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(5)イーグル・ワン と ブロークンアロー?


 カラカス空軍基地を飛び立った自衛隊機の中に、旧式の戦闘機が1機加わっていた。2座式のF15J改で30年以上経つ古い機体だが、デザインは色褪せておらず、A-1機の中に混じっていても、違和感は無かった。
不思議なもので、久々に戦闘機に乗ると血が滾った。これはやはり麻薬のようなものだな、と実感していた。2年振りになるのだろうか・・

カリブ海は、雨季が始まるのか雲の多い日だった。それでも雲上に上がれば南国らしい日差しが射していた。雲の切れ間から日差しが海面に当たって波に揺られて輝いている。
戦闘機である必要はなかったのだが、民間機とは異なるコクピットに座ると、感覚自体が鋭敏になるのが分かる。明らかに民間機では得られないものに興奮してしまう。
最大の違いは速度だ。マッハの世界は戦闘機の方がやはり相応しい。のんびり飛んでいても、ハイチまで30分もかからずにやってきてしまう。そんな速度で飛ぶので全然エコな乗り物じゃないと娘達に言われてしまうので、次はツインエンジンではない機種、F2かF16にしようと漠然と考えていた。

「こちらカラカス3、只今ハイチ上空を移動中。ハイチ管制、聞こえますか?」ポートフランス基地に編隊長がコールする。高度をゆっくりと下げて雲を潜ると、イスパニョーラ島全景を視野に入れる。後部座席の御仁に分かるように、右側の窓を叩いて、そちらを見るように促す。

「カラカス3、ようこそハイチへ。そのまま降りてコーヒーでもいかがですか。ハイチの今年のコーヒーは中々です。今年の豆はAIロボットが育ててくれたんです」

「それはいい。でも、目的地はグァテマラなんだ」

「え?そりゃまた、随分遠回りですね?」

「今日はセキュリティフライトなんだ。イーグルワンとランデブー中だ」

「あぁ、なるほど・・大統領、初めまして。聞こえますか?」

「こんにちは。まさかこの編隊にイーグルが居るのは場違いなんだけど。2シーターがこれしかなかったんだ・・」

「そいつは、どなたのアイディアなんですか?」

「あー、今度着任した防衛大臣の・・」

「こんにちは!櫻田です。ハイチにも今度伺いますね!」後部座席の櫻田深雪外相兼防衛大臣が叫ぶ。

「おい、もう少し声を落としてくれよ。大声出さなくても聞こえてるから・・」

「りょうかいっ!」 周りの機から失笑が聞こえる。

「大臣、先日の就任会見はお見事でした。日本では出来ませんね、ありゃ」

「ありがとうございます。戦闘機で現地入りも日本じゃ出来ません。一度、やってみたかったんです」

「やってみたかっただと・・」

「あー、大変失礼しましたぁ! 燃料分、減俸しといて下さい!」
ヘルメットの中を笑い声が重なり合う。

「大臣、最高です。気に入りました。今度ハイチに来たら、ハイチ料理を用意してお待ちしています」

「ありがとうございます!楽しみにしています!ハイチ名物ってどんな料理なんですか?」

「あー、ヘビとコウモリとどちらがお好きですか?」

「へっ、ヘビですか?」
今度は大爆笑だ。そんな料理は誰も食べたことがない。

「ええ、トマトソースでコトコト煮込むと、得も言われぬエキスが滲み出てくるんです。ハイチの男たちの強壮剤なんです。世界中の男のロマンなんですよ、ヘビって」
笑い声が止まらない。いつから自衛隊はこんな下品な管制官を置くようになったのか、平和な時代になったものだ。

