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(10) エネルギー産業の将来性と、 可能性


 先月末、新型旅客機の発表会見があった。今さら飛行機というのもあって会見場に集まった記者の数も疎らだった。訪れた記者には、やってきた甲斐があったかもしれない。「世界初」をネタにして記事を書けるのだから。

「皆様ご存知のように船舶の水素タンクでは、水素が減っていくのに応じてLNGガスが自動的に注入して行きます。危険物である水素が、常に安定した状態に保たれるように、水素と混濁しないLNGが固定していました。しかしLNG自体、本来は燃料として使うものであり水素を固定する役割を担う為のものではありません。
今回、弊社ではLNGを上回る固定能力のあるガスの開発に成功しました。以下、説明にあたり「固定ガス」と申し上げますが、このガスを水素タンク内で使うことで水素の安全性が更に増します。航空燃料として、モーターボートのような速度の出る、激しく揺れる乗り物でも利用が可能となるのです。水素の安全性が確保出来るようになり、弊社はプロペラ機の動力源として利用できる水素エンジンを開発致しました。水素で飛ぶ中型プロペラ旅客機 の販売を始めます。高速で移動する必要のない、国内線や諸島部との短距離輸送を想定しております。この水素エンジンの小型化バージョンも既にテスト段階に入っておりまして、セスナ機のような小型機やヘリコプター、それと長い航続距離と重量運搬物輸送を必要とする用途向けのドローンを年内に発表致します・・」

本社で新型水素プロペラ機の発表の記者会見に、サミア社長が臨んでいた。
北韓総督府とベネズエラ政府は前もって知っていたので5機づつ発注していた。サミアが会見で言っていたように国内線や諸島部との移動用途で利用する。北韓総督府は平壌発チベット行きと旧満州行きの連絡便として利用する。高速鉄道の1/3の時間で済む。
プルシアンブルー社は中型プロペラ輸送機も既にテスト飛行を始めていた。近隣国間の物資輸送が目的だ。ベネズエラは中南米諸国間との輸送に取り入れ、北韓総督府も日本とチベット、ビルマ、タイ、インドとの輸送で使う。
また、高速艇など恒常的に揺れる船舶でも利用可能になるので、小型船舶向けの動力化にも着手している。最も需要のあるのが漁船だと捉えており、今後は主流となるだろう。
この新型固定ガスは2種類あって1つは燃料としても使えるのだが、サミアはそこには触れていなかった。あくまでも二酸化炭素排出ゼロの、地球に優しいプロペラ旅客機が主役だった。
固定ガス云々の前に、記者達に記事にして貰わねばならない事項がある。空港に、燃料としての水素を確保して貰う必要がある。空港管理会社が設備として用意するのか、航空会社が各社毎に用意するのか含めて、検討してもらう必要がある。プルシアンブルー社では水素ステーションと呼んでいる水素製造プラントを用意するのか、水素を調達、運搬してストックするか、空港として新たに環境を用意する必要がある。

水素ステーションでは、水を電気分解により水素と酸素に分離させている。この電源をどこから引くかでコストが変わってくる。水素発電所に隣接する水素ステーションは、発電所の電力を使っている。水素列車の走行後、十分に充電されたバッテリーを取り外して、バッテリーボックスに積み替える。このボックスから供給される電力で電気分解をする。空港に発電所は不要だし、電車の車両基地が近くにあるとも限らない。
電気を自然電力に限定すると仮定して考えると、空港施設に太陽光パネルを敷き詰めて発電が可能なのは、南国の空港に限られる。空港に風力発電設備を並べるのも、障害物となって相応しくはない。北部でしかも内陸部にある空港では、この動力源としての水素の入手先を考える必要がある。
因みに、固定ガスは消費しないので一度搭載すれば繰り返して利用出来る。時折、揮発して減った分を補充すれば良い。

