棟でも、なぜか無線LANが途切れるという問題が解決できないままの教室がある)、全国の小学校約2万校、中学校約1万校、高校約5000校でおしなべて環境を整備するというのは、相当な難題だ(なお、大学の数は、短大まで入れてもせいぜい1000ちょっと)。
また、教師だっていろいろだ。教師(小中高でも大学でも)はICTを含めさまざまな教育方法の修得に励むべしとは思うが、現実にはいろいろな教師がいて、努力はするもののなかなかデジタル機器になじめない教師もいるし、子どもの状況を見ながら授業を進めることに課題をもっている教師もいる。
そうしたなかで、(「オンライン授業」という名のもと実質的には)ハイブリッド授業への対応を当然のように学校に課すのは、かなりの無茶であるように思える。

ではどうすればよいのか。
一言で言えば、「割り切ること」が必要だ。いきなりすべてをやろうとしないことステップを踏んで焦点化しながら進めること、と言ってもよい。
学校によっては、分散登校で子どもの半分は家からオンラインで授業に接続となっているけれど、教師が同じ授業を2回行って(AチームとBチームに1回ずつ)、オンライン組への特別な対応を行わないですむようにしている学校もある(オンライン組は予習あるいは復習の位置付けで同じ授業を聞く)。
あるいは、対面組オンライン組両方がいる場合でも、一定期間、オンライン授業としての進行を中心にして、対面組も教室から各自の端末でオンライン授業に参加するという形にする手もある。

そのために重要になるのが、教育委員会なり管理職なりのスタンスだ。
教師らがこうした割り切りを伴った判断をすることを許容したり後押ししたりできているか。教師同士で状況を共有しアイデアを出し合いながら現状において何がベターかを考え実行することができるような仕組みにできているか。
現実的に対応困難な要求を課して身動きがとれない状況にするよりも、不足はあれども着実に一つずつ進んでいけるような態勢にするほうがよほどよい

1年間準備期間があったにもかかわらずオンライン授業もおぼつかないなんて学校は何をやっていたんだ!などと批判するのは簡単だ。
けれども、学校は学校でこの1年間、登校時の感染予防対策やら何やらに追われてきたわけだし、上に述べたように、オンライン授業(特に、対面を伴ったハイブリッドでの)というのはそう簡単なものではない(だいたい、1年間進歩が見られないという点では、あいも変わらず同じような出し方・延長の仕方を繰り返している、政府の「緊急事態宣言」などどうだ)。

学校が変化していくことは必要。けれども、だからこそ、地に足を付けた形で学校がそれに取り組めるようにすることを、管理職にも教育委員会にも、政治家にもマスコミにも求めたい。

※学校でのオンライン授業に関わる記事を追加したので、こちらもどうぞ。

また、奮闘されている先生方向けに、昨年私が大学でオンライン授業に取り組み始めたときの記事より2点、下に貼り付けておきます。


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