米空軍基地での訓練とは異なり、F15Jを大人しく乗っていた。もう少し若ければ、飛ばしていたかもしれないが、もはや、そんなものは目的でも何でもなかった。アドレナリンを増幅させ、血湧き肉躍らせるのは老体には刺激が強すぎる。脳梗塞や心筋梗塞、クモ膜下出血を引き起こして墜落するのが関の山だ。目的は極めて単純。ただ、自分の中にある「感覚」を残し続けたいだけだ。
それと、このイーグルがベネズエラにあるのなら、出来るだけ延命させて上げたい、乗ってとても気に入った。南部の基地ではAIを搭載したF15Jがスクランブル機として就役中だ。司令官がF15の運動能力と性能を理解していれば、他国の戦闘機と交戦した場合、相手との能力差を感覚的に理解出来るかもしれない。交錯地点までに攻撃パターンをAIと練り直すなど、直前まであの手この手を想定できるかもしれない。サッカーと一緒だ。勝率を少しでも上げる努力が出来る。
国防を考える上で「経験」は最も必要な要素だと考えている。空幕のトップは戦闘機乗りだった人のほうが相応しいし、海幕は護衛艦や潜水艦の艦長経験者が相応しい。艦船や航空機で過ごした経験のない人間に、とっさの判断は出来ないし、隊員達が置かれている現状を瞬時にイメージ出来るとは思えない。交戦だけでない。兵器の寿命や限界性能を理解し、作戦中の自衛官の保全を常に案じる能力がある者が、統率すべきだ。
確かに、自衛隊には無人機や無人船があるが、有人兵器も数多ある。自衛官の生命を預かる責任ある立場なのだから、兵器や装備、天候、地形、海域等の知識を踏まえた総合判断能力は必要だ。
一方で、兵力を過大解釈して、力を誇示するようになると極めて危険だ。無能が武器を手に入れると世界が揺らぐ。歴史が全て証明している。90年前の日本軍であり、天安門事件の人民解放軍であり、旧ミャンマー、タイ王国の軍隊が頻繁にクーデターを起こし、自国民を殺めてしまう。
防衛大臣は必ずしも自衛隊経験者である必要はないが、兵器に明るい人のほうが好ましい。阪本さんや櫻田が「やってみたい」と直訴したと聞いた時は、驚いた。よくよく考えれば2人共自動車だけでなく、ライダーでもある。まさか国防にも明るかったとは知らなかった。

米軍無しでも、防衛可能な諸島国家を目指して日本は取り組んできた。今では世界でもユニークな防衛力を手に入れ、世界の国防のバランスを支えている。防衛省と秘かに掲げた構想案が、実を結んで「今」の世界があり、 「その次」の未来がこの先にある・・

「・・そろそろ通信圏外です。大統領閣下、失礼致します」

「ありがとう。ではまた」通話を切ると、雲を突っ切って再び雲の上へ向かう。「うおっ」櫻田が反応する。フワリと浮遊感に包まれたからだろう。周囲のA-1が後から付いて来る。少し加速しようとバーナースイッチを解除する。管制官も感知しただろう。

「はい、失礼します。大臣、大統領の手荒い操縦に気をつけて下さいね」

「ありがとうございます、失礼しま・・うわっ、ちょっと!」

バーナーオンして、グアテマラめがけて一直線に飛んでいく。F15だって、2020年まで製造していた。この改良機も日本製エンジンに換装している。しかし最新鋭のA-1は、目いっぱい飛んでいるF15を、何なく追尾してくる。出力半分といった所だろうか・・だとすれば、こちらがとばさなければならない。

しかし、このカリブ海は航空自衛隊の制空権になったんだなと実感する・・

ーーーーー

自衛官達もモリが航空機を操縦出来るのは知っているので、基地に現れてパイロット達と一緒になってブリーフィングを受けている光景に、あまり違和感を感じなかった。
事務総長時代は、空軍基地で度々F16に乗っているのは知っていた。そもそも、そんな国連事務総長や議員が居るなんて、聞いたことが無い。

