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(4) Thunderbirds are, Go !


 メディアは「隕石落とし」「Meteor Attack」と、核攻撃以上の破壊殺傷力のある新たな脅威として、兵器としての隕石を書き立てる。G20の会見場における、日本の阪本首相とベネズエラの越山大統領の発言は様々な憶測を呼び起こす。

「阪本首相の発言は作為的な発言だったのではないか」といった記事が憶測を一定の方向、ベネズエラの仕業へと傾いていた。ニュースでもネットでも「阪本発言」があちこちで再生されているのを受けて、日本で留守番役を務めるモリ・ホタル官房長官にも質問が集中する。

「あれは阪本の勇み足に過ぎません。実際に隕石が落ちたので、本人も驚いているのではないでしょうか。彼女が帰国したら反省を促したいと思います。各国首脳が集まる公的な場で、ましてや平時の世界情勢の中で、専守防衛国家の責任者が、あの種の発言を軽々しく口にすべきではありませんでした。また、他国の大統領とは言え、同僚の立場で、越山にも反省を求めます。会見の前に2人で打合せを十分に行ったのか?と。あれでは、ベネズエラが脅しの材料に大気圏突入攻撃を用いる可能性を知らしめたかったと、誰もが考えてしまいます。双方、不用意な発言で国の責任者として失格です。自分達の軍事力が強化した事で、少々驕っているのかもしれません」と、淡々と述べた。

核を宇宙では持つと公言しているベネズエラが、宇宙空間から何かしらモノを落とすかもしれないと、各国が考えるようになる。阪本発言を受けて動揺した越山の表情が「戦術の一つとして考えている可能性がある」と言う推測を生み、その推測が妙に説得力を帯びていた。軍事基地や原発、ロケット発射施設に隕石を落とす・・・ベネズエラ隕石兵器のあらゆる可能性と対処法を、各国の軍が検討するようになる。特に稼働中の多数の原発を持つ米英中仏の4カ国の軍の首脳は、混迷を深めてゆく。軍の関係者は誰もが隕石兵器を想定したが、政治家に進言すれば、発言した傍から隕石への対応策を問われ、対策を検討するように命じられるのは明らかなので黙っていた。不幸中の幸いだが、マスコミが制空権だ、航空優勢だと騒いでいるので、格好の隠れ蓑が出来たと歓迎しながら、議論の行く末を見届けようとしていた。

日本の首相が会見の場で唐突に持論を持ち出したので、状況が一変した。阪本首相が各国の軍参謀本部が多忙になるのを狙ったとしか思えなかった。そもそも、隕石の対策手段など無い。マッハ30で飛来する物体を迎撃できるノウハウのある国など存在しない。唯一の対策として考えられるのは、大深度地下に軍の施設や兵器の貯蔵庫を建造するしかないのだが、その建造コストたるやリニア建設の比ではない、莫大なものとなる。一方、ベネズエラは隕石を落とすだけなので、コストは殆ど掛からない。         

制空権、航空優位とがなりたてていたマスコミは自らの論点の浅さに気づいたのだろう、一緒になって騒いでいた無能な評論家やコメンテイターを切り捨てて、昨日までの話は何も無かったかの様に「隕石落とし」を論じ始めていた。パナマ沖やフィリピン沖に落下する大気圏突入ポッドの回収作業の模様を撮影し、その巨大なポッドの正確な落下軌道を改めて思い知る。阪本首相が感心していたのは、このコントロールを実現しているプログラムなのだろう。大気圏突入ポッドだけでなく、無塗装の輸送機や戦闘機が大気圏に突入し、滑空する様も目撃する。
物理学や航空力学の専門家に意見を求めて、何とか番組にしようと試みる。自国の軍関係者に、隕石を撃ち落とす手段や隕石から身を守る対処法を聞くと、「残念ながら、今の技術ではマッハ20を超えるものを撃ち落とす事は出来ない。落下爆発を前提に考えて、地下に逃げるしか方法は無い」と言われ、愕然としてしまう。
そんな番組を作ったら、視聴者の恐怖を煽るだけではないか・・と、企画自体が潰れ出していた。

