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(5)ASEAN軍 進撃開始(2024.7改)

「タリバン最高幹部 死亡」
パキスタン国境に位置するタリバン支配地域に深夜爆撃が行われ、同地域に滞在していたマウラウイ・ハイバトゥラー・アクンザダ氏の死亡が確認されたと、タリバンが発表した。他にも同組織序列ナンバー3,4の2名も死亡した。

悲しみの表情を一切見せないタリバンのスポークスマンは、ナンバー2のモハマド・ハサン・アフンド師を最指導者に据え、「報復作戦」と名を変え、我々は必ず勝利すると述べた。

スポークスマンに引き続き、最高責任者に就任したナンバー2のモハマド・ハサン・アフンド師が画面に登場する。

「暫定政府と米国、そしてビルマなぞ恐るるにたりない。勝つのは我々だ!」とカメラの前で気勢を上げていたが、これで撮影場所が特定され、その日の夜に空爆され、新たなトップもスポークスマンも霧散してしまう。
タリバンはナンバー2のモハマド・ハサン・アフンド師の死去を今度は伏せ、複数の将校による合議体制に移行する。
しかし、一人一人にカリスマ性があるわけでもなければ、組織内での権力も無く、部下の信任を集めている訳ではなかった。
旧日本軍が勢いで南方戦線の緒戦に勝利し、獲得した地域の統治に将を据えたが、軍が統治能力を高める為も教育を施した訳ではなく、日本の役所の延長と日本文化を強要する能力不足を露呈し、全域で住民の信用を早々に無くし駐留軍は孤立した。敵のゲリラ部隊に日本の情報が筒抜けになるのだが、実に良く似ている。
そもそも大戦を始めたのは陸軍・海軍のトップだが、南方戦線への進軍のイメージは描けても、日本人は事前に当地を訪問したことも無ければ、視察にも行かない。何も知らないまま上陸し、占領後の統治を描けず現場に丸投げし、日本文化を押し付ける。こんな状態で成功するわけがないが無い。
前回タリバンが政権を取った際、統治能力の無さが露呈して民衆の支持を大きく失ったので、失敗を糧として対策は講じてはいたが、タリバン独自解釈の女性蔑視、タリバン主義の徹底、軍部主導などの基本方針は全く変えるつもりがなかった。そこは、硬直化し、偏った組織だった旧日本軍と同じ、“滅びの道”とも言える。

やがて幹部がゼロとなり、名が知られる将校も居なくなると、甚だ統率力の弱い組織に成り始める。複数名の将校の中で名を成せばタリバンを統率できると、それぞれが胸に秘め始めると、戦いは終わったも同然となる。

ASEAN軍の軍師は、地球上のあらゆる決戦を分析しつくしたAIだ。
諸葛孔明と山本勘助とナポレオンとビスマルク等の智将のノウハウがミックスした様な相手に対して、各部隊が纏まりを欠いたまま個々に攻撃を企てた所で、相手にもならない。
チームが一枚岩となり、前線と後衛が相互に押しては引くトータルフットボールの領域に到達していない2部リーグのクラブチームが、完成の域を越えて、更に成長し続けるビッグクラブに勝てるはずがない。
ASEAN軍の軍師・AIはタリバン各部隊のバラバラな進軍と陣形を見て、あと5日で勝てると判断した。
タリバン幹部抹殺の最終決断を下したのはモリだ。タリバンの指揮系統を弱体化させれば、軍師AIの采配により、ワンサイドゲームとなるのが分かっていた。

幹部殺害に続き、先んじて行動するのもASEAN軍だ。再び闇に乗じて、作戦を遂行する。
以降深夜、攻撃用ドローン100機をタリバン勢力圏内へ毎晩のように飛ばし、タリバンの資金源であるケシ栽培農地を次々と焼却してゆく。タリバンが掌握している鉱山にはミサイルを打ち込み、翌日の採掘作業を妨害する。月明かりも無い、周囲が闇に包まれている中を、無灯火で無人機が自由に飛び回る。地上からのサーチライトの灯りで補足できるものでもない。照射と狙撃が連動できる兵器でもあれば良いのだろうが、中国のAIにそこまでの精度は無い。
朝となり、闇の帳が明け始めてから、被害の全容をタリバンは把握する。

