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道都札幌のリノベーション

わがまち、道都札幌のリノベーションについて考えてみましょう。
公共投資の財源が限られる中、重要なことは、柔軟な発想で、事業実施のタイミング、効果の大きい投資を見定めることです。効果の大きい投資とは何でしょうか。それは、新たに一から施設を造るのではなく、今あるインフラ、今ある施設の利用価値を高めることです。ポイントは「つなぐ」ことにあると思います。

ミッシングリンクを結ぶ10の緊急プロジェクト(T―10プロジェクト)

前述したように、人口減少社会で総合交通網を強化していくことは重要な政策です。「つなぐ」ことによって、すでに整備されている交通インフラの効果を高めることができるので、新たに建設するよりも投資効果が高いのです。国土交通省も、全国の道路でつながっていない部分、いわゆるミッシングリンクの解消に重点投資をしています。私は、札幌において、特に投資効果の高い、交通を「つなぐ」プロジェクトを早急に実施し、札幌のリノベーションを進め、札幌の都市としての可能性を引き上げ、ひいては北海道全体にその効果を波及させて本道経済を活性化させていくべきと考えます。

札幌では、昭和47年の冬季オリンピック開催に合わせて、札樽自動車道や道央自動車道、さらには、真駒内アイスアリーナ、大倉山シャンツェなどの五輪施設が建設されました。昭和46年12月には、市営地下鉄南北線もオリンピックに合わせて開通しています。世界でも類を見ない豪雪地の大都市である札幌にとって、雪の影響を受けない地下鉄は市民生活には欠かせない交通機関で、雪の降らない都市の地下鉄よりも大きな意義を持っています。この雪国の暮らしを支え、世界に誇れる札幌の地下鉄も2021年には開業50 周年を迎えます。日々維持修繕を行っているとはいえ、将来的には大規模な改修工事が必要になると考えられます。その際には、今のシステムを大きく見直すことにより、地下鉄のみならず、札幌の可能性を大きく広げるチャンスにしていかなければなりません。

札幌の地下鉄はゴムタイヤを採用していることが特徴です。ゴムタイヤのメリットは、鉄輪よりも線路接地面の摩擦が大きく、よりきつい勾配を走行できることです。普通鉄道構造規則に定める縦断勾配の最急勾配は35‰ですが、南北線では地下から高架に移る平岸―南平岸間が40‰を超える最急勾配で、ゴムタイヤのメリットが存分に生かされています。

導入当初は、騒音について鉄輪よりも優れているとされ、これもゴムタイヤのメリットとされていました。しかし、その後、レールのつなぎ目の間隔を長くするロングレールが導入され、いわゆる「ガタン、ゴトン」という鉄輪とレールが発する騒音は劇的に緩和されました。この面でのゴムタイヤの優位性は失われたとされています。

一方、ゴムタイヤのデメリットも指摘されています。ゴムタイヤの車両が採用されている路線が少ないため、車両の製造や修理コストが割高になり、また摩擦が大きいことによりタイヤの損耗が早く、これも高コストの原因となっています。さらに他の鉄道とレール構造などが異なるため相互乗り入れができないことが最大の欠点になっています。地下鉄と鉄道の相互乗り入れは、東京の旧営団地下鉄や都営地下鉄が行っているほか、名古屋、大阪、福岡の地下鉄でも行われ、利用者の利便性が大きく向上しています。過去には、札幌でもこうした検討が行われましたが、ゴムタイヤが隘路となり、検討が進みませんでした。

しかし、今後、札幌の地下鉄も大規模更新が必要となります。この際に、現在のゴムタイヤを見直せば、将来の発展に向けた一大転機となります。接続する駅とその周辺の再開発にも取り込み、札幌の都市構造を飛躍的に発展させるリノベーションのチャンスを作り出すことができます。地下鉄とJRの相互乗り入れを大規模修繕という絶妙なタイミングに合わせて実施することは、まさにこの「つなぐ」プロジェクトなのです。