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蛍と幸が、スービック経済特区管理事務所から手続きを終えて出てきた。
プルシアンブルー社の社長が直々にやってきたと、ちょっとした騒ぎになった。PB Home社、PB建設のフィリピン法人を立ち上げて、インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、東チモールで一大産業となった無償住宅の販売を、スービック市から手始めに行う。蛍は、アユミ・ダグラス社長としてRS住宅の法人を立ち上げて、賃貸マンション、賃貸住宅の提供を行う。 
共に、太陽光発電機能を持つ住宅壁面パネルと屋根代わりの発電パネル住宅を建設する。住宅販売の場合は、購入者はRed Star Bankで全額住宅ローンで購入する。銀行はプレアデスエナジー社から、ローン費用を毎月回収する。プレアデスエナジー社は、住宅が発電した電気を、フィリピン電力に売電し、利益を得る。住宅購入したオーナーは15年後に住宅所有権を手に入れる。それまでの間、固定資産税の類は一切掛からない。    

賃貸物件には月額数万円の家賃を設定する。北朝鮮や日本からの季節居住者や、リタイヤ世代の賃貸住宅、研究者の居住先として貸し出す。家賃収入は全額、スービック市のものとなる。要は、賃貸料が税金の代わりになる。この賃貸住宅の話を情報を聞いて、世界中から人々が集まって来るようになるのだが、この時点では完全に想定外だった。

管理事務所から、数件隣りに出来たIndigo Blueのミニスーパーに寄って、買い物を始めた。人数が増えたので、買い物の量も、今までの3倍では済まないかもしれない。
 
幸乃と次女、彩乃の親子は、スービック市長に、ベネズエラ政府の厚生労働大臣として、面会していた。スービック市民病院に麻薬患者用のケア施設を提供したいと申し入れる。
フィリピンは2000年以降、他のASEAN諸国に比べて経済的に低迷が続き、麻薬ビジネスの拡大を許してしまった。嘗ての中南米諸国でも起きた「あるある」現象だ。中南米諸国での、麻薬患者ケア施設と同じものを市民病院に設けて、近隣市の患者も滞在型で脱麻薬を実現できるプログラムを、娘の彩乃がプレゼンしていた。

フィリピン各所で跋扈している麻薬ブローカーや栽培農家は、中南米軍のロボット海兵部隊とフィリピン軍で、中米やコロンビアで行った掃討作戦を模して、実行の真っ最中だった。

富山で稲刈りを終えて、フィリピンに乗り込んできた母親達は、ベネズエラでこれまで取り組んできたものを踏襲し始めていた。
同時に、火山噴火で北朝鮮に避難していた避難民の里帰りや、日本や北朝鮮・旧満州の農民や漁民が、ルソン島南部の田畑や養殖場での就農、就業が始まっている。
今までに無かった状況を伝えるニュース映像を見ていたフィリピン国民には、スービック、オロンガポ、アンヘレスといった都市が、羨ましく見えて仕方がなかった。何しろ、無償住宅なるものがあって、新たに稼働を始めようとしている工場が幾つもある。街は学園都市へ変貌すべく建設ラッシュが起きており、日本の流通業が多数店舗を出そうとしている。
北朝鮮から帰ってこない人々の方が多いので、空き家もそれなりにあって、賃貸も、売り物件も数多くあると聞くと、移動を考える人々も出て来る。今の暮らしよりもいい生活が出来るのではないかと。
それを見透かしていたかのように、ルソン南部の各市が、お試し居住プランや転居プランの紹介を始める。

このようにフィリピン内での人的移動が、始まろうとしていた。
  
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羽田空港に政府専用機、ゼロワンシャトルが停泊し、機の前では杜夫妻と柳井元総理に2号機の機長のジュリアが、両陛下と内親王を出迎える。

これからタイ、スウェーデン、スペインの各王室からの招きに応じて、下僕として同行する。通常の飛行機では組めないスケジュールを、ゼロワンシャトルでは難なくこなす。 また、羽田からでは「あっ」と言う間にバンコクに到着してしまうので、少々遠回りしながら高度10万メートルの景色を体感いただく。ご一家にとっては、これが最大の目的なのかもしれない。柳井純子も金森 鮎も要らないのに、シャトル目当てに付いてきた。

一向は2機に分乗する。侍従の方も乗り込むと、モリは普通のジェット機のようにゆっくりと機体を離陸させる。北朝鮮からやってきた、護衛の中南米軍機ゼロ2機が前後に付いて、4機が編隊を組んだ。

「皆さん、前に見える機体が新型戦闘機のゼロです。道中の護衛機として伴走致します。 これより、高度を上げてニューカレドニア島上空まで向かいます。段々と光景が変わっていきますので、変化をお楽しみください。シートベルトは、トイレ以外では外さないようにお願い致します」 
やがて、ロボットのアンナが紅茶を恭しく届けてくれる。御用達の茶葉だというので、有難く頂戴する。

