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(5) 世の中は、三日見ぬ間の桜かな


 予想もしない出来事から、想定していた計画が覆っていった。
サンクリストバルの農場で、蕎麦の収穫作業をしていた週末に、その事件は起きていた。アメリカ・サンフランシスコ郊外のホテルで、一人の東洋人女性が殺害された。アメリカ以外には報道されることもない事件なのだが、捜査が進むに連れて海外メディアも取り上げる事件となってゆく。
事件の発端は、中国国籍の女性がホテルの一室で殺害された。男性と2人連れで宿泊に訪れたそうだが、その男は居なくなっていた。捜査が始まり、殺害された女性の所持品にあった手帳から、この女性は売春行為をしていた可能性が出てきた。手帳に記載があった元締めの男が逮捕されると、この女性と一緒にいた男の名前も分かり、2人は容疑者として連行された。事件自体は犯人逮捕となったのだが、この事件の元締めの男に注目が集まってゆく。
男は人権活動家で、中国国内の人権問題を批判してきた。中国国内で人身売買の対象となった女性を開放し、ケアハウスという収容施設をアメリカに用意し、保護に務めていた経緯から、アメリカ政府としても中国の人権問題を批判する上でオブザーバーとして相互協力していた。中国人権批判のフロントマン的な存在として、メディアでも度々コメントが取り上げられる人物に「裏の顔」があったとして、ちょっとした騒ぎになった。
その人権活動家がケアハウスとして家を借りて、保護していた中国人女性・・全員が少数民族出身者だった・・に、良からぬ仕事を強要していた実態が判明した。

女性たちは「保護された女性達」として何度かテレビに顔を隠して出演し、中国内で少数民族が迫害を受けている状況を訴えた事もある。
しかし、実態のケアハウスなるものは隠れ蓑で、女性たちはアメリカで2次被害にあっていたとして、事態は変化してゆく。精神科医の同席のもとで、細心の注意を払いながら時間を掛けて女性達に聴取していく過程で、中国人民解放軍に半ば詐欺のような手口で連れて行かれて、中国軍人の相手をしていた実態が浮き彫りになった。逮捕された人権活動家が知り、人民解放軍と交渉し、6人の女性を連れてサンフランシスコへ渡った。しかし、中国軍の関与を知りながら、それについては伏せた。中国の少数民族の家計が苦しいやむを得ない事情を掲げて、春を売るしかなかった。それというのも中国政府の少数民族政策が不十分で、人身売買を黙認しているからだと訴えた。
中国人民解放軍からの口封じで女性を無償提供され、アメリカまでの渡航費すら出して貰い、その代わりに虚偽の報告をアメリカで伝える。中国政府は覚えがない話なので「フェイクだ。中国政府は少数民族政策に力を入れている」と真っ向から反論する。そこで女性たちをテレビに出演させ「援助はなんら少数民族に届いていない。中国は何もしてくれない」と言わせ続けた。流れ的に、女性たちの発言が正論と解釈されるようになる。しかし、実態は4年に渡って「裏の仕事」を強要されていたのだ。

政府も、TV局も、男に騙されていたと知り、慌てた。したり顔で中国政府を批判するコメントをしていた男の動画が拡散する。善人の顔が一瞬で崩壊してしまった。問題の矛先を変える必要があると考えたのか、自分達を正当化したかったのか、犯人をコメンテーターとして使い続けたテレビ局が、中国軍が詐欺まがいの方法で少女達を拉致したという事実関係の究明を始めた。中国大使館や、中国政府に正面切って確認すれば「事実無根」と突っぱねられる可能性が高いので、少女達の実家へ訪問し事実関係の確認することにしたようだ。中国側には「少数民族の番組を制作するため」と伝えて、雲南省入りした。