それぞれの空港での水素燃料の入手先という課題はあるにせよ、プロペラ旅客機を現在も路線で利用している航空会社は飛びついた。エネルギー会社とそれぞれ交渉して水素の入手先を確保すると、PB Air社に発注をかけた。
PB Air社はまた一儲けとなる。独立分社化して株式を発行しろと財務省が騒ぎ立てるだろう。

北韓総督府に試作機の1台が渡されると、総督府の大臣・官僚達が早速チベットへ向かうのに使い始める。高速鉄道よりも早いのと、50人乗れるので一度に移動できる。プロペラ機なので短い滑走路でも可能なので、総督府のヘリポートを拡張工事して短い滑走路にしていた。当然、来たる小型プロペラ機の発売を睨んで、ベネズエラのカラカスとサンクリストバルの私邸のヘリポートを壊して、短 滑走路のアスファルト舗装を始めていた。
また、プルシアンブルー社はスポンサーになっている、エスパルス、TSスティーラーズ、バレンシアFC、ニューカッスル・ユナイテッドに国内移動用に試作で使っていた4機を提供するとHPでサラッと触れていた。
エスパルスに提供されていた中型ジェット機は引き取られ、エンジンを積み替えた後で、ベネゼエラのオーナーの元へ送られる。子供達に小型ジェット機を上げたのも、この為だった。サッカーチームがカーボンフリーの飛行機で移動するのは、プルシアンブルー社にとっても、クラブにとっても、いいCMとなる。

バレンシアFCのオーナーのモリ・アユムは、このプロペラ機を譲渡されるにあたって、水素の入手方法を考えていた。スペインは日が降り注ぐので、イギリスと違って水素発電所のニーズは低い。志木小百合はスペイン北部のビルバオのセスタオ製鉄所がコークスから水素に変えて燃焼させているけど、その水素はどこで調達しているの?と逆質問され、社に確認すると、スペインの大手エネルギー会社から購入しているのが分かった。
問題は解決したのだが、小百合は何やら考え事をしている。「あの固定ガスの開発は、プルシアンブルーにとって重要な意味を持つと思うの・・」 「ええっと、ごめん。話の先が見えないよ」

「タンク内で水素が揺れないようにするためのガスでしょう?だから揺れるのが当然の飛行機でもモーターボートでも使えるようになる画期的なものよ。つまり、水素の運搬も楽になるでしょ、今後は?」

「あ、ひょっとして水素専用の運搬船とか、耐久性の高い特殊なタンクが要らなくなるかもしれないってこと?」

「そういうこと。水素が実用化に向けて動き出す。水さえあれば無限に作り出せる燃料の最大の課題は危険物だということ。社長は固定ガスについてあまり触れなかったけど、もの凄い変化が起きると思う。建築用の外壁発電パネルも外販しなかったから、あの固定ガスもプルシアンブルー社は簡単には販売しないでしょうね。エンジンだって販売するかどうか・・
船舶、航空機単位での販売か、それともエンジンユニットで提供するのかな・・もし、エンジンユニットで提供してくれれば、ティッセン社の造船部門で搭載できるじゃない?」

「造船か・・あのさ、プロペラ機を作ってる会社って今でも結構あるんだよね。スウェーデン、イギリス、イタリア、フランス、イタリア、ドイツ・・ジェット機の前はそれしかなかったから当然なんだけど・・」

「SAABだったなJ社のプロペラ機は・・乗務員にはありがたいのよね。速度も650から750kmでジェット機みたいに900近い速度が出ないから、機内サービスもゆったりした雰囲気できるの。今はロボットがサービスしているけど・・近距離を飛ぶなら、プロペラ機の方が好きだな、私は」

