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(9) デストロイヤー、誕生前夜 (2023.10改)

プルシアンブルー社のエンジニア達は「県政AI」なるものを開発した。

まず、富山県庁の各部門にカメラを設置し、県の職員の皆さんの仕事内容を1週間ほど記録を取らせていただいた。
部屋全体をカメラで撮るのではなく、例えば総務部で言えばエース格的存在と他薦されたエキスパートのPCのモニター横にカメラを設置して、つぶさに仕事っぷりを記録に撮っていった。
撮った映像を県政AIにまずは見てもらう。
AIが分からない点、理解できなかった点などの質問項目に纏めて、エキスパートに提出し、教えてもらい、再学習してゆく。
そうして、県庁内の仕事の約9割をAIがマスターした。

元フライトアテンダントの皆さんは「県政AI」を各自の指導係として、専用タブレットと専用PCを配布され、県庁の各部門に2名づつ配置される。

エース級の助っ人が2人も加わったので、仕事があっと言う間に終わってしまう。配属されたその日から大活躍し始めるので、職員たちは驚くのだが、仕事が終われば定時上がりせざるを得ず。残業をする人々が居なくなる。知事も副知事もとっとと帰宅するようになる。

県庁に配属された元フライトアテンダント26名は、いきなり成果を出した訳ではない。
プルシアンブルー・ジャパン常務の平泉里子の教え子たちは、プルシアンブルー・ジャパン転属後に、富山本社に配属され、副社長の山下智恵の元で入社教育を受けた。また、歩いて数分の場所にある富山県庁の職員にも講師として研修に参加してもらい、新人公務員とほぼ同じ教育を施した。

彼女たちの給与は富山県が支払うのではなく、当面は富山湾に浮かんでいるソーラーパネルの発電した電気が原資となり、プルシアンブルー・ジャパンの社員として給与と福利厚生を受ける。
と言うのも、既に4月から2020年度予算が始まっており、県の予算項目に無いので変則的な対応を取った。

富山県庁に26名が配属されると、9月は100名、10月は50名のフライトアテンダントがプルシアンブルー社に転属し、富山本社でトレーニングが始まる。なぜ公務員枠に人材を送り込むのだろう?
その背景には各役所で公務員削減が始まり、その直後に人材派遣会社が派遣労働者を送り込んで来た負の歴史があるからだ。
役所は公務員よりも安く人材を獲得し、人材派遣会社は派遣労働者から更に上前をはねて搾取し、非正規雇用者として安い賃金を提供して来た。

この負のサイクルを是正するのが狙いだった。
プルシアンブルーから優秀な人材がやって来ると人材派遣会社からやって来た人達は一時的に浮いてしまう。プルシアンブルー社はそんな彼等に声を掛けて、転職を促す。教育は最低限に留めて、AIタブレットを提供して富山県の他部署に配属してゆく。人材会社のシェアを奪い取るのが目的だ。

また、人数を増やしている最大の理由は2020年の10月以降で岡山県と栃木県で県知事選が、青森市、宇都宮市、鹿児島市などで市長選があるのだが、その選挙に候補者を立てる。
当選となると、県や市の職員が不足しているセクションに富山県庁で実績を上げた社員と新人社員がセットになって送り込まれる。
同時に、岡山市、青森市、宇都宮市、鹿児島市にプルシアンブルージャパンの支社が出来る予定だ。

富山の金森知事はもう一人の副知事に岡山大学農学部教授の山東康次郎氏の9月からの就任と、青森大、宇都宮大、鹿児島大の3大学の教授1名、准教授4名の県知事顧問の就任を発表する。

「副知事と顧問の給与は、金森の自己負担とし、金森の農地でソーラーパネルが発電する電力等が原資となり、富山県の負担にはなならない」と会見場で説明する知事の後ろで、甲斐甲斐しくPCを操作しているモリの姿を、各メディアのカメラが捉えていた。

与党と野党の各県連には激震が走る。富山県の県政の増殖を許してはならないと、選挙資金の調達に取り掛かり始めた。しかし、現職の県知事や市長は震えて及び腰となる。
富山県や東京都大田区のような成果を何一つとして上げていないからだ。勝てない選挙に敢えて挑むのか、それとも撤退するか、「負け」を前提とする、散り様を考えるようになる。


Go to トラベルが見事なまでにコロナ感染誘発となった。日本政府は2月春節の中国人観光客受け入れに続けてホームランを放つと、盆中の帰省自粛を首相が要請する。夏の盆踊りや夏祭りも各地で休止となる。
1県だけ祭を中止にしない県があった、富山県である。