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①札幌北IC~都心リンク

札幌の都市構造の弱点の一つは、高速道路が都心とつながっていないことです。東京、大阪に限らず、仙台、名古屋、広島、福岡といったわが国の大都市は、郊外の高速道路と都心を直接つなぐ都市高速道路が整備されています。札幌には残念ながらこれに相当するものがありません。このため、信号機によって停車する時間や冬季の降雪による遅延など、都心アクセスに関する効率性かつ定時性の課題がかねてより指摘されていました。この点については、平成19年に札幌市長選に出馬した清治真人氏が選挙公約として掲げていました。インフラ整備に後ろ向きであった前市長時代にこの問題が前に進むことはありませんでしたが、平成27年に新しい市長が誕生して、札樽自動車道の札幌北ICと都心を結ぶアクセス道路構想に調査費が計上されました。平成29年度の国の当初予算で、国が直轄事業としてこのアクセス道路整備を行うための費用が認められ、今後事業は一気に進むことになります。
10数年前に清治市長が誕生していれば、この事業は既に着手され、今頃は開通式のテープカットが行われていたかもしれません。札幌市民にとって重要な政策が先送りされてしまったことは残念ですが、その遅れを取り戻すべく早期の着工、完成が望まれます。

札幌市政が刷新され、重要政策が国、道、市の連携のもとに進んでいくことは非常に重要です。当面は、国土交通省北海道開発局を中心に高架橋かトンネルかなど構造に関する検討がなされ、数年のうちにこれが完了すれば用地取得がなされ、そして建設工事へと進んでいきます。地域への説明など丁寧に事業を進めることや、事業によって影響を受ける市民に十分配慮しながら、この事業を一日も早く完成させなければなりません。自民党札幌市支部連合会会長としても、札幌と国、道が一体となって取り組みが進むよう、都心アクセス道路の実現に向けて全力で取り組んでまいります。

②札幌JCTと都心の直結アクセス

さらにもう一つの高速道路と都心アクセスを考えていく必要があります。札幌の都心から豊平川に沿って東へ米里まで進むと、道央自動車道の札幌JCT(ジャンクション)があります。ここは、旭川方面とのICも設置されているので、インタージャンクションと呼ばれる交通の結節点です。

JCTとは高速道路と高速道路が立体的に交わり、双方に行き来できる地点ですが、札幌都心からこの米里ICで利用できるのは旭川方面のみで、小樽方面や室蘭方面にはアクセスできません。札幌JCTは北海道第二の都市である旭川方面に札幌都心から最も近いICでもありますが、ここも都心から離れており、札幌北IC同様に信号や雪の影響によって定時性が損なわれています。

この課題を解消するには、札幌JCTと都心を信号機なしで「つなぐ」アクセス道路を作ることが効果的です。合わせて、米里ICの構造を強化し、小樽方面と室蘭方面へアクセスできるようにすることで既存の高速道路の機能を最大限に活かすことができます。

要人が来道し、新千歳から札幌市内に車で移動する場合、警護等の観点から、札幌北ICが利用されますが、雪の問題などさまざまな課題があります。札幌北ICに加え、米里ICが利用できるようになれば代替性が強化されるだけでなく、災害時の避難路、物資輸送路としてのルートの選択肢が増える上、交通容量も増大し、札幌の強靱化向上に大きく寄与するものになります。

さらに、札幌北ICと都心のアクセス道路と、この札幌JCT―都心アクセス道路を直結させることにより、都心を含む大きな信号機のないループ道路を誕生させることができ、災害時はもちろん、日常の物流、人の往来など大きな効果が期待できます。

③丘珠空港と地下鉄東豊線の直結

札幌都心から直線距離で約6㎞と近い位置にありながら、アクセスが不便な丘珠空港を「つなぐ」プロジェクトを3つ目として提案したいと思います。

この丘珠空港の近くには地下鉄東豊線があります。現在は、地下鉄東豊線栄町駅や札幌都心からバスで丘珠空港へアクセスできますが、丘珠空港から地下鉄東豊線沿線までの最短距離はわずか約1㎞です。栄町駅から丘珠空港まで東豊線を延伸することや、新道東駅と栄町駅の間から枝線を分岐させる方法により、地下鉄東豊線を丘珠空港に直結させるべきです。現在、羽田空港と成田空港は、京急線、地下鉄都営浅草線、京成押上線と京成本線でつながっており、乗り換えなしで直通運転がなされています。本道でも、新千歳空港と丘珠空港がつながり、双方が補完しながら機能を発揮すれば、何倍もの効果が期待できます。

これまで、民間有志によって栄町駅から丘珠空港までを新交通システムによって連絡させる検討もなされましたが、主要な交通機関である空港と地下鉄をわずか1㎞程度の距離で離しておくことは、札幌市にとって大きなマイナスであり、「つなぐ」ことが都市のリノベーションを進めていく上で必要と思います。また、この丘珠空港へのアクセスは、現在札幌市が目指している冬季オリンピック・パラリンピックを誘致する上でも大変重要です

