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(9) 南米諸国連合らしい援助を 模索する


「ベネズエラのカナモリ首相は、南米諸国連合の定期会合にベネズエラ代表として初めて参加し、先日のアフリカ訪問の報告を各国首脳に行いました。カナモリ氏の報告を受けた連合国はアフリカ3ヶ国へ訪問団の派遣を決めました。後半では、カナモリ首相が訪門したアフリカ3カ国の各国代表者がネット会議に加わり、視察の方向性や内容について協議いたしました。詳細に関してはアルゼンチンとボリビアが中心となり、訪問団の人選やアフリカ側との調整等をするとのことです。訪問団はアルゼンチンとボリビアの産業大臣が代表となり、連合各国の企業関係者も加わり、農地や水産資源、食品加工工場等の視察が中心となる予定です・・・」

ニュースで、この会議の状況と、カナモリ首相のインタビューが取り上げられた。

「各国首脳も、アフリカ進出に意欲的な姿勢を示しています。アフリカと南米の経済の規模の違いが、丁度いい按配なのかもしれないと感じています。といいますのも、私達は昨年まではアフリカ諸国と同じ、支援される側でした。そんな私達だからこそ、目線が近しいのかもしれません。今のアフリカに何が必要なのか、そう考えた時に共通したイメージを持っているような感覚がありました。ベネズエラが担う産業支援策は、日本人が考えるので先進国の援助でもよく見かける内容です。一方、アルゼンチンとボリビアが担当する支援策は、1次産業への支援を行い、安定的な食糧供給の確立を当面の目標とすると定めました。食糧が潤沢に供給され、食を介した流通をより活発なものにする。ここだけ申し上げると援助策ではなく、一見、地方行政のように聞こえますよね?昨年の食糧不足のベネズエラ国内政策と同じです。でも、アフリカの皆さんの反応が良かったのは、明らかに後者でした。単純に食糧供給だけ言葉にすると、イメージは各者各様でしょう。でも、私達は同じイメージの共有が出来たのです。これは、ある方の発言が発端でした。

「今回の視察で目指すべきものはなんだろう?」とアフリカの皆さんも加わって議論していた時です。エクアドル大統領がおっしゃいました。「アフリカ各国の生鮮食品市場を、南米やアジア市場のようにメチャクチャ活気のあるものにするっていうのはどうだろう?安くて、新鮮な食材が溢れていて、売り手も買い手も大勢の人が集う市場、そんな感じ。これも簡単な話では無いとは思いますけど。でもね、やっぱり人々の活気は必要だと思うんです」と、実に具体的なイメージを示されたのです。それで満場一致で決定したのです。活気ある街づくりを実現しようじゃないか、素敵な市場にしようじゃないか、となりました。日本の政治家や官僚は思い付かないでしょう。南米諸国連合だからこそ提案できる。共有可能な感覚的な発想と、近しい目線の援助を、これからも追求すべきだと考えるようになりました。個人的には、大変有意義な会議でした・・」

この報道を北京・中南海で梁振英が見ていた。
金森首相がベネズエラに転じてから、海外のメディアが取り上げるニュースが、太平洋から大西洋へ転じた印象がある。アジアは既にある程度の成長を遂げているので、新しい情報も乏しい。このまま話題の中心が大西洋に転じるようなら、アメリカ・アフリカ大陸の経済成長が著しくなり、アジアや我が国の経済に影響が出てくるかもしれない。

国の指導者達は中国がアジアの盟主であると強調する。しかし、中国を重視している国が極めて少ないのも事実だ。我が国の輸出の急ブレーキがそれを象徴しており、極めて危険な状況にある。中国製品にNOを突きつけられたのと同じ意味が包括されている可能性がある。アジアの国々も、中国の輸出量減少を、恐らく肌で感じているだろう。人々が中国製の代わりに何を欲しがっているのか、どこの国の製品に魅了されているのか、本当のアジアのリーダーはどこだ?と問えば、日本だと答えるのが普通だろう。その日本が、中国の顔を立て続けている。様々な役職の長に、中国人を推挙する。推挙された中国人は、自分に権限があるかのように錯覚し、喜んで受け入れてゆく。しかし、そのポストに仕事における権限は無い。 柳井首相は金森氏の路線を継承している。首相交代の弊害は何も生じていない。経済に、なんの問題もない。ベネズエラと北朝鮮等の生産拠点間での連携も見事だ。国家としての成長戦略も着実に進んでいる。アジア各国が、不安要素が見あたらない日本に、期待するのは当然だ。