中国も寛容になったものだ。ガイドという名の監視員は付けなくなった。
アメリカに渡っても被害にあっていた娘の実態を知り、家族はさめざめと泣いた。「安全だ、心配しないで欲しい」と信じて見送ったアメリカでも騙されていたと知り、やるせなさと屈辱のこもった感情を家族はぶつけた。何故、娘はここまで貶められなければならないのか、何故、私達少数民族が被害を受けならなければならないのかと。
やがて、冷静になった家族は、人民解放軍の軍人の名前を上げ、今でも少女たちが捕われている場所を明かし、被害者は何十人にも及ぶと暴露した。テレビ局は事の大きさを知り、アメリカへ戻って映像を政治家に伝えるのと同時に、アメリカ政府とも協議して、場所と人物が特定されないようにして、何十人もの被害者家族の映像を報じた。雲南省人民解放軍の軍人の所属部隊も名前も全て同じだった。

中国側もこの映像を見て衝撃を受ける。即座に渦中の軍人を逮捕すると、早速人民解放軍のトップが頭を下げて謝罪した。問題となった大尉の複数の上官も関わる組織的な犯行だと断定して謝罪した。全員を逮捕して、これから裁判にかける。少女達を全員救出して、今はメンタルケアの治療を行っているという。
総書記から、アメリカ大統領にも謝罪の連絡が入る。全面的に中国側が悪かったと。更に中国で救出された大半の少女達が少数民族ではなく、チベット人だったのが、問題を新たな方向へ変えてゆく。これでアメリカの介入は避けられないとモリは判断した。密かに中国側と進めていた話が、本件によって見通せないものに変わった。
中国総書記がカメラを前にしてチベット民族や他の少数民族へ謝罪する映像を流した事で大勢は決まった。これで国連の人権チームが動き出すだろうとモリは察した。当初描いていたプランは恐らくご破算となったと判断し、モリは日本政府に通達を送り、作戦の凍結を決定した。インド政府へは状況が変化してしまったと、書簡で詫びて欲しいと日本側へ要請した。

この時点で、北朝鮮、ベネゼエラのメンバーで、モリがチベットでアクションを起こそうとしていたと知るものは居ない。日本の首相と官房長官、防衛大臣の3人だけに知らせていた。サンクリストバルで事件の暗闇の深さに打ちひしがれ、意気消沈しながら翌日曜日も収穫作業を行っていた。
カラカスに戻った週明けは執務室に篭った。昨晩、追加のショックを受けた。ベネズエラがW杯の出場を逃したからだ。大臣達はモリの余りの落ち込みように、暫くそっとして置くことにした。 

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ベネゼエラ代表がパラグアイ代表と最終決戦を迎える前日、モリ達がサンクリストバルで収穫作業をしていた頃、日本平スタジアムはエスパルスのホームゲームの日だった。
エスパルスのユニフォームを着て、サポーターになりきった母娘は、スタジアムに到着して驚いた。そこかしこに太陽光パネルがあって、スタジアムの外壁にセラミックパネルが付けられていたからだ。
あゆみは「やられた」と思った。会長か社長が先行して整備したのだろう。飲食店も綺麗に整備され、Red Star Beerのビールスタンドに、Route55のアイスショップとRick’s Bargerのバーガーショップが出来ていた。ショップに母親がいそいそと入り込むと、背番号23.24,25,26のそれぞれのグッズを買い漁り始めた。完全に親バカ、あゆみは事実関係を知っていて、火垂と海斗にとっては姉に当たる母親を見て、苦笑いしていた。棚にある全てを買う勢いだった。そんな勢いづいた母親は止められないので放っておいて、クラブのHPを見ると、やはり使用電力削減をうたっていた。
平日も充電、売電により、クラブの収益に当てているとある。このまま行けば月500万円以上の収入になるという。スタジアムは夜間照明やオーロラビジョン等で電力消費量が結構あるが、それでも余剰電力が生じるのが驚きだった。理由は試合のない日もスタジアム全体で発電しているからだ。これならサッカー場だけでなく、球場やアリーナ、体育館でも使えるだろう。