「SAABか、親父が自動車の権利を買い取ってVolvoとくっつけたけど・・飛行機部門はスウェーデンに残ってるんだよね・・」

「えっとね、会社を買うのはまだ早すぎると思う。PB Air社には簡単には勝てないと思うし、飛ぶリスクを背負うから、膨大な準備が必要となる。それよりも・・」

「それよりってなんですか?プルシアンブルー社 中間管理職のサユリさん?」第三者的に言ったので茶化して見る。

「電気が潤沢にあって、プラントを動かして海水から浄水を作ってる国があるでしょ。その国でも簡単に水素が出来るんじゃないかな・・まぁ、石油ほどの値段にはならないと思うのよね。電気にコストが掛からないんだから・・
そして、固定ガスで揺れない水素をエネルギー会社が自由自在に運搬する。値段はともかくとして、水素が安全に運べて、どこへでも提供できる。水素スタンドなるものが、ガソリンスタンドに設置される日が来るかもしれない。タービンを利用するエンジンはどうしても大きくなるけど、水素を小型ユニットで燃焼させるならロータリーエンジンが一番効率的だって、ゴードンさんが言ってた。水素を燃料にしたロータリー型の自動車エンジンの開発でもしてるんじゃないかな?」

この人は頭がいい、中東のパイプを利用しようと考えていたのか・・

「私の後任の中東担当者に、ゴードンさんが指示を出してるかもしれないけど、アラブの王様に一言、話してみたらどう? プルシアンブルー社をだし抜けるチャンスかもしれない」

小百合がしれっと言って微笑んでいるので、頭を撫でた。いいアイディアだと思った。

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ニューカッスルでの兄弟のポジションは実に流動的なものだった。歩は左右のサイドバックと圭吾とのダブルボランチにつくこともある。サイドバックのいずれかになる時は、相手の手薄なサイドが「こっち側」とみなしているので、ガンガン攻め込みますからね、というシグナルにもなる。
3ゲーム消化すると、スターティングメンバーの発表で歩のポジションが分かると、マスコミが左右のいずれかに移動してゆく。観客達もポジションを知って、どよめくのが恒例となりつつあった。
圭吾は大抵はフランス時代と同じ役割をこなす。シングルボランチでメインのキッカーを務める。歩のフリーキックは暫く温存し、既にキッカーとして知られている圭吾が、セットプレーとコーナーキックのタクトを振るう。攻めも守りも、兄弟でポジションを適時変えて、相手を翻弄していくのがニューカッスルの新たな武器となっていた。
プレミアリーグは動きが早いのと、ガツガツ飛び込んでいく選手が多いので、キッカーが2人居るチームには向いている。カウンターやセットプレーで得点となるパーセンテージが、他リーグより多い傾向にある。

方やスペインのバレンシアは戦術をこまめに変えた。モリ兄弟はポジションはほぼ固定で火垂が1.5列目の左MFでその後ろに海斗が付く。この2人もポジションを左右の選手とも臨機応変に変えた。バレンシアの選手は毎試合異なるミッションを与えられ、マッチアップする相手選手の特徴と、相手の攻守を理解した上で、攻撃のパターントレーニングに入ってゆく。バレンシアも含めてスペインの選手はパス「出し」と「受け」の精度が極めて高い。今は海斗が務めているが、ここに来月からアルゼンチン人のキッカーが加わると、更に展開力も増す。1ヶ月間は下位チームとの連戦となるので、現行の体制で挑もうとしていた。
ニューカッスルも、バレンシアも、メンバーがガラリと変わって、以前とは違うチームに変わってしまった。兄弟が齎した変化がリーグ戦が始まってどうなるのか、何時まで持続出来るかが焦点となっていた。既にプレマッチで兄弟の分析、個々の選手の特徴と封じ込め策、チーム戦術の見極め等、ITを駆使した徹底分析が各チームで行われている。日本人コーチ陣と日本人選手が使っているAIが齎す対策案がどこまでチームに浸透し、理解されるかがカギとなるかもしれない。ラ・リーガもプレミアリーグも金満クラブばかりだ。ITに投じている費用はJリーグのチームの比ではない。その金満システムと金で集めた選手とスタッフに、AIが立ち向かう図式だ。プルシアンブルーのAI担当者達にとっても手を汗握る開幕戦が訪れようとしていた。

