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(2) 三度、 罠に嵌める。(2024.1改)

測量用の機器も真新しく、「pb」の青いロゴのドローンとバギー等を見守る一群が居た。

ドローンとバギーを操舵しているAIが、測量値をPCとタブレットに送信する。別のAIが受け取ったデータを基礎工事用プログラムに盛り込み、建物全体の設計に取り掛かる。
人が介在せずにここまで出来るのね、と由紀子も凪も計測作業を感心しながら見ていた。

東南アジアに向かったモリ一行にはついて行かず、気仙沼に留まった源 由紀子は、気仙沼市内と橋で繋がる島・大島の高台で測量・検地しているPB建設の測量士達に、社員の宿泊先となっている元女将の貝塚 凪と、呈茶と菓子を振る舞いに建設現場にやってきた。

一行は宇都宮市からやって来たと言う。
元々、地元の栃木を地盤とした中堅の建設会社だったのだが、栃木県知事と宇都宮市長に社会党選出の候補者が当選した際に、プルシアンブルー社によって買収されたそうだ。同社の傘下に加わってから、受注件数も増えたという。​

「効率が良くなったのは、測量や計測の部分だけですよね?」
茶菓子を推めながら、由紀子が訊ねる。

「いえ。これをご覧ください。土地の測量が終われば、建造物設計が完了しています。
親会社の方針で高層ビル建設は請け負わなくなりましたが、10階建て位のマンションやビルなら、ものの数分で図面を作成します。設計の責任者が仕上がりのチェックを念入りに行なっているのですが、手直しをしたことが無いと言っています。従って、設計絡みのコストは殆ど掛からなくなりました。
お陰で大手ゼネコンに提案する際、競合会社となる下請け建設会社に勝つようになりました。
与党議員とのコネクションだけで受注を取っていた企業の鼻を、思いっきり証してやる事が出来るようになったのです」

「議員のコネクション・・」凪が新たな茶を社員の前に並べた。

「はい。連中は企業献金やパーティー券の購入費を建物の値段に乗せるので、建物の見積もり自体は高くなります。そこで、政治家が登場します。大手ゼネコンに口利きをして、新たな別の建設現場を紹介するから両方まとめて協力してくれと、自分と関係がある下請け建設会社を押し込むのです。数千万程度の差額であれば構わないと、プロジェクトを統括する大手ゼネコンも許容しますが、そこでウチの見積が、政治家絡みの連中よりも5,6千万も安いとなったら、流石に検討しない訳にはいきませんよね?」
社員が得意顔で話すので、由紀子も凪も笑ってしまう。

「同タイミングで岡山の中堅の建設会社を2社買収しているのですが、大阪、神戸の仕事を取りまくっているそうです。近々、岐阜と千葉の建設会社も買収するので、PB建設はそのうち大手ゼネコンに匹敵する企業になると思っています。PB建設がマンションとビル建設を請け負い、販売するのも時間の問題ではないでしょうか」
建設業と与党が公共事業絡みで癒着しているのは良く耳にするが、純粋にコスト面で勝負できる企業を無碍には出来ないだろうと、由紀子も凪も納得する。

「AIがこれを作成したんですよね?」
図面を眺めていた凪が訊ねる。
「ええ、そうです。これなんだか分かります?」男が図面の各所の記号を指しながら言う。
「建物の上にもありますね・・あ、ソーラーパネルですか?」
「正解です。市販のソーラーパネルの倍の発電量を誇る最新鋭の製品を、屋上だけでなく敷地内に散りばめて発電します。電気代も安くなるビルやマンションっていうウリも当社の特徴です。今、親会社が計画しているのが住宅販売です。AIによる自由設計の、太陽光自家発電住宅です。
それと、系列会社でPB Electonics社という家電製品を主に製造している会社があるのですが、その会社の社長が30年に渡ってモーターを研究・開発し続けてきた人で、ビル全体のエネルギー効率を最適化するために、ビル内の温度・湿度・空気の品質だとかを絶えず集めて解析して、ビル内の空調や発電機等をリアルタイムで遠隔制御する・・そんな集中管理システム的なものを開発しまして、太陽光で電力を作ってAIによる集中管理で消費電力を抑える、我社にしかないビルやマンションを建てられるんです」

「それでも他社より安くなるんですか?」

「はい。充実した機能に加えて、ビルやマンションが安くなるのですから、どんな建物だろうと価格勝負できるんです。来年は住宅販売だけでなく、ビルのリフォーム事業にも参入します。