「育ち始めたタリバン領内のケシが焼き尽くされ、鉱山が採掘を停止する=タリバンの資金源が枯渇する」という図式を狙っているのをASEAN軍の広報担当が説明し、タリバンの資金源を断ち切る作業が始まった現状を、世界中が知る。話はこれで終わらない。
「タリバンからの麻薬供給が断たれた=山岳民族が栽培するビルマ産のヘロインを麻薬業者が購入する=需要が急増して、ビルマ山岳民族の懐が潤う」という構図が裏に隠れている。元々、ビルマ産のヘロインの方が先駆者なのだ。

また、領土内の農民を搾取するのは前政権時と同様で、タリバンの常套手段でもある。一旦戦火が起こると資金と食糧が必要なタリバンは、過酷な徴収を農民に課す。ASEAN軍が攻撃を始める前に国連職員達や新赤月会等の医療団体が村々を巡回し、ビルマ米やインド産小麦を持参して、「戦闘が始まったら、村を一時的に捨てろ」と村人たちに諭して周る。タリバン勢力圏内から脱してアフガン領内へ逃げ込めと、ルートと地図を渡す。
タリバン配下の農民たちをビルマ北部で用意している難民キャンプへ輸送し、周囲の農地の開拓や開拓村の建設にプルシアンブルー社の農業用テクノロジー、プルシアンブルー建設の社員と共に従事する。バングラデシュに逃げたイスラム教徒のロヒンギャ族の受け入れ用の町となる。

ロヒンギャ族が帰還するまで数か月後だ。先にアフガニスタンの人々に入植して貰って、田畑を整備してもらうのが狙いだった。

アフガン政府領内の都市には国連職員経由で食料支援物資が物資がビルマやタイ、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、インドなどから届き、アフガン政府やアフガン企業を一切介さずに市民に提供されるようになる。

悪い意味でアメリカナイズされたアフガン政府をビルマは全く信用していないからで、国連からの援助物資を転売して利益を得ていたり、各国の物資受入れ時に販売手数料と言う名目の賄賂を得ていた者達は、牢獄行きとなる。

幹部が居なくなり、金蔓を失い続けるタリバンは満身創痍な状況なのだが、合議体制になってから幹部となった各将校の頭の中には、まだ白旗を上げる選択肢は浮かんでいない。
信長と言う絶対的な存在が消え去り、天下取りのポジションが突如として現実味を帯びてきた秀吉と同じ状態になっている。
秀吉とタリバン将校の大きな相違点は、「殿を殿上人へ」という気概が、兵士達に全く無かった。更に秀吉の様に恩賞の大盤振る舞いも出来ない。資金源のケシ農地は全滅し、鉱山は採掘不可となった。
「アフガン暫定政府の幹部達が貯め込んだ賄賂や援助物資の横流しで肥やした蓄財を奪い、タリバン兵に分配する!」と言っても、
「ASEAN軍に勝てるのか?」「蓄財はどの程度あるんだ?」と兵士は呟き合う。
全く現実味を欠いた財源を当てにして、ニンジンとする以外に、兵士の意欲を掻き立てる手段がタリバン内には既に無かったのだ。

旧式の無線装置を用いて各部隊間で暗号通信を行ない、攻略ポイントや決起日を伝達してゆく。
その拙い暗号をAIがあっという間に解読する。タリバンが意思疎通も十分に行わず、バラバラに攻勢に出る来るとAIは判断する。ダフィー達、軍の幹部がAIからのブリーフィングを受けて、作戦の承認をした。
ASEAN軍は複数の待機ポイントで罠を講じて、タリバンの進軍を迎撃する準備を整える。
同時に、暗号発信時の場所が将校たちの居場所であり、隠れ家と判断すると、空爆して将校とその家族たちを容赦なく殺戮する。
兵力を削ぎ、部隊長以上を殺害する。これを繰り返し、タリバンの威勢を奪う。

赤外線カメラが捉えた、タリバンの資金源を絶つ映像を世界中に公開する。その映像を最も見せたいのは中国・パキスタンの両国だ。金が払えなければ、銃弾は売れない。それでも中国・パキスタンが兵器を提供しようとするのなら、それは、タリバンを守ると解釈するしかなかった。

