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野良猫をはじめて見た日この街の一部にやっとなれた気がした/永山暉

2022年5月11日(水)のうたの日21時部屋の題「野良」の短歌。

野良猫とは、飼い主のない猫のことだ。しかし、その行動範囲は限られているだろう。生活圏やテリトリー(縄張り)がある。もちろんそれが人間により区分けされた街という単位に対応しているはずはない。

しかし、街で見かけた野良猫は、少なくともその場所を生活圏またはテリトリーにしているのだから、また見かけることになる。

野良猫というのは、ある範囲の住人なのである。野良猫を見かけたということは、地域の住人に挨拶をしたのと同じような感覚がある。

野良猫を見かけるのは、明るいうちだろう。休日などに出かけたり、外を眺めたりして、野良猫を見かける。

引っ越してきたばかりの作中主体にとって、その地域で野良猫を見たということは、「街の一部」になるということなのである。この街の風景の中に溶け込んだということなのだろう。野良猫に注目する作中主体は、はたから見ればこの街の住人であり、街の風景の一部である。引っ越して来た人物が街に溶け込む瞬間はさまざまあるだろうが、野良猫の発見というのは、街のディープな部分を垣間見たような特別感があるのだろう。

しかし、これはあくまで作中主体が「この街の一部にやっとなれた気がした」というだけのことである。その程度のこととして抑えられた詠み方となっている。そんな控え目な感じが詩的な余白をもたらしている。

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