「住宅販売・・あまりピンと来ませんね・・」

「住宅メーカーが販売している住宅の原価って、ご存知です?」

「スミマセン、検討も付きません」

「たったの2割から3割なんです。フザケてると思いません?そんなんだから、タ〇ホームみたいな格安住宅が出てきたんです」

「そうか、更に設計費用が掛からなければ・・」

「そういうことです。PB建設は優良マンションと優良住宅を提供する、良心的な建設会社として世間で認知されてゆくでしょうね」

私達が影のオーナーの関係者だと知ったら、あなたはどう思うだろう?と少々の誘惑に駆られながら由紀子は笑った。

その頃、東京地検特捜部が栃木と岡山の与党議員の事務所と赤坂の議員宿舎にガサ入れを行っていたのだが、気仙沼の工場建設地で歓談中の一同は知らなかった。

***

「速報です。東京地検特捜部は前外相の模擬氏と前厚労大臣の河東氏の宇都宮市と岡山市の個人事務所と、都内にある議員宿舎の家宅捜索を行いました。
捜査に踏み切った理由は、両議員の政治資金収支報告書に企業からの献金、5年間で双方の報告書に数億円が記載されていないと言うものです」

ノックの音がして、リモコンを手に取りテレビを消しながら、笑顔を噛み殺した。
直ぐに、首相補佐官の新井が入ってくる。

「検察は秘書だけでなく、2人の議員も逮捕すると息巻いています。検察は双方の秘書の供述内容と、秘書本人のアリバイ工作も偽りであるのを見抜いています」        
検察の動きを首相が知っていて、解散に煮えきらない態度を取っていた?と新井は勘ぐっていた。今も微笑みを噛み殺したような顔をしている。

「なるほど。栃木と岡山・・どちらも県知事が変わったばかりだね・・コロナ対策と称して県外者の流入を検知して、クラスター対策が講じられるようなシステムがあったよね?あれを導入しているのはどの県だったかな?」

「プルシアンブルー社のシステムですよね・・少々お待ち下さい・・あぁ、青森県、山形県、栃木県、岡山県、岐阜と東京です・・。
あぁなんてこった!このシステムで秘書と議員の移動と行動の把握ができてしまうのか・・」
ノートを持つ新井の手が震えている。

岡山県を例に上げると、隣の兵庫県のコロナ感染者数が増えているのに、岡山は減少を続けて山陰側の県並みの1桁台の感染者数に留まっている。県外からの来訪者全員を把握するシステムを岡山県議会が導入したからだ。
中国自動車道や国道から岡山入りした全車両の追跡、新幹線などの周辺県と繋がっているJR各線の各駅の乗降者の手荷物の大きさで、県外からの来訪者と思われる人物の移動を追い続ける。
水島港、岡山新港に到着した船に乗船している船員たちも同様にマーク対象となる。AIが駅や港、街中の監視カメラの情報を絶えず集めて記録して、マーク中の県外からの人物が感染者と判定されると、訪問滞在先をローラーしながら、クラスタ感染を起こさない様に接触者全員をPCR検査を行なう。
県外からの来訪者と思しき人々を、昼夜監視しているのがAIだった。各都道府県で、富山で開発したシステムを導入しようと計画中だ。

コロナの終息宣言を出した富山では、産業スパイだけでなく、犯罪監視ツール、犯罪実行犯の追跡システムに様変わりして利用されていると言う。主要駅、空港、港、主要な商業施設の事業者に監視カメラの情報提供を求め、その見返りとして犯罪者や容疑者の早期発見や事件前の容疑者確保等の予防措置を、情報提供に応じた事業者側のメリットとして提示していると思われる・・。

「おそらく、そのシステムだろう。導入した県から選出された与党議員と秘書の行動は全て検察に抑えられていると見ていいだろう。ゼネコン絡みだけでなく、汎ゆる企業や団体との不祥事が表に出てくるかもしれない。
また、社会党推薦の民間大臣3名は辞任をすると言い出すだろう。3人の辞任と同時に、この内閣は持たなくなる。あの3人で今まで持っていたようなものだからね。
社会党はこのタイミングを狙ってたんじゃないかな、拉致被害者開放後の段取りがある程度纏まるまで待ってたんだろう」

「首相はどうお考えなのですが?」
新井は落ち着いて評論家ぶっている首相に苛立ちを感じていた。

「問題が顕在化するまではもう暫く時間が掛かるだろう。このまま検察も正月休みに突入するだろうからね」

少々他人行儀過ぎやしないか?と新井補佐官は首相の顔色を伺うが、今は能面の様になってしまって分からない。そうこうしている内に官房長官が現れて騒ぎ立て、有耶無耶になってしまった。

