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「私たちは、外向型の人間を理想とする価値観のなかで暮らしている」

■感想文『内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力』/著者・スーザン・ケインさん、翻訳・古草 秀子さん


なんとなく、生きにくい世の中だなあと思っていました。

TEDのプレゼンを見て以来、ずっと気になっていた著者の一冊です。最寄りの書店で品切れを繰り返していたため、立ち読みでなかなか中身を確認できず、長い間読めずにいた一冊でもあります。特に、アメリカ社会への洞察をもとにした、著者が言うところの“内向型”へのアドバイスには、他の追随を許さない示唆に富んでいる印象です。

自身による多くの取材や調査、著名な科学者や有名な研究成果、データを多角的に用いることで、内向型とされる人たちが前向きな生活を送っているヒント、理由などを的確に考察していると感じました。著者が内向型とする人たちの境界線のようなものにも、個人的にはとても説得力を感じます。明らかに、本書の中にでてくる内向型とされる人たちにとって、本書は救済の一助です。

本書は、450ページ弱。4つのパートからなります。1つのパートが1〜4つの章に分かれています。

■パート1/外向型が理想とされる社会
・第1章、“誰からも好かれる人”の隆盛/外向型はいかにして文化的理想になったのか
・第2章、カリスマ的リーダーシップという神話/「性格の文化」の100年
・第3章、共同作業が創造性を殺すとき/新集団思考の登場と単独作業のパワー

■パート2/持って生まれた性質は、あなたの本質か?
・第4章、性格は運命づけられているのか?/天性、育ち、そして「ランの花」仮説
・第5章、気質を超えて/自由意志の役割(そして、内向型の人間がスピーチをするには)
・第6章、フランクリンは政治家、エレノアは良心の人/なぜ“クール”が過大評価されるのか
・第7章、ウォール街が大損し、バフェットがもうかったわけ/内向型と外交型の考え方(そしてドーパミンの働き)の違い

■パート3/すべての文化が外向型を理想としているのか?
・第8章、ソフトパワー/外向型優位社会に生きるアジア系アメリカ人
■パート4/愛すること、働くこと
・第9章、外向的にふるまったほうがいいとき
・第10章、コミュニケーション・ギャップ/逆のタイプの人とのつきあい方
・第11章、内向型の特性を磨く方法/静かな子供をどうしたら開花させられるか

内容のすべてを「真実」として鵜呑みにすることには警鐘を鳴らしたい

本書は、数年前からブームになっている、アメリカを始めとする大学教授などが、自身の研究成果などをまとめたこれまでの書籍とは異なります。著者は、米プリンストン大学、ハーバード大学ロースクールを卒業し、ウォール街の弁護士からライターに転身した経歴の持ち主です。刊行当初の著者は、ライターという肩書きと思われます。よって本書は「研究の結果、内向型は――」のような内容ではありません。科学的に立証されているデータや、実験結果をふんだんに活用して書かれていますが、あくまでも、著者自身の実体験や、膨大な調査や取材に基づいて、洞察と考察によって書かれた本という認識です。

例えば、パート3の「すべての文化が外向型を理想としているのか?」が代表例です。

アメリカにおけるアジア人コミュニティを取材した調査内容を中心として、中国、韓国、日本を代表するアジア社会で「西洋人の視点からすれば、他人の意思に従うことになぜ魅力を感じるのか理解するのが難しい」と書いている部分があります。この「他人の意思に従うことになぜ魅力を感じるのか」という内容に、違和感を拭えない日本人は少なくないのではないでしょうか。という疑念が代表格です。

洞察の深みが感じられないのです。

著者自身のアイデンティティにもなっているオーソドックスなアメリカ社会についての取材や調査、研究成果の量や質に比べ、アジアとひとくくりにされた内向型を重んじる社会への洞察は、角度が偏っているし調査やデータの数に物足りなさを禁じえません。やや着地優先での考察である印象が強いです。一介のライターが書いた本にしては、異常に濃密な内容で、示唆と考察に満ちた内容であることに疑いの余地はありませんが、自己啓発の一部として、マイノリティを勇気付けたり、読者本人が希望を持ったりすることに役立てることに活用してほしい。そんな風に願います。

本書で救われる読者が確実にいる

誤解のないように付け加えておくと、とても重要なことは、本書で救われる読者が確実にいる、という事実。本書が真実を語っているか否かではないと感じています。自分が内向型なのかどうか?という追究に陥ることなく、自分にとって有益だと感じる情報、アドバイスを試してみよう参考にしてみようと、懐疑的に本書を利用することに計り知れない価値がありそうです。そうした信憑性の観点からも、可能な限り、本書の内向型の内容の活用については、本書を読んだ読者に限ってほしい。そんな風に感じました。

個人的にはとても興味深く読めました。

読者を選ぶ一冊ではありますが(例えば本書で言うところの、極端な外向型は本書に興味を示すのだろうか? という好奇心からも)、万人におすすめしたいです。



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