
ただの「幸せを呼ぶたぬき」
「たぬき」の置物を購入した。

雑貨屋でたまたま見かけて、その可愛らしい姿にすっかり心を奪われてしまい、すぐに「欲しい」と思ったのだが問題は値段であった。
その値段たるや、少々躊躇してしまうほど。
そのため、棚の前で「う~んう~ん」と腕を組んで悩んでいると、その様子を見ていたのであろう若い女性の店員が近づいてきて、この「たぬき」がどれだけ素晴らしいものかを説明し始めた。
「これは”ちぎり和紙”で作られているんですよ」
「和紙だからとても軽いんですよ」
「うちにはこれひとつしかありませんよ」
「たぬきは縁起モノなので、家に置いておいたほうがいいですよ」
と、どうしても私に買って欲しいようであった。
むしろ買わないと帰らせてくれなさそうであった。
それでも私が「う~んう~ん」と悩んでいると、痺れを切らしたのか突然、
「実はこのたぬきは”幸せを呼ぶ”といわれている」
「私の家にもこれとは違うたぬきが置いてあるのだけれど、仕事が急に上手くいくようになった」
と、今度は雑誌の広告によくある胡散臭いブレスレットの売り文句のようなことを言い始めた。
残念ではあるが、私と同じように可愛いだけが取り柄のこのたぬきが”幸せを呼び込む”とは到底思えなかった。
このたぬきを買い、このたぬきを家に置くことで、憧れの西野七瀬さんとお近づきになることができるのだろうか?
このたぬきを棚に飾ることで、毎日PCの前でパンツを下げているような私の身に、大金が舞い込むようなことがあるのだろうか?
大きな仕事が舞い込むことがあるのだろうか??
そんなことがあるはずがない、ちゃんちゃらおかしい話である。
そんなことで幸せになれるのならば、今頃みんな持っているはずだ。
「まったく、ふざけた話だ」
私はそう思うと、「じゃあ、買います」と購入を決意した。
思えば人というものは、誰しもが、何かしらのモノに縋って生きているのもである。
モノには神様が宿るというし、この”たぬき”をダメなモノだとすぐ判断するのは時期早々だ。
「もしかしたら・・・」という可能性もあるだろう。
困ったときの神頼みならぬ、”たぬき頼み”に賭けてみることにしたのだ。
家に帰り、さっそく机に飾ってみた。
すると、驚くことにすぐさまこの”たぬき”が効果を発揮したのである。
なんと、何とはなしにAmazonを開いて調べてみたところ、まったく同じものが「1900円」という破格の値段で売られていたのだ!

「いやあ、倍くらいの値段で買ったのに、1900円で売られているの見つけられてラッキー!幸運だぜ!!」
と、私は涙ながらに喜んだという。
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