カラカス基地司令は、外相がF15に乗り込むのを手伝っているモリを見て、不思議な人だと思っていた。日本の政治家が、国連事務総長になって、米軍基地で戦闘機に乗るのを覚えて、今やベネズエラ大統領だ。しかも、極秘だが未だにAIシミュレーター機のエースパイロットだ。あの60過ぎの御仁に、空自のAIパイロットは誰も敵わないという事実を知っているのも一握りの高官だけだ。たまたま、このカラカス基地の司令だから自分も知っただけで、大統領と関わりのない基地の司令はモリが空自のエースだなんて、知らない。これは、日本の首相も勿論、海外の首長も知らない。
実際問題、もの凄い事なのだ。そもそも、飛行訓練時間など大統領にはないのだから・・

米国国防総省・ペンタゴンでは、グァテマラシティの空軍基地に着陸した自衛隊機の分析をしていた。唯一、傍受できたのは着陸承認を基地管制と交わした音声と、F15機のみだった。その声の一つが軍のデータベースに一致した。一致した音声は、ワシントンDC・ボーリング空軍基地で訓練中の前国連事務総長だった。全員が「まさか!」と顔を見合わせたが、/BMのコンピューターは「Collect(一致)」と表示していた。

国防長官がその話を聞き、ボーリング基地の司令に連絡を取った。
「事務総長はね、面白い飛び方をするんです。機体をスライディングさせたり、フェイントをつかったりね。息子がサッカー選手だからねって、おかしな事を言ってましたよ」

「司令、陸軍出身なのでよく分からないのだが、戦闘機をスライディングやフェイントなんて簡単に出来るものなのだろうか?」

「いえ、少なくともウチのパイロットは完全に再現出来ませんでした。多少は出来ても、事務総長みたいに器用には出来ませんでしたね。事務総長は大きくスライディングして、フェイントも本格的なんです。それは機体を滑らすことが自在に出来るからです。
シミュレーター機でも事務総長はやってくれましたが、操縦桿とスロットルを微妙な操作をするんです。あれは、まさに神技ですよ」

「・・ありがとう。また伺うかもしれません」

「いえ、何時でもどうぞ。ご連絡有難うございました」

驚いた。そんな操作が出来たとして、AI戦闘機がモリの真似ができるとしたら・・しかし、50過ぎの手習いにしては、些か刺激的過ぎませんか?ベネズエラ大統領閣下・・国防長官は思わず笑ってしまった。
今のモリの年齢は63だ。自衛隊は戦闘機搭乗を認め、しかも年代物のイーグルを飛ばすだなんて・・実に羨ましい組織だ。

ーーーーー

既に5節目、この日は兄弟対決 長男所属チームのホームゲームで3男のチームを迎え撃つ。長兄のチームは1勝1分2敗 3男のチームは2勝2敗とスタートはどちらも良くない。日本のチームは有力選手が抜けると完全に別のチームになってしまう。それだけレベル差がまだある。サッカー人口も伸び悩んでおり、少年サッカーチームも旧態依然のままだ。
上手な子はクラブのユースチームに通えるが、そこで頭角を現すと、今度は青田買いで海外のチームがさらって行ってしまう。結局、日本のレベルの底上げにはつながらない。
では中高大学はどうかと言うと、これも強いチームにばかり集まってしまうので、対戦相手の問題が出て来る。拮抗する相手と戦うためには県を跨がねばならない。高々練習試合をするために、時間をかけて移動する。結局、選手層が手薄なままなのだ。

圭吾も母校を見学に行ったが、父親以降の監督はサッカー経験者ではないので、組織プレーのバリエーションが少ないように見えた。実際、大会も2回戦突破するかしないかだと言う。
「限られた戦力で戦うにはどうすれば良いか」これが考えられるコーチが居なければレベルも上がらない。どうしても「上手い子」頼みのサッカーとなり、その子を活かすチームが出来上がる。個人的な不調や、上手い子が封殺されてしまえば、それで負けが確定してしまう。
「モリ先生と息子さん達が居たから、強かった」と、この学校でも一括りで纏められてしまうが、突出したものが無かったからこそ、戦術とパターン数を増やして攻略するしかなかった。それを考えるのも、父だったが・・。
相手に合わせてポジションも変えたし、練習のメニューも変わった。確かに父親に分析能力があったから、相手を困らせる事が出来た。