PB Enagyの静岡支社では、県内の電力発電量が今年中に2/3に減少し、来年には半分になって、暫く下げ止まるとの見通しを静岡県庁に提出した。 実際の県内の電力需要は増えるのだが、自家発電と売電で、発電所の発電量も40%で事足りる見込み、と有る。これは大きな変革が起きると知事は考えた。太平洋側の県と九州が発電が仮に半分で済むと、発電所の数は増やす必要はなくなるし、充電された電池を使った事業が活性化するだろう。パッと思いつくのは電気自動車関連だ。県内には3つのバイク会社と様々な自動車部品メーカーが存在する。
プルシアンブルー社に負けないよう商品化を進めて欲しいと県から要請すると、既にプルシアンブルー社から電動バイクの製造を請け負った、と言われてガッカリしてしまう。また先を越されていたからだ。
自分達が考え製品化したパネルだから、先を見通すのも早いのは分かるが、それでもやられたと思ってしまう。しかし、このミニバイク、自分も欲しいなと知事は画像を見て思った。

経済産業省も、セラミックパネルが齎す産業の変化に注目していた。
外壁が発電するコンセプトは、建物自体が発電機であるかのように稼働する選択肢を得た。決して高額な費用を必要としないので、採用のハードルも低い。と言うよりも、採用したほうが「得」をする。
自家発電能力が上がるので、電気自動車の普及率も進むだろうし、蓄電池を利用した家電品も増えるだろう。
変化する可能性があるのが家電メーカーだ。家電は昭和の頃から「省エネ」「省電力化」の推進役となってきたが、自家発電なので省電力である必要が薄れる。有り余る電力をタダで使えるのだから、省エネありきの商品開発から脱し、高出力、高精細、高パワーで良くなる。
工場の生産製造ラインも同じだ。ロボットの利用台数を増やし、工場の無人化、夜間操業も視野に入れてもいい。ある意味で大量消費社会が始まった産業革命の再来とも言える。大量の無料の電力を人々は手に入れるのだから。空調が使い放題になれば、外気温を気にする必要がなくなる。40度50度にもなる砂漠地帯に、大規模な工場を作り、室内で野菜を栽培する。海水を常に浄水して河川に流し、農業・工業用水として使う。地球上から水不足問題が解消するかもしれないし、地球のあちこちで野菜や畜産の生産を始めれば、食糧問題の心配が要らなくなるかもしれない。きっと代替肉や昆虫食なんて、考えなくてもよくなるだろう。
つまり、太陽に近く、土地が余っていて、海に面している国に今度は可能性が出てくる。
資源はギラギラと輝く太陽光さえであればいい、どんな炎天下だろうと巨大な建物が建てられて、巨大な空調機があれば何でも出来る。
中東、南アジア、中南米カリブ海諸国、そして、アフリカに可能性が出てくる。先進国はそれらの国へ進出を果たす・・そこで、経産省の担当者は中南米諸国連合が、既に展開していることに気づく・・また、1歩も2歩もモリに先を越されている。日本の経済産業省にとっての宿敵は、もはやモリただ一人に絞られていた。

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嘗て、原発、火力発電に置き換わる電源を考えていた時に、1次産業と電力の融合を思いついた。電力収入の手段を農家や漁師へ与えて、収入を改善させて1次産業の変革を促そうと考えた。その判断は間違っていなかった。1次産業従事者の減少を止め、就農を魅力的な手段として捉えて貰うようにまでなっていた。
日本とASEAN、中国の一部の地域で、一定の成果を収めたが、ベネゼエラに転じたときに、中南米、取り分け中米の1次産業従事者の収入の低さがネックになると感じた。毎月3ドル以下だと言うのだから、アジアと同じように太陽光パネルをばら撒くだけでは済まない、と理解した。
そもそも中南米に対する自身の理解度も極めて低かった。事務総長時代の唯一の担当外エリアだった。中南米について学びながら考察し、手順を都度確認して、試行錯誤しながら取り組んでいった。

