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Bリーグに移籍金、サラリーキャップは必要?

Bリーグは欧州開放型から米国閉鎖型へ


Bリーグは2026年、開放型オープンリーグ(昇降格あり)から閉鎖型クローズドリーグ(昇降格なし)へ移行する。

オープンリーグとクローズドリーグはその特徴から選手移籍の仕組みが異なるが、2026年に向けてBリーグに適した選手移籍を考えてみる




キーワードは 戦力均衡 と グローバル化


選手移籍ルールの導入でよく話題にあがるのが

移籍金
サラリーキャップ
ドラフト

これらのルールは、リーグ構造により採用すべきかどうか決まる。

「移籍金」はオープンリーグのルール

「サラリーキャップ」「ドラフト」はクローズドリーグのルール

これらを正しく理解していないと議論が中途半端になる。

これからその理解を深めていく。

キーワードは『戦力均衡』『グローバル化』だ。


クローズドリーグにおけるサラリーキャップ

クローズドリーグの戦力均衡ルールとして以下がある。
ドラフト制度
FA (フリーエージェント)制度
サラリーキャップ

ドラフト制度は前シーズンに成績が悪いチームに良い選手を加入させて、チーム間戦力差を無くす仕組み。

これだけだと成績が悪いチームに良い選手が集まってしまう。

そこでFA (フリーエージェント)制度が存在する。

NBAではドラフトで加入した新人選手は最大4年契約を結び(新人契約)、その新人契約の満了後はFAとなり選手が自由に移籍可能になる。

FAで選手獲得競争が激化すると、選手年俸が青天井になってしまい、予算が大きいチームに良い選手が集まってしまう。

それを避けるためにサラリーキャップ(年俸総額上限)がある。各チームが同じ金額のサラリーキャップを設定する事で、チームは年俸の高い良い選手を多く獲得する事が難しくなる。予算の大きいチームへの戦力集中を防ぎ、リーグ全体の戦力を「均す」ことがサラリーキャップの目的だ。

ドラフト、FA、サラリーキャップはそれぞれ単体では戦力均衡の目的は達成できず、セットで運用してはじめてその効果を発揮する。



ドラフト ⇒ リーグへの入口で戦力(選手)を分散させる
FA ⇒ リーグの中で戦力(選手)をグルグル流動化させる
サラリーキャップ ⇒ 流動化した戦力が偏らないように均す

昇降格の無いクローズドリーグにおいては、戦力均衡はリーグの魅力を保つために重要だ。


グローバル化により大きくなるサッカー界の移籍金

オープンリーグを採用するサッカーでは選手移籍の大きな転換点があった。

以前は欧州サッカー界においても、契約満了後でも前所属クラブが選手保有権を持ち、選手移籍時には移籍先クラブへ移籍金を請求できた。

1995年 ボスマン判決 ここで契約期間満了後の保有権が否定され、契約満了後の移籍金は要求できなくなった。

ボスマン判決がサッカー界に起こした大きな変化は2つ

1. 契約満了後の移籍自由化

2. EU国籍選手のEU域内移籍自由化

これ以降サッカー界にもFAと同じ状態が発生、自分たちが育てた選手を無償で他クラブに、さらには他国のリーグへ奪われてしまう可能性が出てきた。

これにより、サッカークラブは有力選手とは長期契約を結び、契約に高額の契約解除金を盛り込むようになった。

契約解除金こそがサッカー界の移籍金、であり、サッカー界の選手移籍の基本は契約期限内の移籍である。

Jリーグは2009年以前、過去の欧州のように選手契約満了後の移籍金が発生した。しかし日本人選手のJリーグから欧州クラブへの移籍にはその国内ルールが通用せず、いわゆる「0円移籍」が多く発生した。