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モリ・アユムが弟より後で契約の為にニューカッスル国際空港を訪れた際に、平壌の構成員だったヴァネッサ・パラディスをぶつけてみたが、互いは会釈を交わしただけで接触は適わなかった。隣に日本人女性が居たからだ。
MI6は当面のターゲットを歩から、火垂と圭吾に変更しようと画策したものの、弟の拠点のでもあるパリに向かうと、自身の事業に精を出しており、接触の機会が得られずにいた。

モリ兄弟の2人がイギリスに居る状況にも関わらず、地の利が生かせない日々が続いていた。歩はオフの日は休まずに製鉄事業に取り組んでいる。ベルギー、ルクセンブルク、ドイツの3拠点へプライベートジェットで飛び回っている。先週はカタールにも向かって、以前の住居に宿泊している。オフの日はすっかり青年実業家へと転じ、傍らには件の女性が居るのでスキがない。ニューカッスルにある製鉄所は、半導体製造工場に順次変更するとアルセロール社の広報が報じた。従業員は全員継続雇用し、テストが上手く行くと、スペイン、フランス、イタリアの各製鉄所も半導体製造工場へ代わり、ルクセンブルクとベルギーの製鉄所とティッセンクルップ社に製鉄事業を集中させてゆくという。生産された半導体は全品プルシアンブルー社とティッセンクルップ社に納品され、アルセロール社とティッセンクルップ社の株価は上昇を続けている。
プルシアンブルー社がスペインとイギリス国内で軽自動車熱が高まったとして、両国政府に軽自動車優遇措置を働きかけている。排気量が660CCなので、税を小型車以下に下げられないかと打診をしている。もし認可されるとバルセロナの部品工場とサンダーランドの車両組み立て工場で軽自動車の製造ラインを作り、雇用も増やすと報じている。
両国議会も前向きに協議をしているが、これもモリ兄弟がユニークな小型自動車を乗っている事から派生した現象だ。トレーニングで使っている自転車も南米製で、輸入販売が決まった。また、兄弟がデザインしているというシューズやトレーニングウェアの売れ行きも好調だという。Steelersという呼称をマスコミが使い、それが広がっていた。プレマッチでの結果も出しており、イングランド北部とスペイン南部はそれぞれで盛り上がりを見せている。MI6とイギリス政府としては、イギリス企業との接点を模索しているが、既に日本企業がスポンサーとして進出している為に、簡単に参入できない状況となっている。

ドイツ・ティッセンクルップ社の製鉄所で、RS建設が基礎工事が始めていた。小型の水素発電所を建設中とティッセン市に建築申請を出していた。製鉄所用の電源を賄いながら、余剰電力は市に売却するというものらしい。同時に、日本の製鉄会社が開発した「新型水素タービン燃焼炉」を導入し、24時間365日止まらない、カーボン削減製鉄事業を年明けから始める計画と、ティッセン市に事業計画概要を提出していた。
概要書を閲覧すると、子会社となったアルセロール社がスペインの製鉄所で水素燃焼で製鉄を始めている。しかし、水素に合わせてLNGガスも利用するためにCO2削減率はコークス炉の半分となる。今回導入の新型燃焼炉はCO2は発生しないタイプで、順次、主要製鉄所の設備を置き換えてゆく。

中国とインドのCO2の元凶は石炭火力と、国内各所の製鉄所、それにエンジン車だと言われてきた。中国では、発電の7割を占める石炭火力発電所の1/5にあたる旧満州経済特区にあった7基が止まり、製鉄事業が日本、台湾、韓国、ASEANの活性化で製鉄会社の生産がほぼ止まった状態となっている。 廃業、合併が進んだことで、皮肉な事にカーボンフリーの目標値達成が視野に入ってきた。原発の稼働率を高めて、旧満州以外の石炭火力発電所を3-4基停止して、エンジン車販売を止めれば、目標値に達成する公算となるとメドが経つまでになった。ここで製鉄産業が回復すれば状況も変わってくるのだが、結果オーライ的な要素は否めない。中国の製鉄事業が殆ど止まった状態になっているからだ。国内需要で使う鉄も、北朝鮮・韓国・台湾から調達、購入した方が安い。その上建設需要が韓国、台湾の建設会社に食われ、造船所も操業をほとんど停止している。中国経済はガタガタになりつつある。物量で優位性を保っていたロジックが、日本のAIロボットの投入が進み、構造に変化が生じていた。中国も24時間365日、豊富な人材を投じて人海戦術で3交代制を組んで対応しようとテストを繰り返してみたが、どうしても夜間は作業効率が低下し、人件費が単純に3倍となり、そこに深夜手当がつくので現実的な結果が出なかった。当面、中国の製鉄会社には勝ち目が無い。それで設備を売りに出し、数多ある製鉄会社が統廃合しようと協議中だ。アルセロール社がティッセンクルップ社の傘下になったのも、中国の製鉄会社と、非常に似通った状況に直面したからだ。確かに、鉄はどこから買ってもさほど変わらない。建設業もそうだが、日本はロボットを投入することで、重厚長大産業に新たな可能性を打ち出していた。