ベネゼエラの就農者が極めて少ないという個別の事情もある。食糧を輸入に頼りきっていた国家を政権崩壊後に預かった者として、食料の安定確保が最優先課題となった。国民を飢えさせてはならないので、食料輸入、食糧援助ありきの現状を改善しなければならなかった。 1次産業の活性化から着手してゆく。
農地の為に必要なのが堆肥作りなのだが、熱帯では落葉樹が少なく葉を集めるのが難しい。それで海藻肥料を試してみた。養殖の鯖や鯵といった魚を缶詰加工する際に廃棄される内臓や頭を乾燥させて、肥料とし、やはり乾燥させて裁断した海藻と共に土壌に加えて土作りをしている。
熱帯の土壌は、雨期の雨の多い時期には一度に大量の雨が降るので、表土が雨で流されてしまいがちだ。土壌流出という現象だ。これで土の養分と共に流されてしまう。雨が上がった後で容赦なく太陽が照りつけると、土壌が急速に乾燥し、痩せてゆく。
栽培をする上で、この熱帯特有の自然環境の為に温帯圏以上に土壌改良にまめに取り組まねばならない。熱帯圏の人々が、農業を敬遠してしまうのも分からないでもなかった。

そうは言っても、採りたての野菜の美味しさや、栄養価の高い作物をヒトは必要とする。家族にも、美味しいと喜んで貰いたい。何時しか自分で栽培し、収穫するようになっていた。常時携わるのが難しくなってくると、AIロボットに頼るしかないが、それでも自分の耕した畑から作物が収穫できるのは何者にも代えがたい喜びがある。熱帯特有の果物各種が加わると栄養のバランスは更に保たれる。
一方で熱帯圏は気温が高いが故に、年中栽培することが出来る。確かに雨季と乾季という季節の変化で、雨季には土壌流出といった問題が生じるが、1年を通じて農作業を経験したことで、熱帯圏での農耕にある程度の理解が出来た。
国を預かる者として、地域に即した作物を栽培して流通させ、それを集約する事で人々に栄養価の富む新鮮な作物を提供していければと考えていた。
四季のある国のようにハウス栽培を取り入れて、無理矢理にキャベツやトマトを栽培する必要はない、この熱帯では毎日が収穫祭だ。その一方で熱帯圏の強力な日差しが悩ましくもある。
ベネズエラの開拓農地でも東南アジアと日本でも取り入れたように、畑に太陽光パネルを屋根のように設置して遮光する栽培テストを行った。直射日光を回避できるので土壌の乾燥を抑える事ができる。作物も強い陽射しから逃れることで生育状態が良くなり、栽培に適しているのが確認できた。

中米とエクアドルのバナナプランテーションをアメリカ資本の企業から買収し、AIロボットを投入して土壌改良を続けている。化学肥料と農薬漬けの農場に勤務していた方々の中には、農薬で健康を害した方も少なくない。バナナ栽培は劣悪な環境下で行われているのが通例となっていた。生産優先の環境に優しくない栽培方法を止めて、自然農法に転じて行く過程で、収穫量は限られたものになるにせよ、バナナの品質は向上した。このバナナを今ではIndigoBlue Groceryの提携先で販売している。
アメリカ企業が収穫増と効率を重要視して、環境と生産者を全く考慮せずに破壊し続けたのに対し、バナナの木の間隔を広げて通気性を向上させて病気になる確率を減らし、幹の根元に海藻や魚粉を埋めてゆく。ミミズのような小動物を投入して、土壌を更に養分の含まれたものに育てて、土の再生を続けてゆけば、計算上は美味しいバナナになってゆくはずだ。バナナの木の間隔を広げた場所に太陽光パネルを設置して日陰を作り、土壌の乾燥を防ぐ。
バナナの収穫量が減った分を、電力で補おうと考えた。バナナプランテーションで働いていた人々はベネズエラの農業技能者制度を紹介して、家族連れでベネズエラに開拓に来て貰った。農薬漬けの生活から離れて、健康を取り戻していただく目的も兼ねている。
プランテーションの発電による売電収入と高級バナナに転じた収益を農業技能者の皆さんの給与の一部に充てる。勿論、ベネズエラの農園での電力収入と農作物の収入と合わせて。バナナの他にAIロボットが育てたパイナップルがベネズエラの初の特産品になり、今はコロンビア、エクアドルでもパイナップルを育てている。今度は直接光を避ける為に丈の低いパイナップルの頭上に、パネルを敷き詰めている。