サッカー界の潮流に合わせて2009年に日本サッカー協会「プロサッカー選手に関する契約・登録・移籍について」を改定。選手契約満了後の移籍金は発生しなくなった。


現在のBリーグ選手契約および登録規定


2019年に以下の記事を書いた。2020年に帰化選手枠と同等のアジア特別枠が設立されたが、2021年現在においてもB規約はほぼ同じだ。

B.LEAGUE 2020-21 外国籍選手の登録数とオンザコートルールの変更

・アマチュア選手・プロ選手・新人選手が存在
・プロ選手契約の最長期間は3年、契約の解除にはあらかじめ契約内容に盛り込んだ損害賠償が支払われる
・新人選手の契約年俸は低く抑えられている
自由交渉選手リスト(FA制度)がある
・選手の合意が無い移籍は不可(トレード制度無し)
・期限付き移籍(レンタル移籍)がある
・外国籍選手は3名まで、帰化選手orアジア特別枠選手は1名まで契約可
・21歳以下の選手を特別指定選手として契約可

Bリーグにサラリーキャップは存在しない。新人獲得もドラフトではなく自由競争だ。

後述するが移籍金も2019−20までは存在したが、20−21からは規約の中に移籍金という文言は存在しない。

ちなみに、Bリーグ規約類はJリーグ規約類をほぼ流用している。選手契約規程についても同様だ。


サイズのアルバルク東京への移籍は移籍金?バイアウト?


2021年6月10日、千葉ジェッツのセバスチャン・サイズ選手がアルバルク東京へ移籍する事を発表。その際、千葉ジェッツのリリースに「バイアウト条項」という文言が入っていた。



Bリーグの選手契約規程には「バイアウト条項」という項目は存在しない

新しい条項が設けられた訳ではなく、選手契約規程第19条2号が適用されたと推測される。
https://www.bleague.jp/files/user/about/pdf/r-25_20200903.pdf

第19条〔プロ選手がプロ選手として移籍する場合〕
プロ選手との間でプロ選手としての契約を締結しようと意図するクラブは、下記のとおりとする。
①契約期間満了後の移籍の場合、移籍先クラブは、当該プロ選手との交渉に入る前に書面により当該プロ選手のその時点で在籍するクラブに通知しなければならない。但し、当該プロ選手が自由交渉選手リストに登録されている場合を除く。なお、移籍先クラブは、当該プロ選手がその時点のクラブとの契約が満了したか、または満了前6ケ月間に限り、該当プロ選手と契約交渉および契約締結をすることができるものとする。
② プロ選手契約の期間満了前であっても、移籍先クラブと移籍元クラブとが移籍に伴う補償について合意し、かつ、当該選手も移籍を承諾した場合は、移籍を行うことができる。この場合の補償については、クラブ間での交渉により決定される。 


つまり、
1. サイズと千葉ジェッツは2020−21から始まる複数年契約を締結していた

2.  2021−22もサイズは千葉ジェッツの契約選手だったが、アルバルク東京がサイズの獲得意思を示し、千葉ジェッツとの交渉に入った

3. 千葉ジェッツとアルバルク東京が交渉して、移籍に対する補償金額に合意、サイズも移籍を承諾。
アルバルク東京から千葉ジェッツへ補償金を支払う事でサイズの移籍が完了

という流れだったと推測される。

また、この場合のサイズの複数年契約が千葉ジェッツからアルバルク東京へそのまま引き継がれるのかは明記されていないが、選手側からすれば契約のアップグレードが無ければ移籍に合意するメリットが無いので、選手契約は新たに締結し直していると考えるのが自然である。

そして、第19条2号をそのまま読めば選手契約に契約解除金を事前設定せずとも、他クラブ契約内選手の獲得意思を示した時点での都度交渉で保証金額を決めてOKとも解釈出来る。ここは実運用が不明なので真相は分からない。

この第19条2号は外国籍選手の細かい契約条項に対応するために存在すると考えられる。サイズほどの能力を持った選手なら当然欧州各国からの獲得オファーがあるはずだ。つまりサッカー界同様グローバルの移籍市場に対応する必要がある。今回のサイズは国内移籍だったので目立ったが、過去にも同じスキームで海外へ移籍した外国籍選手がいた可能性はある。


確かなのは

サイズは千葉ジェッツとの複数年契約中に補償金を支払ってアルバルク東京に移籍した。(移籍先のアルバルクから移籍元のジェッツへ補償金を支払う)
つまりこれはサッカー界の移籍金と同じである。