「地域内通貨システム・飛鳥」「太平洋アジア・アセアン経済圏」「北韓統治委員会」「アジア銀行」等、あらゆるアジアの国際組織の代表者に中国人を推薦して配置して、中国が最も多額の出資金を出している。しかし、内部のシステム運用も仕組みそのものを牛耳っているのは全て日本だ。中国の代表者は、日本側が纏めた内容にただ目暗印を押しているだけに過ぎない。政府は未だに、中国は世界一の経済大国なのだから、代表者を出すのも金を出すのも当然だと考えている。中国人は肩書にとにかく拘る。そしてその役職を誇り、自分を大きく見せようとする。嘗ての日本の政治家と実によく似通っていている。さらに無意識に女性を下に見てしまう。ここで女性リーダー達との関係が断絶する。「おだてて、金だけ出して、黙ってサインすればいい」  組織上は配下にあたる彼女達から、そう思われている中国人トップだらけとなる。 日本やASEANの女性進出が進み、女性リーダーが増えた。これはASEANが日本の一億総活躍社会を見習ったからだ。一方で中国は男性だけでも7億人居るので、これだけで十分な労働者を確保できる。それ故に女性を活用しようという発想自体が浮かばない。女性が活躍する環境は、残念ながら満足に用意できない。結果、男尊女卑が根強く残り、他国の女性リーダーに対して、知らず知らずに蔑んだ見方をしてしまう。新興勢力と旧態依然の2重構造が、アジアの国際組織では混在することになる。
年齢差も顕著だ。中国共産党が年功序列を重んずる組織なので、動きの鈍いものがトップになる。他の先進国とは真逆だ。
日本政府は中国を熟知しているので、お飾り役と軍資金を手に入れて、組織の実働部隊を率いてゆく。ここにも中国の内政問題が絡んでくる。14億人の中から這い上がってくるだけで、尋常ではないエネルギーを使う。肩書を得られたら、これで人生のゴールだと勘違いしてしまう。成功者の仲間に遂に到達したと、私腹を肥やす事ばかり考えるようになる。故に、賄賂があちこちで未だに残る。 そんな小皇帝を捌くマニュアルでもあるかのように、国際組織では女性達が活躍し、我が国の小皇帝達を窓側に放置する。ハンコとサインをするだけの役割を与えて。トップはこういうものだ、働かずとも組織は動くだけでいいのだ、と中国人は錯覚する。そもそも、中国共産党の監視は、国際組織には届かない。

中国共産党の構造的な問題は、もはや改善のしようが無い。
優秀な若手を幾ら育てても、通常通りに埋没してしまうのが殆どだ。  「召し上げて、扱き使う」そして、上官が全て掻っ攫って「自分が手掛けたものだ」と更に上に報告する。
有能な者を何人配下に揃えるかで、この巨大な階級社会・共産党で這い上がり具合が決まる。その配下の人々だけは幾らでも居るので、取っ替え引っ替えが交換が可能だ。この状態で若手の政治家が一向に育たず、何もしない年寄りばかりが増えてゆく。「科挙」という制度を作った国、このシステム自体が未だに現役というのも皮肉な話だ。
共産党だけではない。国営企業もそうだ。この10年間で経営者は一人も変わっていない。日本の経団連、韓国の旧財閥系企業と実によく似ている。
若い経営者と言っても50代後半だが、そんな人達も今は香港にしか居ない。更に能力のある若者たちは、アメリカへ渡って、帰ってこない・・
それ故、党や国に貢献しようと考える若者達も減少傾向にある。