ーーー

ロイヤルブルネイ航空機の特別機が富山空港に降り立ち、次いで羽田に寄港し、乗客を回収してブルネイに到着したのは夕方だった。
王女にとっては公務ではなくて留学先からの帰省なので、空港では華やかなイベントも特になく、一行はバスに揺られるがまま運ばれていった。 

王女と執事が王宮で先に下車し、ブルネイ政府が用意してくれたモリ首相顧問の官舎だという建物は、小さなホテルのようだった。
アラブ的なモスクのような様式や意匠が随所に施されているので、日本のラブホ〇ルのように見えなくもなかった。
周囲も似たような建物なので、「ラブホテ〇街か?」とモリが思ったのも、男はモリただ一人で、他は全員女性だったからだ。
機内で富山組を束ねてきた蛍の隣に座り、「受胎には最良のコンディションだよ」と会って早々言われたから、なのかもしれないし、機内から出てきた荷物の中に経口避妊薬や避妊具のダンボールを見つけて戸惑っていたら、ダンボールを新顔の3家族にも見られてしまい、相当バツが悪い思いをした。決して自分が用意したモノではないのだが。

官庁街宿舎の共通だと言う執事とメイドさん達に、漢字表記はエロいダンボールと共に荷物を運ばれる。
屋敷の中に入ると厨房で夕食を作っているのだろうか?芳しい匂いがして腹の虫が鳴るのだが、殿下に到着の挨拶のために持参したスーツに着替えるや否や、蛍とあゆみと彩乃の4人でドイツの高級車に乗り込んだ。中学生の2人は学校の制服で、頭には布を纏っている。高輪の大使館に行った際に仕入れたらしい。
メイドさんにマレー式の正装を着せられた蛍は、後席で得意気な顔をしている。素直に見惚れてしまったのが不味かったのかもしれない。

前回は首相執務室で首相の殿下にお会いしたが、王様に面通しするのだからと謁見の間に通されて、物凄いデザインのテーブルに座らされて、4人で目をパチクリさせながら室内空間を眺めていた。
メイドさんが入れてくれる紅茶は「一体いくら払えば手に入るのか?」と悩むほどのお手前だった。メイドさんも「粗茶ですが」とは言わず、自信たっぷりの顔をしている。
「うわ〜」「ほぇ〜」と一口飲んだ娘達が分かりやすく口にするので、メイドさんも嬉しそうだ。

執事の人から「お見えになります」と言われて4人で立ち上がると 殿下と王妃と王女と兄弟達が入ってくる。 
蛍が動ぜずに王妃とハグして、仲睦まじく会話しているので驚いた。

「驚異的な速さで工場群が操業を始めている。感謝したい」と殿下に言われて、頭を下げる。
富山の半導体製造ラインを移植しただけなので、直ぐに可動するのも当然だ。この手順で工場を次々と立ち上げるのがプルシアンブルー社の以降の代名詞のようになる。          

「年明けには海上ソーラー発電も稼働すると聞いております。電力料金も下がって、国民の皆様にも喜んで頂けるでしょう」
人口50万人の国だ。富山湾で使っていたソーラー発電を運んで来たので、20万人分の電力がタダになる計算だ。 

「工場に備わっている設備から、海水を浄化した水が供給されるようになりました、プールや植物園で使わせて頂いております。大変感謝しております」
王妃に言われて頭を下げる。 
半導体の洗浄用の用水として常水にした海水を利用している。海水を利用しているのはおそらく当社だけだろう。余剰の浄水を市の水道局に供給している。 

「浄水化した際の塩を工業塩として活用するのは見事だが、合わせて採取しているのがCO2だと言うではないか」 
視察に行って、目敏く聞いてきたのだろう。好奇心旺盛な王様だ・・

「はい。海中のCO2を集めて、アンモニアを精製します。富山の火力発電所では貴国のLNG液体ガスに6%ほどアンモニアを混合して、燃焼させてタービンを回しています。
LNGだけの燃焼に比べて、1割ほどCO2の発生を減らせるのが確認できております。来年は倍の12%を混合させて燃焼する計画です」
公表していない話なので蛍も驚いた顔をしている。 

「流石だね。プルシアンブルー社の次の燃料はアンモニアなのかな?」

「社外秘だったので、今迄家族にも伏せていました。現在アンモニアを混濁させた燃料で可動するエンジンを開発しています。プルシアンブルー社はガソリン・軽油の次の燃料として注目しております」
恭しく頭を下げると、隣で娘が目を輝かせて親指を立てている。

お願いだから、屋敷に帰っても喋らないで欲しい。・・世界侵略プランの要でもあるので。

(つづく)                


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