「バイアウト」という文言を使っているが、サッカー界のバイアウトとは少し異なる。ネイマールのPSG移籍はバイアウト条項の適用だったが、FCバルセロナとネイマールの間に事前設定されていた天文学的金額の契約解除金をPSGが支払う事で、FCバルセロナはネイマールの移籍を阻止できなかった(移籍元クラブの合意不要)。三者合意が前提になるBリーグ選手契約規程第19条2号とは異なる。
*ちなみにサッカー界のバイアウト条項では契約解除金を名目上選手自身が支払うスキームになっている。



さらにクローズドリーグのNBAでも「バイアウト」は存在するがそれも意味が異なる。NBAのバイアウトは、所属元チームと選手が合意の上で選手契約を解除する事だ。契約を解除する事で選手はFA状態となり他チームと自由に契約出来るようになる。

NBAのバイアウトは、解除する選手契約金額を「所属元チーム」から「選手」へ支払う事を保証した上で解除する(金額は交渉の上減額が一般的)。

サッカー界とは「誰が」「誰に」金を支払うのか全然違うルールなのだ。


Bリーグの問題は、選手契約や移籍に使われる言葉の定義が定まっていない事だ。ファンは分かりにくいものに疑念を抱き、不公平な競争だとリーグの魅力を損なう要因になりかねない。

ではBリーグに正式な移籍金は存在しないのか。実は以前は存在していた。


Bリーグの移籍金はカテゴリー上位への移籍のみ発生(だった)

2019−20までの選手契約規程には〔第4節 移籍金〕(第21条〜第25条)という項目があり、正式に移籍金が存在した。

2019−20 選手契約および登録に関する規程

第22条〔対 象〕
本節の移籍金は次の各号を適用の対象とし、選手契約の契約期間中の移籍か否かにかかわらず発生する。なお、2017-18シーズン終了後の移籍においては所属リーグは2018-19シーズンの所属をさし、2018-19シーズン終了後の移籍においては
所属リーグは2019-20シーズンの所属をさすものである。
① B2リーグ所属クラブからB1リーグ所属クラブへの移籍
② B3リーグ所属クラブからB1リーグ所属クラブへの移籍
③ B3リーグ所属クラブからB2リーグ所属クラブへの移籍



つまり、2019−20までの移籍金の対象はB2→B1のように上のカテゴリーへの移籍は契約満了前後に関わらず必ず移籍金が発生していた。なお基準となるカテゴリーは新契約開始時にクラブが所属しているカテゴリーである。

しかし、2020−21の選手契約規程では〔第4節 移籍金〕の項目自体が全て削除されており、上のカテゴリーへの移籍でも移籍金が発生しない事になる。

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ただし、契約満了後の選手移籍にも移籍金というプラスαの費用がかかるのは選手の流動性にも影響を与えるし種々問題もありあまり得策ではない。Bリーグがこの移籍金制度を廃止したのはある意味当然だろう。


閉鎖型の新B1にはサラリーキャップが必要?

2026年からの新B1はクローズドリーグ(閉鎖型)になるので、サラリーキャップ・ドラフト制度・FAが採用されるべきなのだろうか?

時期尚早だ。クローズドリーグなら無条件でサラリーキャップが採用できると思うのは間違いだ。

サラリーキャップはただの年俸抑制策ではない。

サラリーキャップはその金額設定方法に本当の意味がある。そしてそれは現在のBリーグではほぼ不可能だ。


サラリーキャップ金額を決定する『母数は』リーグ総収入である。

NBAでは2015−16から2016−17にかけてサラリーキャップ金額の2000万ドル以上の大きな上昇があった。
(2015−16 7000万ドル → 2016-17 9414万ドル)

これは、NBAが放送局と新たに結んだ放映権料でリーグ総収入が大きく上昇したことが要因だ。



つまり考え方としては、まずリーグ総収入をひとまとめにして、その取り分をオーナーと選手で決めましょう。そしてその選手取り分を各チームで等しく設定しましょう。それがサラリーキャップの金額設定方法だ。