停滞している中国にとって唯一の朗報は、ライバル、アメリカ経済の失速だ。逆もしかりで、米国も中国経済の足踏みに安堵している節が見受けられる。どちらが世界2位の経済国の座を射止めるかで、来年以降の可能性が見えてくる。それでも中国と米国がこのまま失速を続けるようだと、世界経済への影響は多かれ少なかれ出て来るだろう。アジア経済の舵取りでどこまでカバーできるか。いかに2大経済国が回復の足掛かりを掴むかが焦点となる

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MI6が思ったような結果が出せずにいた頃、Royal Dutch She//社とのタッグでモリ兄弟を誘おうとしたイスラエル・モサドの目論見も半ば頓挫していた。今更、金持ちとなった兄弟にカネを提示しても靡くはずもない。パイプが太くなったサウジアラビアの王族との不動産契約が締結した今、手に負えない存在になってしまった。結果的に複数の「モリ」を生み出した状況となった。それでも兄弟の個人スポンサー石油会社というパイプだけは死守する。この関係が何かを引き起こすかもしれない、と信じていた。
シェルのマークをバレンシアの新ユニフォームの左右の袖に加えた。プルシアンブルー グループはブロンズスポンサーの扱いとなって、ユニフォームには乗らず、スタジアムで紹介される程度となっていた。
ユダヤの神は我々を見放さなかった。日本政府が水素発電所の建設に応じると東京の大使館を通じて連絡してきた。アメリカに持っていく予定だった数基の発電所をイスラエルに提供すると連絡があった。実作業はベネズエラ政府が対応するとの事で、ベネズエラの櫻田外相から、知己のイスラエル外相に連絡があった。「サウジとのビジネスの支援をして貰ったと外相から、お礼を言われたが、何があった?」と外相が説明を求めてきた。日本側にはバレていたのかとモサドの幹部達はゾッとした。

イスラエル・テルアビブ郊外と、アシュケロンで基礎工事が初まるのは9月となる。南部の都市アシュケロンの砂漠地帯には、最新の太陽光パネルが敷き詰められ、台湾南部で建設が進んでいる、海水浄化システムの導入も検討している。太陽光パネルは水素発電所4基分の発電を行う。この用水を農業用水として使って、砂漠上に建設する大型施設内で野菜の栽培を行うという。日本が出してきた条件は、ガザ西岸のパレスチナ自治区に無償で送電し、無償の水を供給することだった。アシュケロンを指定してきたのも日本だ。履行されなければガザに発電所を建設し、監視団を常駐すると契約文書に盛り込んできた。イスラエルの人口は900万人であり、更に水素発電所3基が稼働すれば十分に賄えてしまう。南部は砂漠地帯なので、太陽光発電で更に賄うのが理想だろう。

