鑑賞ゲリラ Vol.36 『めくりめく人間の闇へようこそ』レポート(1) 2023/10/28開催
開催情報
【開催日】2023年10月28日(土)
【会場】N-mark B1
【展覧会】大嶽涼太個展「Butterflies」
会期:2023年10月14日(土) ~ 10月29日(日)
【出品作家】
大嶽涼太 (OHTAKE Ryota)
内容
鑑賞内容
名古屋市中区長者町のビル。地下1階の細長く小さなスペースの壁3面に、同サイズの作品が等間隔 で展示されている。鑑賞者は同じスタイルの作品に囲まれて、一つ一つ確認するように眺めて歩く。
ファシリテーター(以下F) ::第一印象はいかがでしょうか?
▶︎千円札がいっぱい使ってある。蛾か蝶なのか不思議な世界。下に添えてある文字は学名なのか、英語なのか。
▶︎お札を使った蝶に見えるけど、部分的に何か書き加えられてるのではないか。
▶︎目の丸いアニメのキャラクター。POPな絵と思って見始めた。途中から蝶の形は分かったけど、 お札と気がつかなかった。(見ながら)移動していくうちに雰囲気が変わった。
▶︎お札の表バージョン、裏バージョンと2種類ある。裏表両方ミックスされてるのは見つからなかった。
▶︎本物なのか模倣品なのか。昔お札を使ってとんでもないことになった方がいて、そのかたを思い出した。大丈夫かなと。
・・・参加者全員、笑いながら肯く。声に出さずとも赤瀬川原平を連想したようだ。
F:みなさん本物の千円札を使っていることで同意のようですね。 千円札を使っていることがこの作品のポイントかもしれないですね。ではなぜ使っているのか、ちょっと考えてみましょう。
▶︎副葬品。貴金属とか、亡くなった時に亡くなった人のために入れるもの。使うとしたら棺の中に入れて埋葬したい。
▶︎今の千円札ですよね、野口英世の。なのに古代のものに見える。お金の貴重さとは違う金属っぽ いような、先ほど言われたような価値。遺跡から見つかるような…確かにあると思う。色だと思う。複雑な色。(一つを指差して)翡翠の色。
F:複雑な色合いから古代のようなものに感じられるんですね。他にどうですか?
▶︎色が綺麗、形が美しい。だけど千円と分かった途端なんとも言えない気持ちが去来する。いいのか。お金は大事と教えられた。常識を超えている。アンビバレンスというか二つの気持ちが行ったり来たりする。非常に・・・魅力的です!
F:とても美しい。だけどお金と気づいた時の違和感。ちょっと罪悪感がある。
▶︎確かに蛾や蝶には毒々しさや気持ち悪さがある。美しいけど気持ち悪い。お金と気づいた時の 気持ち悪さ。そこが結びついた。
▶︎蛾は捕まえると粉(鱗粉)がつく。実はお金にも粉というか汚れがある。自分はお金を銀行に収納する機械の修理を昔やっていた。大量のお金を通すとすごく汚れる。蛾の粉とお金の持ってる 汚れが繋がってると思った。
F:綺麗から罪悪感へ。お金が汚い、ということでしょうか。お金について何か。
▶︎お札は他にもある。樋口一葉の5千円札とか、福沢諭吉の1万円札とか。野口英世にリスペクト とかあるのか。
(紙幣のカットの仕方に)角バージョン、丸バージョンがある。ある程度 大量生 産というか型で抜いてやってるのか。やや工業的。
▶︎一万円や五千円は高い。となるとこれだけの数・・・この作家さんが売れてくれば1万円とか使うだろう。すると我々はあぁやっぱりなと。なる。
・・・使用する紙幣が変わると作品価格も当然変わる。みな笑いつつ瞬時に理解し納得した様子。
▶︎野口英世と千という数字がないとお金であることがわからない。お札の中の絵から作家はすご くイメージを広げている。作品それぞれが全て違う。あれは古代ギリシャの女の人顔みたい。
(全員作品を確認し、驚く)
これを発見して、他のも見ていったらみんな違ってた。私たちは普段お札をちゃんとみたことがない。千円札は一番よく使う、一番身近なお札の最小単位。それをじっと見ているといろんなイメージが広がることがあると知った。
F:模様が素晴らしい。一番身近。模様にインスパイアされて違うものになってるなど。
千円を使った理由、他に何かありませんか?私自身、罪悪感はなぜだろうというモヤモヤが解消されました。
古代のものとの結びつけるとか、私は気づかなかったので新しい発見がありまし た。ありがとうございます。
【ファシリテーター】植村優子
【レポート】大野有紀子
蝶や蛾を彷彿させる形で美しさと気持ち悪さを感じつつも、どちらかというと紙幣寄りの話になっていく。個人的体験を交えての発語も興味深く、鑑賞の顔ぶれが違えばまた別の対話となったと思われ、そこが対話型鑑賞の面白さの一つであると実感できました。
蝶や蛾を模した作品が繁華街の地下一階のギャラリーにある。誘蛾灯に集まる蛾など、場所との関係に触れることができなかったのは残念でした。
自戒を込めて。(大野有紀子)