***

ASEAN軍の奇襲攻撃が行われ、タリバンの幹部全員死亡と報じられると、日本では穏健派が騒ぎ始める。社会党・共栄党は護憲を党是としているので、人を殺めない組織だとと思っていたと混乱する。
“実は冷酷なリアリストで、海外では平和憲法の外で行動し、勝つ為なら手段を選ばず、奇襲だろうがなんでもやる。先手必勝に打って出る政党だ”と言った右派系評論家、与党ご用達のコメンテーターが一斉に主張し始めたのもあって、動揺が広がっていた。

台湾から帰国していた共栄党代表 杜 亮磨, 富山県知事 金森 鮎の元に、ASEAN軍のタリバン幹部への先制攻撃について質問が出る。代表と知事の家族が攻撃許可を下すなど、何らかの判断をしている可能性があると見做されていた。

25日投票の補選立候補の為に北海道入りした杜 亮磨は、札幌にある「社会党・共栄党 北海道本部」の事務所で記者達の取材に応じる。
日本には無縁な「先制攻撃」について、質問が出るのが予想される。この日は少しだけ情報を提供しようと、亮磨は決めていた。

「私の認識では、ダフィー副大統領の発言の中で、アフガニスタン暫定政権からタリバン殲滅の要請があったという箇所があったかと思います。私が知っている範囲で紹介しますと、ASEAN軍は国外で活動する軍隊となります。派遣要請を受けて、派遣となると依頼元の要求を最大限汲んで行動する軍隊です。
今回の要求は“殲滅”ですから、組織として体をなさないまでに破壊するという要請となります。しかし、要請を受けたビルマは基本的には平和主義です。「了解しました、殲滅します」とは即答しません。

さて、参考までにプルシアンブルー社の自律型兵器の仕様の一部をご紹介します。
一般兵士の命は奪いません。頭や胸に攻撃は加えず、四肢・・手足ですね、そこを狙い撃ちします。またUAVの場合ですが、戦闘機同士のドッグファイトの際、相手の戦闘機に即座に攻撃はしません。強調の為に繰り返しますがドッグファイト時の場合です。
コクピットのハッチ部にペイント弾を放って、パイロットの視界を奪います。それが難しいと、尾翼か両翼の片方を破壊します。要は敵機を戦闘不能状態にするのです。
操縦不可能と判断した敵機のパイロットはパラシュートで脱出します。すると無人機になりましたので、機体に攻撃を加えて破壊します。また、古い機体は放っておいて、極力最新鋭の戦闘機から狙います。最新鋭機の喪失の方が相手のダメージになりますからね。

戦車や装甲車も同じです。キャタピラ部や車輪を破壊して、とりあえず走行不能にします。搭乗者が逃げ終えるの見届けてから、エンジンや燃料タンクを狙って攻撃し、爆破します。
海軍はアフガニスタンでは関与しておりませんので、割愛いたします。

さて、そういった仕様の自律兵器なのですが例外が有ります。部隊長以上のリーダーに対する攻撃では、一切手加減しません。タリバンの殲滅がアフガニスタン暫定政府から求められたのですから、ある程度の譲歩も必要ですし、争い自体を早期に決着する必要が有ります。
ASEAN軍が採用した手段は既に実行されました。リミッター解除をして、幹部の居ない状況にタリバンを追い込み、組織を弱体化させる事でした。

ASEAN軍は今後の交戦内容を随時公表するでしょうから、皆さんもリミッターが稼働した際の相手被害の状況をご確認下さい、私が申し上げた様な映像となっている筈です」

記者達は呆然としたまま、そこに残されていた。自律型兵器=(イコール)殺戮兵器のイメージを見直す必要を記者達は痛感する。
しかし、亮磨が言った「リミッター解除」をすれば、実際にタリバン幹部が亡き者とされた様に、兵士が殺戮されるのも事実だ。
AIと兵器の融合に関しては、国際的な枠組みで考える必要があると記者達は感じる様になる。

富山県庁の会見場に1週間ぶりに現れた金森 鮎はジーンズに、ニュージーランド代表、女子サッカーチームのジャージを羽織ってマイクに向き合う。本人は未だに息子たちの活躍の余韻に浸っているのだった。

「皆さんと台湾を訪問されましたが、知事は台湾総督とは会われたのですか?」

「会いました。とは言いましても、ズーチーさんの随行員の一人みたいなものですから、握手して挨拶を交わしただけです。ズーチーさんと総督の会談にも同席させていただきましたが、内容は皆さんもご承知の通り、非常に興味深いものでした、歴史的な会談に同席できたことに感謝したいと思います」