「もう限界かもしれない・・」梁振英は北京からの辞去を考え始めていた。

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北京を訪れ、中南海の会議に梁振英と共に臨んでいた阪本は、中国政府が作成したデータを見て、わざと驚いた顔をしていた。日本側の分析では既にこうなっているのは分かっていた。北米、中南米、アフリカ、EU全てのエリアで、中国の輸出が4半期毎で下がっており、今回集計された昨年12月末のデータで、下落率の更新となっている。2033年の下期は経済1位から陥落する可能性も出てきた。年間では1位は確実でも、このまま上昇もせずに低調のまま推移すれば、2034年は、アメリカに再度逆転される可能性がある。
アメリカは昨年末で日本からGDPの2割が移管されている。プルシアンブルーグループ3社がアメリカ資本へ転じているからだ。その為に中国が日本に抜かれる事は無いだろうが、事実上の日本の一部であるベネズエラのGDPを日本の数値に加算すれば、実質2位も危うくなる。
この事実が顕在化して、会議が揉めていた。収益源である北米市場向け輸出の下落が特に顕著だった。アフリカ市場に至っては既に数パーセントに過ぎず、エリアから全面撤退したと見ても良いだろう。
主席が産業大臣と外務大臣を叱責する。9月末までの輸出値で行った前回同様の経済会議では、明るい予測値を示して、あらゆる手段を講じて必ず回復させると2人が豪語していたからだ。しかし、実際は南米諸国連合の輸出攻勢に負けて、北米でのシェアを落とした。梁振英の予測を越える、南米諸国連合の成功により梁振英の立場は失墜してしまった。
梁振英の隣で座っている阪本には辛い場だった。
主席の内相への叱責が、梁振英にも重なるのか、梁は終始、下を見ていた。
そして中国を追い込んだ相手が、南米諸国連合だと言うのも皮肉な話だった。昨年の仲間同士が米国市場で競い合う格好となり、結果として、南米諸国連合・ベネズエラの圧勝で終わったからだ。

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阪本は梁振英を食事に誘う。状況と相手が悪かったと、あなたには何の落ち度もないのだとフォローする。
アメリカからすれば、近隣で安価なものづくりをしている国から購入し続けたいと考える。それが積み重なっただけの話だ、と。

梁振英をロシアで身請けしようと、セルゲイ外相が昔から誘い続けているとモリから聞いた。もし、ひと度中国で事があれば、ロシアだけでなく、ベネズエラという選択肢を提供しようと言っている。流石にモリが引き取るのは、中国指導部も心良くは思うまい。間違いなくロシアが無難だろう・・ すると内相から声を掛けられ、梁振英が身を引いた。お前は聞かないでもいいと言わんばかりのプレッシャーが掛けられていた。

「モリ先生にお願いして、南米に中国企業の進出を認めて頂くわけには行かないでしょうか・・」

「最大の問題は、ファクトチェックですね。企業進出に値しなければ南米諸国連合は受け入れてくれません。製造業以外の日本企業でさえ、未だに認められておりません・・」

「そうですよね・・仮に、仮にですよ。南米諸国連合に加盟していないブラジル・チリへ中国企業が進出すると、モリ先生は面白く思わないですよね?」

「モリがどう思うかまでは正直分かりません。それでも、国民の所得を均一なものにする為に、自分たちが企業進出に厳しい条件を課している以上、中国がこの選択肢を取るのも仕方がないと、受け止めるはずです」

内相も頷く。そう、これがモリの緻密な戦略でもある。中国が世界の工場と呼ばれ、経済成長を遂げた。中国は生産物の輸出入の為に、広大で長大な貿易網を作り上げ、成功を収めつつあるかのように見えていた。しかし、ベネズエラが中国よりも少しだけ良い物を作り始めた。メキシコ湾とカリブ海を跨ぐだけで輸送コストが掛からず、ベネズエラ製のモノが安々と売れるのは、当然だった。極めて短期間で南米諸国連合が生産体制を作り上げて、アメリカ市場を手に入れてしまった。この動きを主導したのが「あの男」だ。そのクセ、ファクトチェックとか言って海外資本を排斥してしまう。巡り巡って、日本にカネが落ちる仕組みがしっかりと出来上がっている。

しかし、中国企業進出を認めた時点で、「その国」は南米諸国連合の参加資格を失うかもしれない・・中国も、仮にブラジルに工場が出来れば、北米までの輸送距離は短くなり、輸送コストはある程度下がるのかもしれない。しかし、部品企業を連れてきても、採算が取れるだけの受注が獲得できるかどうかだ。その勝算が中国側にあるのだろうか? 南米諸国連合の製品に押され、中国製品自体の競争力が弱まりつつある状況下で・・

また、南米諸国連合のアフリカ進出を、中国側は予想もしていなかったようだ。
今回のアフリカ進出でベネズエラ政府が上手いのは、ベネズエラ以外の国に経験を積ませようとしている点だ。南米に限らず、発展途上国の政治は国内9割、外交1割というのが一般的だろう。その1割の外交も近隣国との交渉が殆どとなる。つまり、対外的な支援の経験が無いに等しい。援助の受け入れに慣れていても、援助する側には立つ機会が無かったのだから。
アルゼンチンとボリビアに、援助の体験をさせて、両国の政治家、官僚達のレベルを上げようとしている。
昨年までは援助されていた側が、援助する側に転ずる。2カ国の得意な1次産業に対象を絞って、失敗の可能性をグンと減らす。初めてなので試行錯誤もあるだろうが、最も可能性がある手段を選んだと言える。更に鮎が、水を得た魚のようにモリのプランを具現化してゆく。日本国内で、是非見たかった組合せだ。