④新幹線・JR札幌駅と地下鉄札幌駅

JR北海道札幌駅の歴史は、明治14年開業の幌内鉄道(手宮~幌内)に遡ります。駅舎は何度か建て替えられ、現在は高層のJRタワーになっています。明治41年に建設され北海道開拓の村に復元されている3代目の駅舎は、とても印象深い建物でした。その後を継いだ4代目のブルーの駅舎は、私にとってもなじみの深い建物です。

札幌駅は、いくつかの節目ごとに大きく改築されてきました。第1の節目は、昭和46年の地下鉄南北線開業です。それまでの路面電車からの乗り換えが、地下鉄からの乗り換えに置き換えられました。この当時は、地下鉄さっぽろ駅から北寄りの改札を出るとすぐに国鉄札幌駅の地下改札口がありました。第2の節目は、国鉄民営化直後、昭和63年の鉄道高架化です。高架下に商業施設が整備され、札幌駅の拠点性はより高くなりました。第3の節目は、平成15年のJRタワー開業です。この間に「駅裏」であった北8条周辺でも、合同庁舎の移転、タワーマンションの建設などが進み、札幌駅周辺の集客力は一層向上しました。こうした数次にわたる改築の一方で、地下鉄とJR線の乗り換え距離が延びることとなりました。

これまでの開発で、札幌駅周辺の「重心」は北側に移動しており、今後の新幹線札幌駅開業を控え、札幌駅北口エリアはさらなる開発計画が進められています。朝晩の混雑や乗り換えに要する時間、地下鉄を降りてから目的地となる施設へ到着するまでの時間はさらに拡大することが考えられます。札幌市は冬季オリンピック招致の目標を2030年に変更しましたが、このためにも国際都市札幌の玄関機能の強化は必須です。

こうした状況を踏まえ、地下鉄さっぽろ駅と地下鉄南北線北12条駅の間に新駅を設け、地下鉄とJR・新幹線を北口でも直結することにより、こうした課題の改善を図るというのはどうでしょうか。地下鉄とJRの乗り換えが駅の南北双方で可能となれば、混雑は緩和され、街の回遊性はより高まります。

仮に北口新駅を整備することにより、札幌駅を利用する約10万人が毎日5分間移動時間を短縮できるとします。国土交通省の費用便益マニュアルや厚生労働省の賃金構造基本統計調査などを参考に、1分当たりの時間価値を25
円と仮定して1年間の時間便益を試算すると約25億円となります。10年で250億円、30年で750億円、50年ではゆうに1000億円を超える社会的便益が発生します。一つの駅を建設するには数百億円程度の投資が必要ですが、新駅建設の効果は極めて高いと考えられます。検討に値するプロジェクトではないでしょうか。

⑤東豊線の延伸⑥東豊線と東西線の相互乗り入れ

「地下鉄をどこから入れるかわかりますか? 考えると寝られなくなっちゃう」という漫才のネタがありましたが、地下鉄には車両を出し入れするために地上とつながる車庫があります。通常は路線ごとに設けられ、南北線であれば真駒内、東西線であれば二十四軒に設置されています。しかし、東豊線にはこの施設が設置されていません。その代わりに東西線と行き来できる渡り線を設けて代替しているのです。つまり、東西線と東豊線はすでに「つながっている」のです。

現在、東豊線には福住駅から清田方面へ延伸する議論があります。この延伸を清田区民を含めた多くの札幌市民にとってより価値の高いものにしていかなければなりません。福住駅から離れている札幌ドームに直結させた上で、清田を通って、さらに大谷地―ひばりが丘間で東西線に「つなぐ」のです。延伸距離は、福住駅から札幌ドームを経由して東西線に連絡するまでの5㎞程度です。本線の建設費用の他、東西線との乗換駅の増築などの経費が見込まれますが、東西線と東豊線の相互乗り入れを行うことで、新札幌、江別、千歳方面から、札幌ドームへのアクセスは飛躍的に向上します。また、清田で分岐し、北広島のボールパークへの延伸も期待されてるのではないでしょうか。