そう考えていたら、大統領も監督も、似たようなものではないかと気が付いた。重みは違えど、戦う準備をあれこれ考え付く人だった。どこかのチームの監督をやらせたら、面白いのではないか。そこそこ出来そうな気もする。

次男の歩がベネズエラからやって来て、2人でゲームを観戦していた。しかし肝心の長男はベンチに居る。今季の出場はまだ2ゲームで、合わせて1時間も出場していない。若い勢いのある選手にポジションを奪われていた。チームの未来を考えれば、そうなるのも仕方がない。兄に絶対的な優位性があればいいのだが、あの若手の選手の動きを見ると、監督が期待するのもよく分かる。3男は左MFで出場しているが、この日は両軍共右サイドばかりでゲームをしていて、3男がボールに触れるのも稀だった。
これが日本の一部リーグの実態なのだろう。それこそ、野球のトライアウトではないが、テスト生のように参加して、欧州の2部リーグで戦う方がまだいいかもしれない。

前半30分で、クラブの人が呼びに来る。ハーフタイムに少し話すのだ。今日は次兄と一緒に話すことになっていた。元A代表なのだから、いいだろうと・・

「なぁ、圭吾。思いっきり蹴ってくれ。パスを受けるだけなら俺にも出来るだろう。話するより、そっちの方がウケるって」

「思いっきりか・・じゃあ少しづつでいいかな?5分かけてから、最後にロングパスを3本くらい」

「ああ、ゴール前と左右のコーナーにピンポイントパス、それぞれ1本づつでどうだ? コーナーフラッグに当ててみろ」

「簡単に言うなよ・・」

「コツがあるんだ。教えてやるよ、お前なら出来る」
そんなのにコツなんてあるのかね? と圭吾は思った。

ーーーー

監督からは勝っていれば後半途中から出す、と言われていた。ただハーフタイムに圭吾が挨拶するので、グラウンドに残るようにクラブからは言われていた。
試合はスコアレスドローが続いていた。どうも間の抜けた面白みのない試合になってしまっている。後半勝負で動き出すのかどうか・・

そう思っていたら、圭吾と歩がアップを始めている。兄弟でお揃いのウエアだ。スパイクは違うが固定の市販品のようだ。それが分かるのも、歩がゆっくりだが走っていて足の裏が見えるから。動きに違和感は無かった。ゲームではなく、どうしてもそちらを見てしまう。相当、厳しいリハビリだったとは聞いていたが、そこまで治ったかと目頭が熱くなる。

「モリさん、あれ弟さんですか?」

「ああ・・ハーフタイムに何かするつもりだろう」・・それなら、歩の代わりに圭吾の相手になってやるか・・

笛が鳴った。両者無得点のまま前半が終わった・・そのまま立ち上がって、ゴール前に向かう。歩が手を上げたので、上げ返す。

「圭吾、蹴り込んでこい!全部受けてやる」200mくらい離れた所で声を上げると、圭吾が手を上げた。ゴール前に向かうところで風切音が耳に入るので、振り向くとボールだった。
足元に向かって飛んで来るので、難なくトラップする。相変わらず大したコントロールだと思ったら、蹴ったのは歩だった・・

今度は圭吾が右手を上げてから蹴り込んできた。これも足元までピタリと合わせてくる。なんてヤツラだ・・歩が助走して蹴り込んできた。大丈夫なのか?弾道性のボールが一直線に飛んできて、やはり足元にボールが収まる・・歩が、帰ってきた・・