阪本はベネズエラ政府に対し、中国内相から、中国企業が南米進出を考えている可能性があると報告する。但し、進出のハードルの高い、南米諸国連合ではなくて、ブラジル・チリという具体的な名前が出てきましたよ・・と。

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2033年12月までの経済収支が出揃った。年間を通じてベネズエラは首位となり、2位のブラジルの3倍の経済規模になった。G7のカナダ、イタリアを拔いて、イギリス、フランスに肉迫している。このまま行けば来年はドイツに追いつき、そして日本の背中が視野に入ると経済欄で煽られる。
ベネズエラを入れてG8にしろ、アルゼンチンが既に加わっているのだからG20からG21に変えるべきだと、そんな声も多い。G7で長年主役を務めたカナモリ首相の再登板の声が、G7内部からも出ているらしい。

南米自体の順位は3位のアルゼンチン、4位のボリビアが2位のブラジルを追いかける構図となった。チリが5番手になってしまった。今まで1,2位だったブラジル、チリが成長していない訳ではなく、外国資本が南米諸国連合に進出して工場生産量が増え、輸出が伸びているからだ。チリの次に準加盟国のコロンビア、エクアドル、ペルーが続く。ウルグアイ、パラグアイ経済も決して悪いわけではない。小国を除く南米自体は好調な経済期にある。
ただ、それ以上に南米諸国連合の成長が著しいものがある。
ここで中国顧問の阪本からの報告にあった様に、どの業種が参入するかは別として、中国企業がブラジルやチリに進出すれば、それはそれで歓迎するし、面白いチャレンジだと思う。
南米諸国連合としても排除するつもりはなく、相互で刺激し合えるような競争になればいいと考えていた。

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昨年末までのベネズエラ経済に関する報告が、官房長官からあった。記者との質疑応答が終わると、大統領府からゾロゾロと記者が退出してゆく。ベネズエラがG7並の経済国になったというのが頓に信じられない。去年の今頃は新聞もテレビも暗い話ばかりしていたからだ。

執務室に面する芝生の庭で、圭吾が弟達とサッカーボールで遊んでいた。
圭吾を見掛けた日本人記者が纏わりついてゆく。「日本代表!」「有名人みっけ」と。
日本人女性記者とベネズエラのメディアだけが知らなかった。「どなたなんですか?」「サッカー代表選手のモリ・ケイゴだよ」渋谷の公共放送の記者がそう言って、記者達の後を追った。ベネズエラのメディア陣が、女性記者に「あれは誰?」と訊ねる。「大統領のお子さんで、確かフランスのサッカーチームに所属している選手です」

「それはスゴイ!」と言って、圭吾達に向かって移動していくので、女性記者も流れでついて行く。圭吾が記者達と英語でやり取りをしている。英語を喋る圭吾を、羨望の眼差しで見つめる子供達が可愛かった。関西生まれの記者は、持っていた飴を2つづつ少年達に渡す。アメちゃんオバちゃんやでぇ〜 と思いながら。

「ありがとう!」「いいえ、どう致しまして」

女性記者が狙った訳ではないのだが、飴玉で少年達との接点が生まれた。圭吾がチラチラこちらを確認しているのが分かったが、この子達にインタビューしようと思った。自分にサッカーの知識が無いのだから、仕方がない。