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「富山県に訪問したい」と横田基地に到着し、隔離生活中の前アメリカ大使から要請が届いていた。

「隔離終了後もPCR検査結果で問題が無ければ、お越し下さい」と金森知事名で回答する。日々陰性という証明書も提出されるとやはり断れない。


横田基地から富山空港まで小型機が飛んできた。

知事自ら出迎えるとバギー搭乗を元大使に誘なうと、送迎車両へ向かった。知事はハンドルを持っていないで言葉で指示を出しただけだった。元大使は「これが自動走行ですか」と驚く。

知事が頭上を示すので、元大使が上を見るとドローンが飛んでいる。

「半径5kmの不審車両や不審者が居ないか絶えず索敵しています。日本はスパイ天国と言われていますので、富山県だけは世界でも先端の体制を取っています。市内に居た6名のCIA職員、日本の公安12名を本日だけで確保しています。

モニターをご覧下さい、貴女の到着を待ちまえていた2名が新たに分かりました。ドローンが追いかけている映像です。今、網が放たれました。2名とも確保したようですね」

何事も無かったかのように落ち着いて話す知事に、元大使は震撼し背筋が寒くなった。

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「公安12名 全員拿捕。CIAも相応の人数が捕らえられた模様です!」
公安が情けなかったのがCIAが潜んでいたのを把握できていなかった事だ。

知事と元大使が県庁に到着すると、モリとサミアが元大使を出迎えて館内に誘った。すると身体検査と写真を撮って、全員開放された。後は勝手にしていいらしい。

公安は負けっぱなしなのでどうでもいいのだが、CIAが完全に封じ込められたのは、共和党政権に衝撃となった。「富山は日本ではない、合衆国よりも上だ!」とCIA職員が騒いだそうだ。

応接室で約2時間経とうとした頃だった。

「これから記者会見を行います。記者の皆さんは会見場の方へ移動して下さい」と県の職員が大声を張り上げた。

非公式な訪問なので、記者会見はないだろうと思われていたのだが、記者とカメラマンは移動する。急遽、総務部配属の元フライトアテンダント2名が通訳となり、真新しいヘッドホンが会見場のテーブルに並べられていた。

見事な花が飾られていたが、1時間もあれば花屋さんが用意できるな、と記者たちは思った。

壇上には金森知事と元大使、その後ろにモリとサミアが控えていた。
まず知事が英語で話し始めた。

「ケェネデー元大使と、こうしてお会いできるとは思っても見ませんでした。
わざわざ、裏日本の富山まで足を運んで頂き、有難うございました。
今夜は富山にお泊りいただけるとの事でしたので、場所は皆さんには申し上げませんが県内の温泉地でご宿泊いただき、富山湾の幸と温泉で寛いでいただきます。

予めメディアの皆さんに忠告しておきますが、地上と空の至るところに動物捕獲用バギーとドローンが待ち構えておりますので、施設内に立ち寄らない様にお伝えいたします。皆さんをクマやイノシシのように扱いたくはないので、ご配慮のほど宜しくお願いいたします。

それでは元大使から今回の訪日の目的など、お話いただきます」
鮎が一歩下がって演台を元大使に譲った。

「私どもの訪問を快く迎えていただいた富山県の皆さんに、厚く御礼申し上げます」

元大使は紙を見ながら片言の日本語で言って頭を下げてから、マイクに再び向き合った。

「今回の訪日の目的ですが、今月17日から3日間行われる民主党の党大会に、金森知事、杜議員、そしてサミア会長をゲストとしてお招きする為です。苦境にあるアメリカに光を灯すべく、訪米を決断して欲しいとお願いに参りました。そして、お3方に訪米の同意いただきました」
翻訳されてから、記者たちがどよめく。

「我々は共和党から政権を取り戻さねばなりません。今回の選挙は是が非でも勝利し、我々民主党が国を導かねばならないのです。4年近く続いた不幸な共和党政権による政治を終わらせ、アメリカと日本を始めとする同盟国で世界をより良いものへ導く必要があります。
具体的な話をいくつか申し上げます。現在メキシコとの国境に壁を建てて難民の流入を抑えているのが共和党政権です。我々は中米と南米北部の国々の農業改革と所得向上で難民を生み出さない社会を実現したい。その為に、プルシアンブルー社の農耕バギーを活用させていただきたいのです。
また、エネルギー政策も見直さなければなりません。温暖化対策は急務です。富山県が始めた海上発電、タイやベトナムで広がり始めた農地でのソーラーパネルの活用は、我が国の陽光あふれる南部、そしてカリブ海諸国にうってつけと考えております。
また、カナダと北米では日本円にして1500億円毎年掛けて、野生化した豚を駆除しています。しかし増加に歯止めが掛からず、深刻な農業被害が状態化しています。タイで活躍したハンタードローンは北米で救世主になると確信しています。