「知事は台湾は独立した方がいいと、お考えですか?」

「私の自論を明かすつもりはありません。
一個人の考え以上に、台湾の方々の民意が全てだと思っています。統一、独立、現状維持、どの道を選択するかは、台湾の人々が判断することで、皆さんの判断に私は拍手を送るだけ、それだけです」

「共栄党の代表、副代表は台湾問題をどう考えているでしょう?」

「それは本人達に聞いてください。代表は、彼の生まれ育った土地ですから、思い入れも人一倍あるでしょう。副代表はアフガニスタンに集中していて、台湾のことすら考えられないだろうなと思っていたら、何とイランに居ました。彼からは何度も驚かされ、家族共々困惑しています。本当に訳が分かりません」
知事はそういって横を向き、ドアの前で立っている娘の秘書の蛍を見て、視線が合った2人が笑う。

「アフガニスタンで戦闘が始まりました。イランに居るモリさんの戦闘への関与は、かなり薄まったのですが・・」

「薄まったですって?まだゼロにはなっていないのは何故でしょう? 首相官邸の“うっかりポッチャリ”が発言した、「都合よく海外に居る」とか、本当に「軍の最高顧問」であるのなら、カブールから離れてイランにホイホイと行って、会談してるなんてありえます?
それとも、今回のASEAN軍の先制攻撃に関して、「卑劣」「容赦ない」「平和憲法無視」と言って、現場も知らずにホイホイしゃべるコメンテーターや自称評論家に迎合してるのでしょうか?
ああいう連中を未だに番組に出す様な放送局の視聴率は、与党の支持率と共に下がってるって、思ってたんですけどねぇ・・

息子がイランで話し合っていたのは、工業技術支援と、農業支援の申し出だった様です。
どこにタリバン幹部の殺害指示を出してる時間が有るんでしょう?すいません、もう一言追加しますね。これは首相への公開伝言です。
首相、官房長官クビにして、議員も辞めさせた方がイイですよ。既に共栄党が彼の選挙区の山口で補選ネタ探しを始めてますよ。現職の官房長官のままの問題発覚となると内閣が吹っ飛ぶかもしれません」

「官房長官と国交相からは外すというのが最新情報ですが・・」

「別にいいんじゃないですか、内閣の勝手ですから。ただ議員も辞めさせないと火の粉が政府にも及びますよという話です。
悪事は既に官房長官就任以前から行われており、前官房長官として国会内で吊し上げられるでしょう。国会内ですから政権と与党へのダメージに繋がるのは変わりません。
それに、今月25日の投票で9人の共栄党議員が誕生して、彼らが何をやるって、前3大臣が外務省、総務省、厚生労働省から引き抜いた官僚達の選挙区作りをします。つまり、補欠選挙がまたどこかの選挙区で行われるってお考えください。
汚職なのか収賄なのか、議員辞職へ追い込まれる理由までは分かりませんが、30人くらいの国会議員が新たに断罪されると聞いています。官房長官はその一人となります。

今度の国会は与党議員の犯罪の数々が明かされて荒れるでしょうね。どの議員の首に刀が当てられるか、私も個人的に楽しみにしています。せいぜい、首くらいは洗って、新人議員達の登院を待つのをお勧めします」

金森知事の発言に、記者達がどよめく。 タリバン・台湾がどうこう言っている場合ではなく、日本の政治が集中砲火にさらされ、ピンポイント攻撃で議員辞職に追い込まれる日が近い、という国内の現実が、記者達の取材対象に新たに加わった。

***

ビルマでASEAN軍の開戦状況を聞いている桜田と斉木も、先日まで日本の官僚だったので違和感を感じていた。
自衛隊の国には到底無理な話であっても、アフガニスタン暫定政府と米軍の要請を受け、国連の推挙を得たビルマ軍は躊躇なく部隊を派遣し、即座に行動に転じた。
公には出来ないのだが、ASEAN軍の派遣に際してビルマ大統領の口頭での了解以外、一切取り付けていない。もし、自衛隊を中東や東南アジアに派遣するとなると、国会審議を経て議会承認が必要となるが、ビルマ国会で審議を重ねて議会で採決されてから派遣するプロセスは派兵後に始まり、事後処理的に行われている。先制攻撃前に辛うじて国会の採決が済んだので体裁は整ったものの、緊急度の高い、即時性が求められるケースが生じれば、モリとダフィー国防相の判断だけで派兵出来てしまう。「専守防衛」と自衛隊と同じ標語を使っているが、何でもアリの軍隊だ。
今回「米軍の後方支援に徹する」と言いながら、“道に迷って”タリバン幹部を全滅させ、タリバンの資金源のケシ農場と鉱山を破壊した。現在は、道に迷ったままタリバン各部隊を掃討中だ。