「みんな、何年生? 日本人学校に通ってるのかな?」

「4月から6年と5年だよ。僕らは今度開校する学校に通うんだ」

「え?それってベネズエラ人向けの小学校?」 すると、別の子が反応する

「日系人の小学生の学校なんだ。ブラジル、パラグアイ、コロンビア、エクアドル、ペルー・・サッカーが強い国ばっかりからやって来たんだ」

「へぇ、そうなんだ、日系人の学校は知らなかったなぁ。カラカス市に出来るのかな?」

「うん、ここからちょっと離れてるけど、家からは近いんだ」

「近いのはいいね・・」・・この子達、大臣のお子さん達だよね・・

「えっと、学校始まるまで、どうしてるの? 勉強は、やってるのかな?」

「ほとんどサッカーだよ。勉強はAIでやってる。それとAIのスペイン語」

「おお、すごいね~」

「ベネズエラのサッカーチームでは、僕ら全員レギュラーなんだ。選手同士のコミュニケーションは大事だからね」

「参ったなー。すごいじゃない、君たち。そのチームの名前を聞いてもいいかな?カラカスのチームなんでしょ?」

「ラグライア、って言うんだ。カラカスで一番強いって言われてるよ」

「その子達のチームはプロの下部組織なんだ」ベネズエラ記者の一人が教えてくれた。チーム名だけ、聞き取れたのだろう・・

「あの人、なんて言ったの?」

「君たちのチームが強いチームだって教えてくれたの。プロなら強いよね」

「でもね、バレンシア市にあるチームの方が強いらしいんだ。ここからは遠いから仕方ないんだけど」

「学校行ったら、日系人でチームを作って、そっちを強くするよ。そんで、南米の強いチームとバンバン戦うんだ」

「おお、それはスゴイ! いいアイデアだね。誰のアイディアなのかな?」

「父さんだよ!」 ・・嬉しそうな顔・・

「レイ!」圭吾が叱責すると、答えた少年がビクッと反応した。

「お前ら、ちょっとあっちに行ってろ」圭吾が言うと子供達がスゴスゴと去っていく。女性記者に申し訳ないような顔をしながら。・・父さんって、もしかして大統領なの?・・

「失礼しました、続けましょう・・」圭吾がインタビューに再び応じ始めた。

ーーーー

インタビューが終わって散開して、圭吾が去ろうとしていた女性記者に声を掛ける。

「先程は失礼しました。ちょっと宜しいですか?」

「はい・・」・・子供達の話だろう・・

「我が家は少々複雑でして、それ故に、プライバシー管理は徹底しているつもりなんです」 圭吾は記者の表情を見てから、先を続けた。
「あの子達が、父の子だと言うのは学校に通い始めれば直ぐに分かるでしょう。兄からの勝手なお願いなのですが、彼らを記事にしないで頂きたいのです。まだ、未熟な子達なものですから・・」

「あ、それでしたら全く考えておりません。ご安心下さい」

「そうですか・・良かった。ありがとうございます。以前、柳井首相と父の子の話で、ちょっとした騒ぎになった事がありまして、それが気になったものですから・・」

「あれは、私にとっては美談でした。大統領もご子息も、30年以上もお互いを知らなかったんですから・・こんなドラマみたいな話ってあるんだって」

「ドラマ・・そうですね。本当にそうかもしれない・・」

「ご安心ください。ご家族の皆さんのプライバシーは私達、日本人記者が守ります。おそらく、日本人記者の全員が与党支持者なはずです。それに、日本のメディアもそっちの話題に関しては、随分フランス化したんですよ」

「そうなんですね。知りませんでした・・」

「あの、お恥ずかしい話なのですが、私サッカーの事を知らないんです。あの子達のチームの見学って、簡単に出来るものなんでしょうか?プロチームだから、戦術は隠さなきゃいけないとか、見ちゃだめとか、ハードルが高いものなんでしょうか?」

「あぁ、全然大丈夫です。子供のチームですからね。明日、あの子達の練習があります。僕も冷やかしに行ってますので、サッカーの触りだけでもご説明しましょうか?ベネズエラではイマイチですが、南米では超メジャーなスポーツです。少し位の知識があると、今後、何かと便利かもしれません」

「ありがとうございます。それは心強い。行きます、絶対に行きます!」

世の中には、こんな出合いもある・・

ーーー

「今年のG7のホスト国はフランスで、ゲストとして出席の要請が来たわよ。ついでに、G20も」

「G20・・しまったぁ、財務相かぁ・・」・・大統領兼務じゃマズイな・・

「3月で内閣改造したら、越山さんと櫻田さんがこっちに来るからね。どっちかを財務大臣にするといいわ」

「はあぁ?」モリの大きな声が執務室に響き、ママさん大臣達が笑う。  ・・政権発足して、もう内閣改造だと?・・

「ベネズエラと北朝鮮に大臣経験者をドカンと送って、2つを強化する。 北前は敢えて一年生の大臣・副大臣で固める。共産党にも外交と経産ポストを暫く渡して、経験を積んで貰う。官房ポストは北前に戻す」