最後に自動車用AI Naviです。
バンコクの大使館、台北の大使館でネッドジェン社の乗用車を購入してテストをして参りましたが、信じられない性能に驚いています。この新型Naviを米国製自動車に搭載して、渋滞軽減、排気ガス抑制に取り組みたいと願っています。

我々の国は病みつつあります。日本も同じでしょうが、ここ富山と東京の一部には希望が残されています。その希望を照らしているのが、ここにおられるお3方なのです。米国にも、お3方が作り上げた希望を僅かで構わないので分けて欲しいと要請して、快諾いただきました。
党大会ではデモンストレーションも行い、プルシアンブルーのテクノロジーを人々に理解して貰おうと考えています。

そして、党大会のオープニングアクトにはDeepForestにお願いしました。これは我が党の大統領候補者全員のリクエストでもあります。タイで見せてくれたあの衝撃的な演奏を、スタジアムでも再現して欲しいと願っております。

富山県の皆様、そして日本の皆様、しばらくの間金森知事たちをお借りします。我が国にも福音を齎すきっかけとなれば、と考えている次第です」

記者との質疑応答が始まった。

「チーム金森が民主党陣営に付いた」「金森陣営、民主党推し」と早速メディアが報じるのだが、政党でもなく知事と地方議員と会社の会長という肩書の3人なので、何の問題も無かった。

アメリカのIT企業の大半が民主党を押しているし、共和党の党大会で演奏するのは、ほぼ無名に近いミュージシャンしか集まらない。一方で民主党大会は多彩なゲストが集まる。そのビッグネームの中では日本人は霞んでしまうだろう。

共和党政権寄りの日本政府は、金森知事一行が出国できない措置や何かしらの脚枷を考えるが、そう簡単には出来ない。米軍機で横田から飛ばれ、富山に降りれば、日本政府には術がない。

そして富山県庁で、モリが初めて言及する。
英語ではあったのだが。

「私が知事とサミア会長を説得しました。今回の訪米に関する全ての責任は私にあるとお考え下さい。世界にとって、両陣営のどちらがベターか考えたら、結論は明らかなのですが。

地球温暖化はフェイクだと公言し、何もしなかった大統領を私は許すことができません。
中国共産党も今の日本政府も同じです。この3者に共通しているのは具体的なプランを描けなければ、実行力もないことです。自然を破壊し、ビルや道路を建設会社が作りますが、そのビルや道路が本当に必要なのかどうかは二の次で、金額を消費するための破壊と建設を「開発」の名の元に繰り返します。ゼネコンから利益を得る為です。
異論・反論がある方は私のホームページに記入ください。宜しくお願いいたします。

今回の元大使のチームがご提示されたプランは、実に具体的に纏められていました。

当初、自分たちの製品がアメリカでどんな成果を上げられるのか、我々にはイメージできませんでした。しかし、農耕バギーを中南米で活用して、太陽光発電で村を潤すのは東南アジアと同じです。
北米で年間1500億円を掛けて、野生の豚を駆除しているのを私達は知りませんでした。オーストラリアのウサギ駆除の金額比だけで、10倍の規模となります。害獣対策としては最も費用を投じているのではないでしょうか。

そして、メキシコ湾とカリブ海での海上発電は富山湾の比ではない発電量になるでしょう。

規模は異なりますが、すでに実施している内容を踏襲できるのでイメージが容易に出来ました。
選挙まで日数も限られていますが、1つだけでも実践してアメリカの皆さんに、何かしらの成果をご覧いただける様にしたいと考えています」

オツムの悪い両国の代表者の怒りを、ひたすらに、そして永遠に増幅させるのがモリの目的でありミッションとなる。
アメリカ行きの責任を背負った振りをして批判を一手に集めつつ、破壊者、デストロイヤーとして暴れ捲る。

共和党と彼等の従順な手下、自滅党を壊滅し、死臭が漂う死地に追いこんでゆくミッションに取り掛かってゆく。
身内全員が職を失った恨み辛身を、晴らしながら暴れ回る・・。そんな野蛮な事を考えていた。
 
(つづく)



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