この連絡の前に、ロシア・モスクワとサンクトペテルブルクで水素発電所の建設工事が始まっていた。地盤改良事業に平壌のRS建設が入り、基礎工事作業に取り掛かっている。 水素という危険物を扱う施設なのだから万全の体制にしよう、という判断に変わり、柳井太朗とプルシアンブルー社の特許工法の採用となった。日本の水素発電所も水素ステーションを一旦移動させて地盤再工事をする、改良工事を始めている。計画を全国20箇所で随時始めていた。水素爆発しないように、ガスを入れて融和状態を維持するなど、2重3重の措置は講じてながら対応していた。震災による津波で、福島原発が機能しなくなった経験がある国だけに、考えられる改善改良策は常に最新技術を導入していく。
アメリカ北部の8州では基礎工事が完了しているが、再度基礎工事のやり直しが必要となる。作業自体はロボットと重機が行っていた。インドービルマ鉄道や東南アジア下流域の軟弱地盤で生まれた工法だけに、通常以上の地盤では理論上、更に強度が増す。
基礎工事が終わる9月末には、分解された発電所のパーツを組み立てて、シールドで囲って完成となる。稼働は11月上旬だ。基礎工事に時間が掛かるようになったが、24時間作業し続けるので、着工から稼働まで3ヶ月間のスケジュールは変わらない。

ロシア、イスラエルの基礎工事が終わると、次はベルリン、パリ、アムステルダム、ブリュッセル、ストックホルムで工事を始める。そのようにスライドしながら、2035年中に50基の水素発電所、水素ステーションを建設してゆく。アメリカに持って行く分を欧州を中心に割り当てる格好となる。

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イギリスよりも一週間早く、スペインリーグが開幕する。サラゴサに移動してアウェーの初戦となる。直線距離で約300Kmサポーターはバスで移動するか、特急電車で4時間かけて移動する。列車はバルセロナ経由となるのでV字の移動となり400Km近くなるので、選手は支給されたプロペラ機で移動するらしい。家族も政府専用機で追いかける事にした。

日本からのサッカー記者がバレンシア市に集まり、スポンサーに加わろうとする日本企業もやって来て、市内のホテルやレストランがどこも盛況となっていた。
一週間、子ども達5人の寄宿舎で一緒に寝泊まりしていた翔子と志乃は、バレンシアの爽やかな地中海性気候と、食材の豊富さと落ち着いた町並みに癒やされていた。5人が揃うと不思議なもので、支え合って前に進もうとしていた。男の子って逞しいものだなと、玲子を見てきた翔子は奇異なものを見ているかのようだったが、スペインに来て、強く感じるようになっていた。
「零くんと零司が中心に居るから、纏まってるんですよ、この子達」志乃の子の一志の方が、どんと構えているような感じがするのだが、翔子は聞き流していた。

ジュニアのAチームの18人を特別にサラゴサに乗せて行くことに鮎が決めて、クラブ側に了解を貰っていた。ユースの子たちはバスで向かうと言う。開幕戦は特別なんだなと母親たちは実感していた。
このようなサッカークラブがスペインには沢山あると聞き、ベネズエラのクラブでの記憶が一層霞んでしまった。差が付くのは尤もだと納得し、敵わない訳だと理解した。
何よりも子供たちの真剣な表情と達成した時の喜び度が違う。サッカー中心となった生活を喜んでいるし、日本からベネズエラに環境を変えた時以上に、生き生きしているのが見て取れた。

この子達にはこれで良かったのだと、まだ小さな、お腹の子をさすった。

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アラブ3ヶ国を1時間づつ訪問し、ドーハの家に帰ってきた。
夕食後、各世代のコーチ陣のデイリーレポートと動画を見ながら、この下部組織に中南米の子供達を集めていこうと考えていた。日本人の子供達が適合するかどうかは、小さな弟達を見ながら改善しようと考えた。各世代に日本人コーチを見習いのように配置して、彼らにIT分析の役割を担わせてAIを使わせる。客観的な判断も含めて、子ども達を公平に判断して、教育メニューを各自に与えてゆく。その子供向けのコーチングのノウハウがAIに蓄積され、エスパルスとスティーラーズのユースチームでも使われる。そんな取り組みを始めていた。

明日は待ちに待った初戦、歩達もサラゴサ観戦に向かう。

(つづく)

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