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ムーガタはかつては安かったが

 ペッブリー通りとアソーク通りの交差点近くに「ファミリー」というムーガタの食べ放題店がある。かつてはペッブリー通りに住んでいたこともあって、結構使った。2003~2004年とかそれくらいの話だ。ネットで見ていたらまだやっているようで、懐かしくなった。

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 最寄り駅はMRTペッブリー駅、もしくはエアポートリンクのマッカサン駅だ。当時はMRTはできたばかりで、エアポートリンクの駅は影も形もなかった。

 今は目の前がシンハ・ビールのビルなのか商業施設になっているはず。前はここに在タイ日本大使館があった。領事部はアソークの中ほどよりスクムビット通り寄りに。

 ファミリーの隣は今は派手なマッサージパーラーじゃないかな、確か。かつてはここも違くて、地味なマッサージパーラーだった。モナリザって名前だった気がする。見たことはないけれども、2階にロシア人と日本人女性がいたって言われていた。20年くらい前は「あの店に」とか「どこそこに」って日本人女性が売春している噂があちこちにあったもので、そのひとつだ。でも、ロシア人は本当みたいだったな。ロシアというか、そっち系というか。

 さらにその横にサイアムホテルがあって、いわゆるタイ人向けのテーメーカフェなんて言われてた。その名残というか、ホテルがなくなってサービス自体はファミリーの裏の、国鉄線路沿いに移っている。たぶん今もいるでしょう。

 会社員時代は一時期、このファミリーの駐車場を使っていた。会社はアソークにあり、そのビルだと駐車場料金が月に1500バーツくらい。このファミリーは昼間はやっていないので、夕方まで月極で駐車可能だった。2009年ごろの話で、月300バーツだったかな。

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 これは数年前に撮ったもので、当時は129バーツで食べ放題、229バーツでシーフードも食べ放題。今はムーガタだけで199バーツ、シーフードつきだと399バーツらしい。数年でこの値上がりってすごいな。

 ボクが行っていたころはもっと安かった。というか、そもそもシーフードはなかった。シーフードがムーガタで普通に見られるようになるのは2005年以降だったはず。このころは飲みものは別で、食べ放題だけで100バーツしていたかいなかったとか、そんな感じだったような気がするけどな。

 このファミリーがよかったのは、ちょっとだけ日本の焼肉的なタレがあったことだ。当時も日本式の焼肉店はあったけれど、ボクらみたいなのが行けるほど安くはなかった。タレだけを買って行くなんて発想もなかった。あのころのバンコクは「ないもの」が多かった。その中で生活して、日本の焼肉みたいなのに飢えてきて、ファミリーに行けばタレがちょっとだけ日本ぽいって感動してたんだ。

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 ムーガタは日本のジンギスカン鍋のような鉄板で焼く。直訳すればムーガタは鉄板ブタである。でも、これはバンコクでの呼び名で、ボクが初めて食べたのはコラート(東北部のナコンラチャシマー県)の店だった。そこでは「ヌアヤーン・ガウリー」と呼ばれていた。直訳は韓国焼肉だ。

 ムーガタと東北地方のヌアヤーン・ガウリーは基本的にはイコールで、バンコクに来たときにムーガタに改名されたと記憶している。バンコクにはすでに韓国式焼肉があったからなのかと思う。当時もチェーン店のバーベキュープラザはあった。あそこはどっちで呼んでたかな。

 いずれにしても、ムーガタはバンコクのブタ焼肉食べ放題につけられた名称で、コラートなどでは今でもヌアヤーン・ガウリーと呼ばれる。東北地方にも近年は食べ放題の店も出てきて、店によってはムーガタを名乗る。つまり、食べ放題=ムーガタという認識なのかもしれない。ちなみに東北ではセット料金になっていることが一般的。120バーツとかで2人前くらいの肉が来る。でも、この方が総合的には安い。

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 ちなみに、なぜ韓国式焼肉なのかというと、プルコギを原型にしていると言われるからだ。韓国、あるいは北朝鮮ではプルコギをジンギスカン鍋みたいな鉄板で焼くようで。

 ただ、これがどうやってタイに伝わったのかがよくわからない。タイ人は古いことに興味がないので、ヌアヤーン・ガウリーの出自なんて誰も憶えていやしない。

 有力説としては、タイ陸軍が朝鮮戦争に連合国側として参戦していることが理由ではないかとされる。終戦当日まで日本と同盟だったのに寝返った以上、連合国軍として出兵することを拒否できないから行ったのでしょう。当然、タイ軍の兵士は下っ端が行くわけで、徴兵で東北人が参戦したのではないか。その中にウドンタニー県出身者がいて、戦地で食べたプルコギをウドンタニーで再現したのが始まりではないかという説があるそうだ。

 最近はタイ人も牛肉を食べる人が増えてきたし、オンヌットなどにあるベストビーフも人気がある。そしてその類似店も今増えている。ベストビーフはベトナムとかカンボジアの焼肉みたいに、鉄板に油とマーガリンを入れてぎっとぎとにして食べるのだが、ベストビーフでタイにも広まった。どうもこのファミリーもそこに入り始めているようで、鉄板にマーガリンで焼くバージョンも始めているっぽい。

 また、口コミではシーフードのうち、エビは生け簀から出してくれるらしく、鮮度がいいんだとか。そう考えると399バーツはそれほど高くない。

 とはいえ、ムーガタもそろそろバリエーションに限界が来ている。いや、とっくに来ているか。ソムタムやイサーン料理が原点回帰したり、あるいは高級アレンジしたりなどがバンコクでは見られるので、ムーガタもそろそろ高級バージョンが来るのではないかとボクは期待している。

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