「そうですか・・」・・そこまで決めたか、柳井純子・・

「越山さんに厚労大臣を譲ります」「櫻田さんに外相を譲ります」幸乃と里子が手を上げて申告した。・・確かに最適な配置だけど、まぁいいか・・

「では幸乃さんが財務大臣。里子さんは国土交通大臣と法務大臣を兼務で」

「えーっ!」2人がハモる。この2人の提言で、越山と櫻田の両名の受け入れをママさん達が事前に了承しているのが分かった。翔子と里子を招き入れた、鮎と蛍。そして、4人が幸乃と志乃の姉妹を加えた時と反応がよく似ている。その反面、モリの事情を事前に聞こうともしないのも共通している。
どうせ反対しないだろうと、見透かされているのだろう・・

国際会議なるものは人員不足を理由に逃げようと思っていたが、G7クラスの経済力が身に付いて、鮎も居ると、そうもいかない。 ベネズエラには越山と櫻田が必要だと、日本側も考えたのだろう。

2人は、次世代のリーダー候補だとモリは見ていた。40歳前で、ベネズエラにやって来ると、相当、南米でも成功を治める必要がある。それ故に、幸乃と里子が、2人に席を譲ったのだろう。「最初から描かれていた、人事」ということか・・
「表と裏」を維持する以上、多くの人員・人材が必要になる。一カ国の組閣でさえ、頭を悩ませて配慮するのに、3カ国分の人材と国の状況まで加味しなければならないのだから、大変だ。柳井首相が日本は新人で固めるとすれば、エース級がベネズエラと北朝鮮に配置される。如何に重要視しているかが自然と国内外に知らされる事になる。
北朝鮮では今後の地下資源開発を視野に入れて、阪本の鉱物学の後輩でもある山元を配置して、2人で資源開発チームを作るのかもしれない。
共産党から、人を出して貰うのも必要だ。北前・社会党だけで考えると大変だ。与党として、同じ経験を踏んで頂くのも必要だろう・・

「ちょっと宜しいですか?」鮎首相を打合せコーナーに呼んで、対面ソファに座ると相談を始める。どうせなら、もう少し人員を増やしたい・・

ーーーー

その頃、柳井首相は、妹の大林総務大臣と息子の治郎副官房長官と夕食を取りながら、組閣人事について話をしていた。

長男の太朗をタイとビルマの特使から外して、北朝鮮で阪本の補佐にしたいと伝える。モリ・アユム、腹違いの弟の後を担わせるのだと。

「タイとビルマはどうするのよ?」大林総務大臣が姉に絡む。後任が思い浮かばなかった。

「もう日本人特使は不要じゃないかしら。双方の国の人材も育ったし、一応、保険で内閣府から2人の役人を送って、太朗の後を担わせるっていうのも一つ。それに、太朗もヴェロニカも、日本に近い所に連れてきて、次の参院選で立たせたいと思ってるの。その時は治郎も、台湾から佳子さんを呼んで、立候補して欲しい・・」

「なんだよ、柳井家総動員か?」

「太朗とヴィーの夫婦は、柳井家って思われないでしょうね。ルックスがモリ家よ。ヴィーは帰化したとは言え、ハリウッド女優にしか見えないし」

「叔母さん、そういう華々しいのも少しは必要だよ・・。それで、今回、阪本顧問のご子息を日本の副大臣に据えて、日朝間に配置すると・・」

「そうね、大臣は早すぎるわね」

「でも、兄さんは東南アジアから離れるだろうか?佳子にしたって、日本で議員になろうだなんて考えてもいないよ。そんな話はしたことがないし」

「でも、経験するチャンスであるのも事実よ。首相が身内なんだから」

「靖子にもお願い。旦那様も立候補して欲しいの。弁護士事務所の人材も今や豊富で、裕也さんが抜けても問題ないでしょ?」

「そっちは前からそのつもりだから、いいけど・・問題は、太朗達と佳子さんよね、どっちも寝耳に水でしょ?」

「3人には頼みこむしかない。阪本家と我が家で、計算できる人材が必要。この国の為には何とかして、人材を集めないと」

「まぁ、1期だけ、スポット対応って感じで、気楽に考えて貰う雰囲気を作るしかないよ。佳子は悟っちゃうかな。騙そうとしてるでしょって見抜かれちゃうかも」

「そうね・・佳子さんも勘の良い人だものね・・」

柳井首相は、大好きな 治郎の嫁のことを、思って笑った。

(つづく)


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