10万メートル上空になると「ほぼ宇宙」だ。空気抵抗が無いので、飛行機特有のノイズも無くなる。用意していた、故カラヤン指揮の「2001:A Spece Odessey」をBGMとして流すよう副機長席のジュリアに指示を出す。40年も、映画より遅れてしまったなと思いながら。
RedStar社の音響装置の性能を天皇家に味わっていただく。宇宙圏での音は、映画館の音響に劣らないはずだ・・

「陛下、皇后陛下、内親王さま、音楽のリクエストがありましたら遠慮なく客室乗務員にお伝え下さい。地球上の全ての曲をご用意してございますので。尚、シャンパンはスペイン、愚息のワイナリーのものでございます。各種ワインも用意してございます。コーヒーは柳井幹事長農園で栽培したものです。宜しければお試しください」

Angel社の映像班の日本製ロボット、エリカも同乗者に加わっており、道中の天皇家の模様を撮影し、宮内庁に送信して内容チェック後、ニュース配信される。宮内庁が入って一々面倒だが、こればかりは仕方がない。    ーーーー 

蒼色に塗装された新型輸送船「Blueberry」が置いていった、日本で陛下が利用している皇族車2台と侍従とモリたちの乗る車輌2台、更に護衛のバイク10台に搭乗したジュリア10体、各車両の運転手と護衛のジュリア8体が積まれている。ジュリアは全員、自衛隊の将校服を着用し、銃を所持している。今回は、日本領ではないので警備体制を整えてきた。他国の警備体制を日本大使館や日本の警備担当者が事前に確認する手間を考えれば、こちらで揃えたほうがてっとり早いし、楽だ。サンダーバード2号であれば、この倍は楽に搭載出来る。今後、総理の外遊でも、このパッケージ流用される。既に閣議決定済だ。皇族が日頃使っている車両の後部座席に3人で座る。真ん中はモリとなる。

「サンダーバードは何処へ行ったの?」柳井前首相に聞かれる。    

「東北部のウドンターニーにある空軍基地です」

バンコク中心部に向かう高速道は今は封鎖しているのだろうか、対向車線にも車が見当たらない。徹底しているなと感心するが、タイに駐留している中南米軍のアドバイスかもしれない・・

「ロボットの護衛は日本らしくて、なんか いいわね・・」鮎に言われて、頷いた。      

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宮殿内の謁見の間で、背後にいるジュリアから、アタッシュケースを2つ受け取る。国王とは、ビルマでのクーデターの頃から既知の間柄なので、ズカスカと勝手気ままに動き出す。

「陛下、火星とベネズエラで採掘したものでございます。中身は鉱物です。お収め下さい」   
宮内庁の慣習にはないのだろう。陛下も皇后陛下も驚いているし、宮内庁の侍従長は慌てた顔をしている。王の隣に居た皇太子がケースを受け取ると、王が問うた。
「火星では、何が採れるのですか?」
「石油、石炭、天然ガス以外は、地球と同じ種類の鉱物があります。まだ、火星と月しか、試していないので他の惑星がどうなるか、分かりませんが・・中をご覧になられますか?」     

「では、折角ですから拝見させていただきましょう」
大王様が貰った所で、そんなに喜ばないかもしれないが・・「かしこまりました・・」そう言って、皇太子がチタンのケースを開けると、金塊とダイヤの数々の製品が入っている。
・・やはり驚かないか・・日本の王様の方が驚いた顔をしている。内親王に向かって「あとで」とケースを指差して口にして、内親王が驚いた顔をされる。モリはゆっくりと閉めて、ケース2つを王のお付きの方に託した。                                                      ーー
「モリさん、またあなたは驚かせてくれました。先日、G20の席上で阪本首相はあなたの事をケチ呼ばわりしましたが、あれは嘘だったんですね?」 ようやく笑ってくれた。手の込んだ小細工が功を奏した。   
「この後も、陛下と同じ反応が得られるといいのですが」と言って笑った。         

「天皇陛下、皇后様、そしてお嬢様、ありがとうございます。謹んで受け取らせて頂きます」国王が頭を下げると、陛下がモリに視線を送って、口パクされる。「だいじょうぶなの?」と。

モリはニコリと笑った。    

ーーー 

「今後、陛下の渡航では、これが定番になるのね。安上がりだけど、効果絶大かもね・・」晩餐会を終えて、各自、部屋へ戻った。柳井幹事長と蛍 官房長官・・金森鮎は、同室でワインを飲んでいた。 