この、リーグ全体の収入をプールして再分配する手法をレベニュー・シェアリングという。

よって、リーグ全体の人気が上がってリーグ総収入が上がればサラリーキャップも上がる、という流れになる。

サラリーキャップは選手年俸に蓋をするために存在するのではなく、戦力均衡を図りリーグ全体を魅力的なものにして、リーグ総収入を上げるために存在するのである




このレベニューシェアリングの発想が無いサラリーキャップは、本当にただの年俸抑制策となり、本来の「リーグの魅力を最大化する」という目的が達成できない中途半端なものとなる。

このレベニューシェアリングを日本で行おうとすると非常に高いハードルがある(はずだ)

Bリーグ各クラブ運営会社は独立した株式会社であり、クローズドリーグの限られた会社だけでその収益を分配するのは独占禁止法に抵触する恐れがある。

そしてクラブ運営会社は大企業の子会社も多い。収益の再分配は会計処理の問題も大きいはずだ。

適切なサラリーキャップ制度が存在しなければ、ドラフト制度もFA制度も戦力の偏りを「均す」ことが出来ず、「リーグの魅力を最大化する」という目的が達成できない。


クローズドリーグには移籍金はなじまない

クローズドリーグと移籍金はなじまない。具体例としてスペインの至宝リッキー・ルビオのNBA参戦時の経緯が分かりやすい。

リッキー・ルビオは2009年NBAドラフトにエントリー(当時18歳)、1巡目全体5位でミネソタ・ティンバーウルブズに指名されるもウルブスへの入団は2011年7月となる。

理由は当時所属クラブJoventutによりルビオに設定されていた移籍金(契約買取)660万ドル当時のNBA団体交渉規則ではNBAチームが契約買取(buy-out)に負担出来る金額は50万ドルまでに制限されていた

ウルブスは移籍金660万ドル全てを支払えず、ドラフトと同時にNBA入りを実現させるためにはルビオ本人が高額な移籍金を負担して契約買取(buy-out)するしかなかった


結局、ルビオは当時所属クラブJoventutからFC Barcelonaに移籍。FC Barcelonaが負担した移籍金は530万ドル。ルビオとFC Barcelonaの契約期間は6年だったが2010-11シーズンには移籍金が約140万ドルまで下がる契約になっており、その時点でのNBA入りが現実的となった。

そして2011年7月、ルビオはウルブズと契約。現在に至る。

https://archive.is/20120730184247/http://www.fcbarcelona.cat/web/english/noticies/basquet/temporada09-10/09/n090901106510.html#selection-863.0-883.121

NBAでは他チーム所属選手の契約買取は出来ない。当然だ。金で選手を買う事が出来ることになり戦力均衡ルールと矛盾が生じるからだ

つまりクローズドリーグに移籍金を導入するのは、リーグの魅力を自ら否定することになる。なじまないのだ。


結論 格差を無理やり無くす必要はない

個人的な意見だが、たとえBリーグがクローズドリーグになっても、サラリーキャップ等の戦力均衡ルールは不必要だ。

まず、現在のBリーグでは戦力における外国籍選手の比重が大きい。そして優秀な日本人選手ひとりが戦力バランスを大きく変えるほどの能力格差も無い。

Bリーグは外国籍選手はもともと契約人数、オンザコート数も制限されているので、戦力均衡ルールが無くても大きな戦力格差が生まれにくい。


また、アメリカのプロスポーツ市場は世界一なので最高峰レベルの選手が集まってくる(サッカー以外)。クローズドリーグでも他国と選手獲得競争をする必要が無いのだ。だからこそ戦力均衡ルールが機能する。

日本で同じ戦力均衡ルールを採用しても、アメリカと同じ成功が得られるとは限らない。

新B1参入基準となる「売上12億円」は、その程度の売上金額があれば戦力格差も大きくならないだろう。

日本には日本のクローズドリーグがあるはずだ。新Bリーグ構想にはそこまで見据えた改革を期待したい。


参考資料







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