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ダウンロードしたデジタルコンテンツのさらなる譲渡に譲渡権が及ぶのか

雨の中をあじさいが美しく咲き乱れる季節になりました。

写真は、3年前、2017年に東京都大田区のあじさいの名所、多摩川台公園で撮影したものになります。

このnoteに載せている写真は、(私の顔写真を除き)すべて私が過去に撮影したものです。

[1]そもそもどうして中古本やCDの販売はOKなのか

大手の古本屋に、本やCDを売る。そして、古本屋がその中古本や中古CDを販売する。これは通常、著作権侵害になりません。

著作者には、その著作物(映画の著作物を除く)を原作品や複製物を譲渡により公衆(特定かつ多数を含みます)に提供する権利があります。これを譲渡権といいます(著作権法26条の2第1項)。

ところが、いったん適法に流通に置かれた原作品や複製物については、譲渡権が制限されます。

著作者など譲渡権を有する者や譲渡権者の許諾を得た者によって公衆(特定かつ多数を含みます)に譲渡された著作物の原作品や複製物については、譲渡権が及びません。

いったん適法に流通に置かれた本やCDを大手の古本屋に売り、その古本屋がその中古本や中古CDを販売したとしても、そこに譲渡権が及ばないのです。

いったん適法に流通に置かれた(第一譲渡=ファースト・セールの)時点で、譲渡権は消尽したといえるのです(著作権法26条の2第2項)。

[2]中古のゲームソフトの販売はOKなのか?

ところで、映画の著作物については、譲渡権ではなく、映画の著作物をその複製物により頒布(公衆に譲渡又は貸与)する権利があります。頒布権といいます(26条)。頒布権については、著作権法には消尽の規定がありません。

ゲームソフトは映像表現を含むものであり、映画の著作物の一種とも考えられます。

かつて、中古ゲームソフトを販売することが許されるのかが問題になりました。

最高裁は、市場における商品の自由な流通の必要性と、第一譲渡の際に代償を確保する機会が保証されており再譲渡された著作物について著作権者が二重の利得を得ることを認める必要がないとして、劇場上映用のフィルム以外の映画の著作物については、頒布権の消尽が認められるとしています(平成14年4月25日最高裁判決:中古ゲームソフト事件)。

このため、大手の古本屋がいったん適法に流通に置かれた中古ゲームソフトを販売したとしても、これは頒布権の侵害にはならないのです。

[3]では、デジタルコンテンツのさらなる譲渡は?

それでは、ダウンロードしたデジタルコンテンツが不要になった場合、それを譲渡することは許されるのでしょうか。再譲渡することは譲渡権の侵害に当たらないのでしょうか。

ヨーロッパやアメリカ合衆国では、様々な議論・判断がなされています。

欧州司法裁判所は、2012年7月3日に、適法にダウンロードしたソフトウェアについて、その譲渡権が消尽していると判断しています。

日本の著作権法の解釈においても、最高裁は頒布権について明文なき消尽を認めていますし、ダウンロードしたデジタルコンテンツについても、有体物と同様に、商品の自由な流通の促進など消尽を認めるべき場合があるのではないのか、第一譲渡の際に代償を確保する機会が保証されているのであれば再譲渡について二重の利得認める必要はなく消尽を認めることは許されるのではないのか、といった点から、デジタルコンテンツについても消尽が認められる余地はありそうです。

現に、正規ウェブサイトからの配信により適法にダウンロードされた著作物の複製物は、その所有者が自由に譲渡することができ、譲渡権や頒布権の侵害には当たらないという見解があります。(島並良「デジタル著作物のダウンロードと著作権の消尽」高林龍・三村量一・竹中俊子 編集代表『知的財産法の国際的交錯』228頁)

現時点では、裁判所の判断はありませんが、一定の場合には、ダウンロードしたデジタルコンテンツのさらなる譲渡が、譲渡権等の侵害に当たらない場合がありうる、といえそうです。

[4]デジタルコンテンツを販売する側はどうすればよいのか?

逆に、デジタルコンテンツを販売する側は、購入者によるさらなる譲渡が譲渡権等の侵害に当たらないとされてしまうリスクを考慮して、対策を講じる必要があります。

現に、多くの場合、DRM(Digital Rights Management、デジタル著作権管理)でガチガチに固めています。

多くの電子書籍ストアでは、ストアで「購入」したコンテンツについては、あくまで指定の端末やアプリを用いて、そのコンテンツの閲覧や表示ができるに過ぎず、他者にそのコンテンツを譲渡することが技術上できない状態になっているのです。

例えば、何らの制限措置を講じない状態の情報商材等のコンテンツを販売し、その情報商材を購入した者が第三者に譲渡したとしても、そのことについて、情報商材の作成者が、譲渡権侵害を理由に損害賠償請求や譲渡の差止めを主張することができるかというと、できない可能性が相当程度あると考えたほうがよさそうです。

多治見さかえ法律事務所は、著作権を含む知的財産権の分野も注力分野としています。東濃・中濃地方で著作権の問題でお悩みの方はご気軽にご相談ください。

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