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約束も用事も恋もない日々を電波時計はただしく動く/安原健一郎

2022年6月12日(日)のうたの日7時部屋の題「時」の短歌。

電波時計は、時間の狂いがほぼないので、どうしても時間を守りたい個人や集団が用いるものだ。社会生活の中で、人とのつながりが重視される環境で大切な役割を果たす。

集団で言えば、学校や公共交通機関など、運営上時間の管理が重要になるところで特に重宝する。個人で言えば、友人や恋人、取引相手などとの約束や、スケジューリングされた用事などがある人にとっては、役に立つ。

一方で、約束も用事もなければ、必要性は低くなる。人との関係性の中で、時間管理が重要になるからだ。一人で部屋の中で過ごすとき、特にオンラインでつながる相手もいなければ、時間はさほど気にしなくてもいい。恋をして、デートをするというとき、時間を守ることは大切だ。恋人との良好な関係を保つために重要なことが時間を守ることだ。

しかし、「約束も用事も恋もない日々」においては、電波時計はさほど能力を発揮しない。正確な時間を知る必要のない日々にあっては、電波時計の正確さは無駄遣いとなる。それでも電波時計は「ただしく動く」。その正確さが作中主体の淋しさを増長させる。電波時計の無機質な感じが人とのつながりの希薄な作中主体を浮いた存在にする。

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