このようにして半年前から、開拓地や各国のプランテーションで太陽光パネルを設置して、農耕従事者から理解が得られるように、地道に活動を続けている。中南米の一般的な農家は、アジアの農家さん程の収入は無いので、設置費用は政府が負担するが、南国の発電量は中々のもので、投資した費用の回収が思ったよりも早く出来てしまう。
中南米の農地で太陽光パネルが採用が増えているのだろう。太陽光パネル製造工場も増設が必要な状況となり、生産ライン拡充の検討を始めた。

12年前の太陽光パネルに比べると、性能も格段に向上し、3倍近い発電能力を誇る。これは太陽光反射板を平面ではなくそれぞれ立体化させて、1枚のパネルあたりの発電する面積を増やした事と、発電した電力をロスするパーセントを減少させて、蓄電システムに送電する効率を改善した事による。太陽光パネルもまだ進化の可能性を秘めている。
この技術開発の過程で、モリが思いついて最近、製品化したのが「建物外壁で発電する」という発想だ。「街自体が発電所になる」このイメージが浮かんだ時は、AIをずっと弄っていた。そして技術的に可能だと判断して、プルシアンブルーの基礎研究所に持ち込んだのが3年前だ。AIが図面を作成していたので、試作品を作ってテストを始めた。商品化の目処が立ったのが昨年だ。生産ラインも整った所で先日発表した。

2010年代、世界中でメガソーラーなるものが世に出ていた。日本でもこれからのビジネスチャンスだと金融機関や不動産会社が飛びついた。
遊休地に太陽光パネルを敷き詰めて発電するのが当初の計画だったが、浅はかな業者や金融機関が数多く現れて、無計画に飛びついた。当時の愚かな日本政府は規制するどころか、新たな献金先の登場に喜びながら、これからの新エネルギー政策に関わる重要な事業だと容認した。業者は後先も考えず土地を購入し、地権者を騙して、山の斜面や、山の頂上部の木々を伐採して、自然環境を破壊して太陽光パネルを敷き詰めていった。
予想通り、自然災害を巻き起こす原因となる。山の治水能力を侮り、山林の重要性を全く考えず、山の上部で日当たりの良い場所だけを求めて開発を進めていった。日当たりの良い場所の木々がなくなれば、土壌が荒れるのは日本でも同じだ。日本の粗忽さをあざ笑うかのように、温暖化が進んで夏の日差しと気温は獰猛さを増した。夏だけで言えば熱帯にはヒケを取らない。
夏の暑さばかりでない、気候変動は降雨変動も齎した。梅雨から7月に掛けて異常降雨の年が数年おきに繰り返されるようになる。
世界で言えば干ばつか、豪雨か、いずれかに別れるようになっていた。日本は異常な大雨が続くようになった。豪雨の度に自然のバランスが崩れ、斜面が崩壊してゆく。結局、損失だけが残った。

北前社会党は、早晩メガソーラー事業は破綻し、国土も荒廃すると予見して、開発に規制をかけた。同時に、農地と海上と、倒産したゴルフ場跡地等に太陽光パネルを広げていった。山間部を弱体化させない太陽光発電となると、「既に自然が破壊されている」農地か、ゴルフ場、スキー場位しか考えられなかった。しかし、農地面積自体が日本列島には少ないので、発電場所を海上に求めた。
10年前の太陽光パネルでの発電能力では得られる電力も限られたものでしかないと分かっていた。到底太陽光発電だけで主力電源を担うまでには至らない。その頃、基礎研究所で開発していたのが水素タービンを使った発電だ。これが思ったよりも早くモノになったので助かった。日本政府は脱原発、脱火力に踏み込み、ガス会社を存続会社として、電力会社とガス会社を合併していった。同時期に、現在のPB Enagy社を設立して、電力事業と送電事業を担っていった。