「本当ですね。こないだの北朝鮮と満州が嘘みたい・・毎年のように呼ばれるでしょうし、春になったら、日本へお招きしないと・・でも、相応のものを持って来るのかな・・」

「そこは要らないって言ってたわよ。ロボットが掘ったので大して費用は掛かっていませんって、伝えてた」

「とは言っても、手ぶらじゃ、来ないでしょうけどね」

「アンモニア工場も、発電所も作っちゃうとなれば、土産も豪華になっちゃうかな・・」
元首相同士が笑った。
                             10機の新型輸送機が成層圏の彼方を飛ぶようになると、従来の物流の流れが落ち着いてくる。何が起こったのかは次第に明らかになるが、当初の段階では分かりづらかったかもしれない。何しろ、新型機が視野に入る機会が少なかった。宇宙圏を飛んでいるのだから、遭遇しない。中南米と中国を除くアジアを往復する4機、中南米とアフリカを往復する3機、アジアとアフリカを往復する3機が24時間体制で往復するようになる。
今は、平時なので民間の物資しか運んでいなかった。船舶も同様に3エリア間を移動しているが、時間が掛かっても影響を受けないものが海上輸送品となる。衣料品、缶詰、腐葉土、洗剤などの家庭用化学品、工業用部品、素材などとなる。
例えば、中南米とアフリカの間は、輸送機の腹部が脱着式となっていて、ガントリーボックスと呼んでいる巨大な収納コンテナが赤色になっている。後の2コースは青と黄色に塗られている。カエル色の機体なので腹部の色が違うので、見た人は色の違いにギョッとするが、担当者には、どの区間を往復している機体なのかが、一目で分かるようになっている。
空港でガントレーボックスを積み込む際に、アフリカなのか、アジアへ向かう機体なのかがハッキリする。

アルゼンチン ブエノス・アイレス空港の輸送機エリアに停泊しているThunderbird2が、用意されたガントレーボックスを装着する。装着と同時に、ガントレーボックスから積み荷の情報が送られてくる。
アルゼンチン牛の解体肉が冷蔵状態で格納されており、シンガポール、チャンギ空港へ向かう。積み荷と行き先に間違いがないことを、ジュリア機長が確認すると機体は滑走路へゆっくりと向かい、1時間以内にシンガポールへ到着する。
シンガポールでTigar Beer社の商品が満載のガントレーボックスを積んで、2時間後にベネズエラのカラカス空港へ降りているだろう。ベネズエラで絹と綿布を積んだガントレーボックスに積み替えると、大阪伊丹空港へ着陸する・・ひっきりなしに飛び続け、運びまくっても、核燃料の積み替えは半年毎で、ペアのジュリアは操縦桿を握りっぱなしだ。2体同士で自分達のバッテリーの交換を都度行う。
10機がいきなりフル回転をし始めると、既存の物流網に頼っていた箇所が減少してゆく。
毎月、数機づつ投入して、輸送機の台数が増えてゆくと生鮮品や短納期の電子部品等、時間を優先するモノを請け負うようになってゆく。

先日、火星基地で建造された2機に内装が施され、AIなどの電子機器類が装着された。宇宙からはグライダーのように滑空してきただけの伽藍堂状態の納品だ。
塗装も何もされていないので、蒼色と翠色がそれぞれ施される。この2機はモリ家で私的に利用する。
2人の愛娘の名前を施す、親バカぶりだ。蒼色の機体は「Blueberry」黄緑色の機体は「Green beans」と名付けられた。Blueberryは今回の外遊へ、GreenBeansはモリ家の自家用車などの積荷と当事者全員を、フィリピンへ運んだ。

モリ家所有機を含めてThunderbird全機はプレアデス運輸で管理され、嘗て、中国のスーパー各店舗を運営していた「上海 北陸有限公司」の日本人スタッフ5名が、台湾・基隆港の本社オフィスで海運も含めて担っている。中南米諸国連合と日本のプルシアンブルー社の仕事が大半を占める格好となる。今までの音速輸送機の輸送に変わる手段となるが、地球の裏側でも1時間なので、生鮮食品、魚や肉も冷蔵状態での輸送が新たに始まり、業務自体の幅も、取り扱い量も増えてゆくだろう。

「ASEAN各国に、南米の魚介類、精肉が1時間で到着」
朝のニュースで、ペルーからバンコクへやってきたサンダーバードが魚を届け、同じ機体が2時間後に再び現れて、アルゼンチンビーフを納品していった映像を流している。
「流石に、空港職員の居ない深夜の納品・出荷はありませんが、この機体は中南米とアジアを日々8往復し、他にも2機が中南米からやって来るのです。中南米諸国がアジアに生鮮食品を届けられるようになりました・・」と淡々と伝えている。画面はindigoBlueの食肉、鮮魚売り場の映像に代わり、安い値段で陳列されて人々が挙ってカートに入れている光景が映し出された。