嘉手納基地からやってきた米国航空部隊も含めた米軍が、首都カブールの防衛任務の後衛役を務めている。短期決戦に持ち込み、早期終結に拘った戦術を今回は選択している。

また、ダフィー国防相と影の総司令官との力関係は歴然としている。ダフィーが米国に“NO”と言い、タリバン、中国、パキスタンの反応を見極める。
一度はビルマが話に応じない姿勢を見せたのでタリバンは安堵した。しかし、米国がビルマのAI兵器を差し向けようとした姿勢にタリバンがブチ切れて首都カブールへ進軍し、暫定政権を葬ると声明を出す。今度は米国が騒ぎ出して、米国空軍・沖縄嘉手納基地所属の“チーム嘉手納”がアフガニスタン領内で行動可能となる様に後方支援を提案し、チーム嘉手納の派遣が決まる。
拳を振り上げたタリバンは困惑する。
米軍所属のプルシアンブルー製AI兵器が投入され、後方支援にASEAN軍が出てきたからだ。
しかもビルマのダフィー国防相は「道を間違え、タリバンと遭遇したら交戦する」 
「暫定政府からは殲滅してくれと懇願された」と後方支援とは思えない言い方をした。
気付いた時には、幹部達と主要な将校は全滅していた・・

全て、最高司令官が描いたシナリオだった。最初の奇襲攻撃の日にはアフガニスタンから去っている。アフガン終戦の速報は、おそらく日本で知るだろう。「軍事演習の公開を想定している」とモリが中国国境で言っていた話は、演習では無く、このアフガン派遣だったのだと桜田は察していた。

元外交官の斉木も困惑している箇所が見られる。それも当然だ、日本でのプロセスとは異なる国で、しかも2か月前までは軍事政権だった。軍が独自判断で動くのが当然だった国の人々には、今回のケースが民主的に見えているから驚きだ。何せ“議会で承認を得た”からだ。明らかな後付け処理なのに、「画期的だ」「民主化バンザイ」とビルマメディアは諸手を上げて、称賛している。
“住んでいた世界とは明らかに違う”桜田と斉木の自身の中で、困惑が生じていた。

さらに、無造作にタリバン幹部が掃討され、戦火が拡大しようとしている。日本人である両人にとっては衝撃だらけの展開となっていた。
唯一、安堵したのはASEAN内のイスラム国家にはタリバン掃討を事前に説明し、組織壊滅の容認を得ている点だろう。
実際に、イスラム過激派は各国間で問題になっている。見せしめの様にタリバンが消滅すれば、各国のイスラム過激派も、国家に抗わないだろうという見方をしていた。
桜田はまた勘ぐる。何故モリは真っ先にブルネイを目指したのか、何故ボルネオ島を拠点と定めたのか?同島を共有するASEANイスラム3か国とのパイプ作りが最優先だったのでは?と。

一旦考え始めると、桜田詩歌は止まらない。彼が持つ先見性、広すぎる視野と分析、複雑に絡み合うプランに今回も魅了され、イラン訪問の意義が全く思いつかない。斉木もイランはお手上げを認めている。

軍隊を保有せず、平和憲法の有る国の国籍保有者が北朝鮮の首長を殺害し、旧ミャンマー軍のクーデターを阻止し、嘗て一度だけ政権を担ったタリバンを、一方的に叩くのだろう。

ASEAN軍の兵器の脅威を世界の人々の目に植え付け、台湾とココ諸島に派兵する。中国に沈黙の圧を加えて、冷や汗を掻かせるつもりなのだろう。こんな人物の登場を昨年までの桜田は、予想もしていなかった。恋い焦がれた改革者が、軍部を統率する立場となっているのが未だに信じられなかった。
しかも、信じられないことに本人の関与は伏され続けるのだ・・・

(つづく)


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