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アトピー性皮膚炎患者の私は、「自然派」を好まない

自分の人生と身体を賭けた、壮大な「実験」

随分壮大なサブタイトルだが、実際に私本人にとっては大げさではないことをまず断っておく。

私の身体は、産まれた頃からアレルギー疾患の宝庫だった。
気管支喘息は起きなかったのが幸いだが、食物、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎、しまいには予防接種で具合が悪くなったりもした。
アナフィラキシーショックを起こすものがないのは不幸中の幸い。だけど、給食のそばを無理やり食べさせられて死んでしまった生徒さんのニュースは子供の頃に観ていて、他人に食べられないものを無理に食べさせることの罪深さを知ったりはした。

今はアトピー性皮膚炎と鼻炎がひどい。

皮膚炎の原因は、第一にはストレス(笑)。
物理的には、部屋の乾きにも弱いし、夏の汗にも弱い。
熱刺激にも弱いので、ぬくもりは敵。というと語弊があるね。室温ではなく、衣服の厚着やお風呂の長湯のように、肌に火照るほど熱を加えられると耐えられない。(補足:寒くならない程度の厚着や行水程度の入浴はする)

どこかで「アトピー患者は身体の芯が冷たくなりがちなので、温めよう」などと読んだ気がするが、あれは因果関係が逆だと思う。身体の内部を温めるのは問題ないけど(鍋料理とかね)、肌から暖めるとあるラインから非常にキツくなるのだ。

あと、自律神経のうち副交感神経の方がかゆみを引き起こすらしく、寝る時が一番かゆい。ただでさえかゆいのだから掛け布団を掛け過ぎるとダブルパンチ。だから蹴る(笑)。完全に眠れるところまで意識が落ちれば、寒くなるので自然と手が掛け布団を引っ張ってくる(笑)。

なかなかに壮絶でしょ?
でも私の場合、目に見える部分はきれいだし、今は汁・膿の類は出ていないわけで、これでもマシなうちだと思う。

これだけ制限があれば、当然ながら生活そのものが皮膚を気遣っていくものになってしまう。

とはいえ、低刺激だからと高価な絹の下着をバンバン買うようなお金もないわけで、どの程度気遣えば生活に差し支えがないかを探り探り生活しているのだ。

このような「実験」は、幼い子どもであれば保護者の方が試行錯誤しなければならないだろうし、我々のようにずっと治らなかった者にとっては、自身の問題としてやっていかなければならないものだ。

先に書いた通り、症状は人によって千差万別。一口に「皮膚が弱い」といっても個体差がありすぎる。
素人判断の「あの子が良かったからウチの子も」は通じないものと思っていただきたい。そのくらいこの「実験」は過酷だ。

自然は、時に身体を蝕む 

先述のニュースを知るまで、私は死に至るアレルギーがある、ということを知らなかった。子供の頃に知っておいて良かったと思う。(その方が亡くなってしまったことは本当に痛ましいし、犠牲者が現実にでているのに無理解が横行していることが悔しい。)

この話を引き合いに出したのは、そばという加工度の低い自然の食材でさえ、ある人にとってそれだけ怖いものなのだ、と思ってほしいからだ。

私の皮膚炎に置き換えると、こうなる。

・綿100%の下着でも、ワッフル織りの生地はかゆくなる

・素朴な天然素材を謳った石鹸で、なけなしの潤い成分をもっていかれてかゆくなる(石鹸に「潤い成分」が入っていても、である)

驚く人は意外に多いんじゃなかろうか。
アトピー患者の家族のために、こういうものをわざわざ探して買ってくれている人もいるはずだ。もちろん、その患者さんに合っていればそれで良い。でも合わない人もいる。

私の場合、他の綿100%生地の下着なら着れるし、石鹸は弱いボディソープを使っている。ボディソープは、非常に悪意のある言い方をするなら合成で作られたものなわけ。けど、私にとってはこちらの方が“やさしい”ことがわかっている。もし今、肌を壊す石鹸を無理やり使わされたならば、そこに悪意をみるだろう。

アレルギー症状にはスギ花粉症のような人為的に増やされたものはあるけど、ある患者によっては医療はもちろん、工業製品の発達によってかえって暮らしやすくなった可能性もあると思う。
昔なら、私みたいのはまともに生きられてなかったかもしれないもの。

ちなみに、私の身体の「実験」では、化学繊維も完全に避けなければならないわけではないことがわかっている。下着は綿95%ポリエステル5%は許容範囲。冷感アイテムのレーヨンはOK。最近はしっとり感をうたった服などが出てきて、(綿の下着を着用する前提で)結構イケたりする。こんなのも試行錯誤の結果だ。

「自然派」の押し付けは、相手の尊厳を無視している

↑こう書くと、アレルギー患者の幼いお子さんを持った保護者の方を大きく傷つける気はするけれど、「自然派アイテムならきっと子供が楽になるんじゃないか」と思って、いろんなものを探して回っている、あなたを攻撃したいのではない。

そんな保護者の苦しみを利用して儲けている者と、家族の苦しみなんか関係なく「自然派」信仰を続ける者(自分一人でやる分には全然OK)のことを言っている。

こういう者達(あるいはお前ら)が、我々の人生を賭けた壮大な「実験」のノイズだ。
悩める患者、悩める保護者の尊厳を無視する敵だ。

こういう無責任な者達に苦しめられた人々は、怒りを表していいのではないかと思う。

もちろん、例えば肌に優しそうなアイテムを使う「実験」そのものはやっていいものだ。その中に「自然派」アイテムが混じるのは至極当然だ。と同時に、駄目ならすぐ打ち切れるようにすることも大事だ。

自然派アイテムでも何でも、「本人にとって害がないもの」が正義だ。
そして、たとえ自分にはあっていても、他の人に「○○だけあれば(すれば)いい」という言い方はしてはいけない。合わないものは合わないんだ。

自然は全てが人間に優しいわけではない。というより、どうも人間が自然の毒に強過ぎるらしいから、「人によってはある毒に弱い」というケースがあるのは生き物として当然のあり方なのかもしれないよ。

自分にとって毒か否か、結局のところ「実験」を積み重ねて初めてわかること。検査結果や自分の経験から、これは良い、これは駄目、と取捨選択していくしかない。

医療が優秀なのは、同じ症状の患者とその治療データをたくさん集めているからで、「実験」のショートカットができる点。だから積極的に利用したほうが良い。
反対に、一人二人にとって良かったから、というだけのやり方は押し付けていいものではない。利用したくなった人も「治った患者A=自分(ないしうちの子)」じゃないことを踏まえてからにしてほしい。

おまけ。

・アトピー性皮膚炎治療に使うステロイド軟膏は、ケガでいうところの止血帯。一時的に炎症を止めるのに使い、肌が綺麗になってきたら自然に使う必要がなくなっていくとのこと。お医者さんの言う通りに数ヶ月だけ使って、一気に治そう。

・アレルギー患者の保護者は過保護になりがちといわれる(私の親もそうだ)。
ある程度の年齢になったら、自分の体質についての意識を本人にも持たせ、時には判断を任せることもした方がいいと思う。アトピー患者であろうと小学校高学年くらいになれば自分で服を選びたくなるだろうし、予算の範囲で(笑)見た目と肌触りが気に入る服を選ばせても良いんじゃないかな。

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