鑑賞ゲリラ Vol.27 『わたしと絵の間』レポート 2023/6/3開催
開催情報
【開催日】2023 年 6 月 3日(土)
【会場】galleryN
【展覧会】小川愛個展 「ストンと落ちて、そこにある」
会期:2023年5月13日(土)~ 6月4日(日)
【出品作家】小川愛(OGAWA Ai)
内容
鑑賞の記録
ファシリテーター(以下F):『わたしと絵の間』のタイトルのように、対話型鑑賞なのでしっかりじっくりご覧になり、「わたしと皆さんの間」「皆さん同士の間」にも何かしら生まれること、もの、を感じ取っていただけたらと思います。恥ずかしがらずに話してください。
F:最初にギャラリー奥の大きい作品を鑑賞します。(以降作品Aとする)色、形、筆致などをよく見てください。
▶絵の具をそのまま出した感じである▶画面全体の絵の具がモリモリしている▶パレットナイフを使って描いた▶インスタで写真を見たことはあるが実際に観るとグロテスク▶肉体、肉を描いたような凶暴さ強さを感じる
F:(外から風が入り)今ちょうど、キャンバスが風をはらんで生き物のようです。
▶パンだと聞いて来て作品を見たけどフワフワした感じが無い▶大きなパンに世界全員分のジャムやバターやチョコなどの塗るものを塗った▶大きなパンに自分がこれまで塗ってきたジャムや様々なものが蓄積している
F:横からみると凸凹があります。
F:作者は自ら木枠を作りキャンバスを張っていて、立体の作品もすべてキャンバスに描いているので絵画と言っています。
F:次に正面の絵(以降作品Bとする)を最初に見た絵と比べて鑑賞しましょう。
▶BはAに比べて大胆でラインが大きい▶BはAに比べて赤い色が目立つ▶Aは痛くて辛いがBの方は明るく軽い▶制作に対する気持ちが入っていると思うので二つの差を感じる、Aは下の方が血管のようで全体がテラテラして居心地が悪く Bは尖ってマッドで生々しく感じる▶Bが動きが激しく、激しいから痛く攻撃性を内包する▶Bはパンの中に入っていく感じがする▶Bは絵の中に滴り落ちる物がある、不穏な気持ち、攻撃性を内包する激しさある▶Bは赤のストロークの強さに苛立ちを感じる早くイライラを抑えたい感じがする
・・・AとBを対比するとの鑑賞者の中で二つの作品の感じ方がはっきりと分かれた。
F:「すとんと落ちてそこにある」のタイトルから感じるものは?
▶腑に落ちる感じがする▶トースターを感じる
F:朝食は統計的にもパンが普及しています。パンに対してどう思いますか?自分自身にとってパンとは?
▶特に感情を動かされるものではなく味も単調▶すごく悲しいことがあってもパンを焼いて口にねじ込んだ記憶がある、無理矢理にでも日常にする物▶パンの味はプレーンなので同じパンでも日によって味が違う▶毎日食べて自分を作っているもの▶通勤電車のように同じだから自分の変化がわかるもの
F:作家にとってパンとは?
▶小さい作品はすぐに描けるのでその時の気持ちが入っているが、大きい作品の制作は時間がかかっているので一つの気持ちではないだろう▶作家はパンが好きだったのだろうか?嫌いではないけど作家はパンに何かをぶつけている
F:作家にとってパンは幸せのモチーフと言っています。それを聞いてどう思いますか?
▶本人(作家)にとっては逆の意味ではないか?幸せは後になって気付く
▶描いて、展示して描き続けているので生きている事を感じるのではないか
▶しばらく自分で見ていてストンと落ちる感覚があるのでは?時間差があってストンと落ちるのを感じる
F:作品との距離の変化、パンそのものが自分自身であったことにも繋がっています。その変化についてはトークでお話を伺いましょう。
【ファシリテーター】城所豊美
【レポート】野中美佳
【鑑賞時間】45分
ギャラリストトーク
◆これまでの作家と作品の話
作家の小川愛さんは幸せのモチーフとしてのパンを10年間描いている。当初はリアルなパンを描いていたが抽象画へ。
パンは、19歳の学生の頃落ち込んでいる時に、映画「幸せのパン」の家族でパンを分け合うシーンを見てから描き続けている。
初期では、幸せの象徴としてのパンをおいしそうに写実的に描いていた。
《甘さに溺れる》2017年では、アイスクリームが滴り落ちるパンの絵を描く。
しかし、2019年には、本人の中に圧倒的に足りない物があり、無意識だと思うが作品が巨大化する。
2020年には、パンが焦げてドロドロした絵になる。週休0日でハードワークの日々の中描いていた自画像であり、また、コロナ禍で出口がない心境が反映された作品ではないのだろうか。
2022年後半になり、絵を描く環境が大きく変わった。勤務先を変え週休2日で自分を見つめながら描く。絵画的な作品になってきた。落ち着きつつある。
◆展覧会の初日のギャラリートークで話された作家の言葉より
パンというテーマの中でどうやって描いていくかを追求している。パンのモチーフ以外は描くことに興味を感じない。
絵の具の垂れる様な所は感覚的なもので、ねらって描いてはいない。ジャムやバターなど具体的に思って絵の具を載せているのではない。
働きながら描くことは砂漠を一人でふらふらと歩いている感じだ。絵を描くことができなければ生きていないし、生きていることは絵を描くこと。
良い絵が描きたいと思って描き続けている。
【ギャラリスト】ギャラリーN 二宮由利香氏
【トーク時間】40分
パンをモチーフとした抽象絵画の作品を二つ比べて鑑賞し、参加している人たちが対話をしていく中で、自分と作品から作家と作品へと作品を通じて、そこには居ない作家と参加者の感覚の距離が狭ばまっていくのは、対話型鑑賞の醍醐味でした。(野中美佳)