⑦東豊線と南北線の相互乗り入れ

次に、東豊線と南北線を「つなぐ」ことに触れたいと思います。両線は、大通駅と札幌駅で乗り換えが可能です。しかしながら、約400mの移動距離があり、徒歩移動に5分程度を要します。決して利便性が高いとはいえません。一方、南北線平岸駅と東豊線美園駅は意外と近接しており、1㎞余りです。ここを「つなぐ」ことで相互乗り入れが可能となるのです。札幌ドームと北区方面が円滑に連結されることになり、後述する麻生駅と新琴似駅を「つなぐ」ことで、さらに利便性が高まります。

⑧地下鉄と地上の鉄道の相互乗り入れ

もし、札幌の地下鉄がゴムタイヤではなく、他の多くの都市と同じように鉄輪であったならば、地下鉄と地上の鉄道などの相互乗り入れが札幌でも実現していたかもしれません。軌道のシステムを交換することは相当な労力と経費を必要としますが、相互乗り入れによる効果は絶大ですので、あえて触れたいと思います。

北海道では例がないため道民の皆さんにはピンと来ないかもしれませんが、東京を中心とする関東エリア、京阪神、名古屋の他、福岡などでも地下鉄と地上の相互乗り入れが数多く行われています。東京では、相互乗り入れをしていない地下鉄の方が少ないぐらいで、東京を中心に茨城県の取手市、千葉県成田市、埼玉県川越市、神奈川県横須賀市等々、東京30―50㎞圏内から都心まで乗り換えなしで行き来できるのです。

乗り換えが解消されることによるメリットは時間短縮ばかりではありません。平成20年に開業した東京メトロ副都心線は、渋谷・新宿・池袋と接続し、第二の山手線ともいわれますが、この地下鉄は実に東武東上線、西武池袋線、東急東横線、みなとみらい線と相互直通運転をしています。このように、東京では郊外から都心に直接乗り入れができることで、都市へのアクセスが高まり、周辺との交流がより促進されています。

札幌の市営地下鉄もさまざまなハードルはあるものの、地下鉄とJRの相互乗り入れが実現できれば、その効果は大きいと思うのは私だけでしょうか。

具体的には、現在新さっぽろ駅まで延びている地下鉄東西線をJR函館本線まで延伸する方法や、ひばりが丘~新さっぽろ間で分岐してJR千歳線と乗り入れる方法、東豊線の延伸区間をJR千歳線まで延ばす方法などが考えられます。これにより、江別方面もしくは千歳方面から地下鉄を通って、大通や豊水すすきのへ直接アクセスすることができるようになります。さらに、地下鉄東西線を宮の沢駅から小樽方面に延伸することにより、小樽方面の函館本線とも相互乗り入れが可能になります。前述しましたが、東豊線を丘珠空港まで延伸することと、東豊線の千歳線直通を行うことにより、新千歳空港と丘珠空港が1本のレールで結ばれることになります。

⑨南北線のJR新琴似駅直結

地下鉄南北線麻生駅は札幌北部のターミナル駅として、多くのバスが発着し石狩方面も含めた交通拠点として重要な機能をもっています。しかし、残念なことに、JR学園都市線の新琴似駅と400m程度離れており、乗り換え需要があるにも関わらず利用が少ないのが実態で、ここもあとわずかな距離を延伸し「つなぐ」ことで利便性を高めることができます。

北九州市には、中心駅として小倉駅があり、また、札幌の市営地下鉄に相当するモノレールが整備されています。開業当初、このモノレールと国鉄小倉駅は約400m離れており、乗り換えのために市民はこの間を歩いていました。しかし、平成10年、このモノレールが一駅延伸され、JR小倉駅の新しい駅舎にモノレール駅が完成しました。新幹線の改札を出るとモノレールの車両が目に飛び込み、駅のコンコースを挟みすぐにモノレールの改札があります。さすがに、相互乗り入れはなされていませんが、極めて利便性の高い乗り換え環境が整えられています。わずか400mの延伸により、モノレールの利用者が増加しただけでなく、数字には表れない利便性向上による市のイメージアップは大きなものがあったと思います。組織の違いを乗り越え、地下鉄麻生駅とJR新琴似駅をつなぐことは大きな意味を持つでしょう。

⑩新幹線の新千歳空港延伸

以上の9つのプロジェクトに加え、これまでにも述べてきた新幹線の新千歳空港延伸を加えた10のミッシングリンクを結ぶプロジェクトを道都札幌のリノベーションにつながる北海道200年戦略として提案したいと思います。