今度はゴール前で動き始める。走りながらパスを待つ。圭吾だと分かる、ドンピシャのパスを、軽く飛んでトラップすると、そのままゴールに蹴り込む。オオッと観客席から声が聞こえる。次は歩のボールを胸トラップして、蹴り込んだ。拍手と歓声が聞こえてくる。こいつらのパスを受けられる日が来るなんて・・火垂は嬉しくなり走り回った。

ーーーー

杜 圭吾の隣りにいるのは、次男の杜 歩ではないかと記者席が騒ぎ出す。
2人のパスを受けている、長男の杜 火垂がキレキレの動きで舞っている。ハーフタイム中の観客がゴール前に集まってきて3人の動きに見入っている。

圭吾が前へ出て、歩が下がった。歩が圭吾にパスを送る。圭吾は走り込んでトラップせずに火垂へダイレクトパスを送る。さすが、A代表と歩は次のパスを圭吾に送る。兄弟でボールを蹴るのが何年ぶりなのか、目頭が熱くなった・・

「杜 圭吾は相変わらずだが、あの怪我した兄貴も凄いな・・」

「長男も弟からのボールに喜んでるぜ、見ろよ、あの顔」

観客席からどよめきが聞こえた。ゴール前から一直線にロングボールが飛んでいく。火垂が走り込んでトラップし、ネットを突き刺した。大歓声だ。圭吾が頭上に手を掲げて拍手している。歩がまた右手を上げた。BrokenArrowsだ・・弾道性のミサイルが一直線に飛んで来る。今度は頭で合わせる、ドンピシャだ・・観客席は大騒ぎになった。

「元祖ブロークンアローか・・何年ぶりだ?」

「7年、いや8年か・・。 あの兄弟がボランチ組んだら、どうなるんだろうな・・」 夢は誰しもが思う。それに「怖いもの見たさ」もある。

「ロングフィードだけならA代表だが、実戦から離れてるからな・・他がどんなもんだかな・・」

「それでも、杜 圭吾と体格は変わらないように見える。そこそこ鍛えてるんだろう」

「腐っても、元A代表か・・確かに杜 歩は凄かった。才能の塊だった。当時の半分使えるだけでも、イケるんじゃないか。2部のチームなら・・」

物凄い弾道がゴール前に蹴り込まれるたびに、スタジアムがどよめいていた。

ーーーー

夕食後、戻ったホテルで休んでいる時にメールが届いた。娘からで、しかも直ぐに通話もしてきた。

「お父さん、 これ見て!」

添付されている動画を見る。3兄弟が何かをやってるのが分かる。
何年前の映像だろう?随分鮮明だな・・

「何年前の動画だい?」

「昨日よ、正確には6時間前の映像!」

「えっ?」ロングボールは圭吾じゃなくて歩か?思わず見入ってしまう。

「ハーフタイムだから数分だけど、最後は海斗兄さんも加わるから・・」

「あぁ、4人なんだ・・」タブレットをガシッと掴んで見入った。

「良かったね。コメントの書き込みも凄いよ。「元祖ブロークンアロー」で投稿が続いてるの」妹が一番嬉しそうだ・・

カナモリ首相は、合衆国大統領と執刀医達にこの動画のリンク先を添付して御礼のメールを送った。皆には誰が、歩なのか分からないかもしれないが。

ワシントンとベネズエラは時差が無いので、直ぐに返信が帰ってくる。サッカージャンキーらしく、歩のロングパスに関する賛辞を述べたあとで、こう締めくくられていた。
「あんなに会社を売却してしまって、ベネズエラとして問題はないのですか?」と。
ホワイトハウスでも話題になったのかもしれない。確かに、内容も金額も結構なものだった。