モリはほくそ笑んで、テレビを消すと朝食を食べにホテルの階下へ降りていった。

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天皇家が各国を歴訪するのは聞いていたが、地球を周回して行くのは誰も想像していなかったようだ。それでも2時間後には、バンコクへ到着していたと報じられると「羨ましい」と多くの人々は感じたようだ。
翌日、観光地を訪れる皇族の映像には、モリの姿だけが映っていない。各国の分析班も心得たもので「単独行動中だろう」とカテゴライズしていた。

プルシアンブルー社の樹里副会長は、早速旅行部門に「2039: A Spece Odeceey」の地球周回軌道のツアー企画の指示を出した。
「企画段階での試乗には、私も連れてってね」としっかり釘を指しながら。職権乱用である。しかし、これがドル箱商品となる。大枚叩いて宇宙旅行を味わう必要はもはや無くなる。しかも、同じ10万メートル上空だ。天皇家が機内で召し上がったものをツアー客に提供すれば、自ずと高級感も増す。

アメリカやイギリスの旅行会社は企画書を破り捨てる。
ロケットに乗る訓練をしたりする必要も、宇宙服を着用しなくとも、通常の機内と同じように高度10万メートルの世界を味わえるのだから。その上、料理は皇族が食した機内食だ。宇宙食なんかじゃない・・。

自国の宇宙開発を促進すると公言していた中国、米国は、ニュースを見て、また落ち込んだ。先に、天皇家を持って来るのは想定外だったが、PR手順としては完璧な内容だった。
機内の天皇家の方々の表情が、状況をよく表していた。

ーーーー

皇族と、お供の柳井幹事長の車両の上空には護衛ドローンが飛んでいた。護衛のバイク隊は減少し、モリの工場用地視察に付いて行った。
モリは街で買った中古の250CCのバイクで高速道を走っていた。後続の2台のバイクを運転しているのがロボットなので、すれ違う対向車の運転手が驚いた顔になるのが楽しかった。高速なので、少々振り返っても事故にはならないだろう。

大統領に戻ったら、こうして他国でも自由に行動出来ないものかと、あれこれ考える。
結局、ジュリアの性能を上げて、監視衛星とドローンで周辺監視を行うのは最低限必要になるだろう。嫌だと言っても、後任の首相と外相のボクシッチ夫妻は許してくれないだろう。
ドローンどころか、完全武装したフライングユニット数機を護衛にして、上空で旋回待機させるかもしれない・・そう考えて、楽しめるのは今だけかもしれないと、アクセルを吹かして加速した。直ぐに2台のバイクが左右から前に出て、ジュリアが指を立てて左右に振って警告してきた。日本の白バイの加速性能を思い知り、仕方がなく速度を落とした。


「また自分勝手な行動して!」常時モリの外出行動を監視している蛍が、護衛のドローンが撮影している映像を見ていた。

「あら、なんか古いバイクね・・レンタルバイクかな?」蛍と同じ歳の幸乃が、タブレットを覗き込む。
「いや、これは好みの無骨なバイクだから、おそらく買ったんでしょう。フィリピンかベネズエラに持ってくると思う・・」

「バイクコレクション、今は何台なの?」あゆみが彩乃に聞く。

「カラカスのガレージに4台、サンクリストバルのガレージに3台だね」

「変わってないんだ。じゃあ、ここにもガレージを作っておこうかな」

「そんなの認めたら、一人でフラッと出掛けるようになるじゃないの・・」

「その位いいでしょう。どこに行っても、お母さんが監視してるんだもん」
蛍とあゆみの親子なのに、姉妹にしか見えない2人の遣り取りを聞いていて、おずおずと玲子が進言する。

「あのですね。2台のサンダーバードは自家用機だから、ガントレーボックスを倉庫代わりに並べて行くって、先生が言ってましたよ。車の車庫や、雨の日の子供達の遊び場とか、洗濯物の干場とか・・あと、大人達の夜行会の場とか・・」
玲子が自分で言い出しながら、恥ずかしくなって下を向くが、女性陣はそれはイイと拍手する。外部電源と繋げば、照明も空調も使えるのを知っていた。それならベネズエラでも使おうよ!と言い出したのは、彩乃だった・・

(つづく)

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