そこに今回新たに加わるのが外壁発電だ。パネル需要の理解と社会への浸透度がどのように推移してゆくのか、先はまだ見通せていない。しかし、電力のかなりの部分を占める可能性があると今は考えている。
その分、水素発電の停止期間を調整するケースも想定されるが、スマート電力化が浸透しているので、造作なく調整が計れる。
数年後は水素発電所がバックアップ電源になっているかもしれない。しかし、水素発電は止まることはない。電車と船、やがては航空機の動力エネルギーとして水素が製造され続けていくからだ。

都市全体が発電機能を得るまで、果たして何年掛かるのか。熱帯圏を中心に新たな発電が拡がって行こうとしていた。
外壁パネルの表面をセラミックにしたのは、セラミックがデザインも色も自由となるからだ。流石に発電に不向きな色もあるので、そこは試行錯誤をしながらとなるが、現時点で白と薄いグレーとカーキ色は発電能力を満たしたので製品化した。青系が可能になりつつあるがこれは水晶を石英ガラスする要領を応用して実現しそうだ。熱帯圏内の海洋側では、鮮やかな色を使った家屋が存在するので、青系の色彩は必ずや実現したいと考えていた。

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静岡県内のインディゴブルーの傘下の各ストア、セブンイ・ブン等のコンビニの外壁工事が始まった。企業もカーボンフリーに取り組まねばならない。インデイゴブルー社は全店舗で電力は全て自家発電とする方針を掲げて、まずは静岡県内の店舗から取り組み始めた。PB Motorsの静岡県内のディーラーも、工事に取り掛かった。こちらは単に纏めて工事すれば割安になるからだ。「企業が電力を購入しなくなる」これは、普通の電力会社であれば大打撃だろうが、日本の電力事業はPB Enagy社が一手に受けているので、何ら苦ではない。
水素発電・送電事業以外にも、ガソリンスタンド経営やスタンドに隣接するミニスーパーやコンビニ事業まで手掛けている。事業を多角化しているので影響はない。電力会社として余剰電力が発生しても、蓄電池システムへ充電し、電力を喪失しないようにしている。更に水素発電列車のバッテリーや、EV自動車の充電事業や、固体電池の交換により電力収入を得る。

何れにせよ、日本最大手のスーパー・コンビニの発表は影響が大きなものとなった。電力を買わなくなると、日本国内だけでも毎月 数十億円の費用が浮くので、その分を「お客様還元セール」で割引していくという。

日本政府が各省庁の外壁工事を始めると言うと、都庁、神奈川県庁等の各県庁が我も我もと後に続く。コンクリートやALCの外壁を交換せずに、その上から重ねてゆく事も出来る。パネルの表面がセラミックなので、違和感が無いというのもある。大きな波が日本でも始まろうとしていた。

「北朝鮮のセラミックパネル工場が増設を決定しました。1ヶ月後に今の3倍の生産数にするそうです」 志乃総務大臣が明るい話題を持ってきた。

「3倍も?・・なんでまた・・」

「インディゴブルージャパンが、静岡県内から外壁工事に取り掛かって、次は神奈川県と愛知県の店舗の外壁の発注をしてきました。それと太平洋側の各県庁、各市町村の建物の外壁工事が始まる事になって、発注が続いたそうです。直ぐに費用回収出来て、特別収入になるからと。他にも、こんなに多くの注文が届いています・・」

志乃から渡されたタブレットには、道路公団は高速の高架外壁、JRも新幹線高架外壁、静岡県内各社工場外壁と、膨大な受注データが連なっている。
北海道・根釧工場の操業開始は6月だ。7月から9月は炎天下の作業となるので外壁の交換作業は避けるようにガイドするなりして、交換作業が加熱化するのを抑制しよう・・

「どうして一気にやろうとするんだろう・・」
日本人の悪いクセだ。直ぐ隣を、横を見る。出遅れてはいけないと焦るのだろう。少しでも早く、収益を増やしたいというのも本音なのだろうが・・
まさか日本が先行するとは思わなかった。少々、見誤っていたようだ。

(つづく)

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