ーーーー

ベネズエラで起業した会社が、予定した通りに売却されていった。買うのがプルシアンブルーグループなので、プルシアンブルーのHPのニュースで数行触れられる程度の発表でしかなかった。
それでも買収する側とされる側が、大企業同士だと流石に騒ぎになる。
子会社の医療機器メーカーの買収に続いて、世界最大手の製薬会社ブルースター製薬を10兆円で買収すると報じられた。ガン製薬、リウマチ薬、パーキンソン病製薬と立て続けに新薬を発売し、急成長した企業をベネズエラが手放した。
しかしこれも予定通り。起業に制約もなく、競合する企業が国内に無いので事業を最速で立ち上げられる。一定の規模になったら、然るべき企業に経営を委ねる。
ベネズエラを企業のスタートアップ場所として活用する。売却するのがプルシアンブルー社なので、工場は撤退する事なく活用するので、従来通りベネズエラ製として出荷してゆく。

パメラ報道官は、「プルシアンブルー社の経営によって更に多角的な事業となると見込まれます。また、販売体制は維持されます。ただ経営者が変わるだけです」と淡々と話した。

その大規模買収の裏で、創業したばかりの時計製造の「Andes Watch」ダイヤモンド加工販売の「Blue Planet」家電製造の「Red Star」住宅メーカー「Rs Home」も買収された。それだけでも5兆円の買収となった。

インディゴブルー社はアイスクリーム製造の「Route55」揚げ物製造・販売の「もり家」寿司・天麩羅の「彩」衣料品の「Rs」「An」「Aconcagua」を総額2兆円で買収した。

ベネズエラ政府は一連の買収で17兆円の創業益を得た事になる。早速、この収益で先月発行した国債10兆円相当の補填を行った。余剰金として7兆円。4月に厚労大臣から財務大臣に転じた幸乃は、蛍経産大臣と会見を行って、企業売却益を国内インフラの整備に当てると発言した。

娘達は引き続き事業に関与するが、経営からは開放されるので、その分は楽になる。次の事業が決まっている者もいる。我が家は起業家集団だ。また来年の今頃、3月の決算を終えて、売却出来るような会社を創業していかねばならない。

30前後の娘達が莫大な売却益収入を得る。日本にいると税金をごそっと持って行かれるが、ベネズエラでは現時点では法制化されていないので、一切掛からない。
「やっぱり、ずるくないですか?」と玲子が指摘する。しかし、ベネズエラ人で起業して富豪になっている人がはまだ居ないので、法制化の必要性が無いのも事実だ。

玲子は得た資金で、先日訪れたマラカイボ湖でうなぎの養殖を始めようとしている。彩乃はその玲子に資金を渡して、飲食店として鰻の蒲焼き店を出店しようと企んでいる。
杏とあゆみは、RsとAnを手放したので、衣料品に再チャレンジするらしい。

ベネズエラでは「起業する」という概念がたまたま乏しかったので、次々と会社を起こした。調理するにしても、製品を組み立てるのも、ロボットがやってくれるので、プラン後の実行も楽に取り掛かれる。
売却先もプルシアンブルーグループなので、そのまま事業継続出来る。
それこそ、名義が変わるだけだ。しかも創業地となるベネズエラには、一切のしがらみがない。起業して一定の成功を収めてしまえば、プルシアンブルー社が欲しいと判断したなのなら買えばいい、というレベルだ。
何年も事業を続けて行くなら、事業拡大を手掛けるなら、その分時間も取られるだろう。しかし、創業して半年、1年で手放してしまえば、ベネズエラに居る限り、大した負荷は掛からない。

プルシアンブルー社も傘下の銀行が北朝鮮資源による特需で、XX兆円(秘)の利益を上げたので、企業を買収するなりしないといけない。暫くはアメリカ企業の買収や投資を加速させるだろう。
モリの場合は企業売却益もさることながら、北朝鮮特需を最も享受しているので、やはり色々買ったり、投資したりしなければならない。

「さて、次は何をしよう・・」と、今更ながらに考えるベネズエラチームだった。

(つづく)


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