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鑑賞ゲリラ Vol.34 『境界にあるもの』レポート(1) 2023/10/14開催

開催情報

【開催日】2023 年 10月 14日(土)
【会場】アートラボあいち
【展覧会】「Gap in boundary 境界の狭間で」(愛知県立芸術大学)
 会期:2023年9月15日(金)〜 10月22日(日)
【出品作家】
 つづきりょうこ (TSUZUKI Ryoko)
 手塚好江 (TEZUKA Sumie)
 藤原木乃実(FUJIWARA Konomi)

内容 

作品

手塚好江(TEZUKA Sumie)《透明マント invisibilty cloak》
1620×1620  麻布 膠絵具 油彩

鑑賞内容

ファシリテーター(以下F):今日は皆さん対話型鑑賞の経験者という事で、間違いとか気にせず何でも、この絵を観て気づいた事を何でも教えてください。

《透明マント invisibilty cloak》

▶網を被った人がいる
F:どこにいますか?
▶(絵を指差して)ここが肩で頭がある。
▶そうにしか見えなくなる。
▶なんで立っているのだろうと思った。
F:他の方どうですか?
▶私も同じように見えたのですが、網じゃなくて、その人自体が、首から頭部がそれ(網っぽいもの)になっちゃっていて、中に花と葉っぱがあるように見えました。

F:皆さんも中に花がある様に見えたようですね。私も最初花があるように見えました。美女と野獣の寿命を表す花のように見えました。近い意見が聞けて嬉しいです。
▶スーツの衿のようなものも見えている。
▶ふかふかとした肘掛けもある椅子があって、上の所の帽子はよくわからないけど、背もたれにバラの花のクロスステッチの刺繡のクッションのようなものが置いてあるように見えた。

F:皆さん何か立体のものを想像しました。作品を近くから見た時と遠くから見た時はどうですか?
▶チューブから出して直接描いている感じがする。
F:そうですね。近くから見ると細い(ケーキを作る時に使う)ホイップ絞りを使って出しているようですね。色とかはどうですか?注目して見てみてください。
▶網掛けみたいに色がついてる所と、上の方は下地の色が無い。
▶この部分が(真ん中の辺り)が違います。ピンク色っぽい、後は白とグレイのグラテーションなのに。
F:確かにここの部分だけピンク色っぽいです。この部分の色が違うのは何だと思いますか?
▶さっき、(網を)被っているという話がありましたが、まだ生身の人間が残っているものが網のかかっていないところにはいて、網は元の何かに進出されている。
F:逆に肩のように見えるところは実体が無くなっていて、何かに進出されているみたいな感じがすることですね。
▶人間にしか見えなくなってしまっているのですが、花が中にあって、グレイのところは水や呼吸を感じる。花には暖かいものを感じる。大事な自分とか、「はあ~」っと息を吹きかける感じがする。
▶確かにピンク色は良い感じがする。
F:この部分、ピンク色の部分は大切なものの感じがするということですね。それは描き方と関係していますか?私はいまのお話を聞いて、面がペタッとしているから液体っぽく感じたのかなと思います。
▶ピンク色の淡い部分は実体がしっかりつかめない。
▶消えかかっているがここだけは実体があるのだよという感じがする。
▶顔があって欲しい(が描かれていない)。
▶激しい感じじゃなくて、ほわっとしている。
▶周りのものは乾いている感じだが、中のものに湿度を感じる
▶懐かしい感じもする。
▶クロスステッチだから?
▶色の感じからか。
▶淡いピンクのところは空気感を含めて人間的なところが残っているが、グレイの所が溶けかかっていて垂れている。最後は存在が無くなってポロポロと崩れ落ちて終わる。

F:皆さん、いろいろなストーリーを考えて下さいました。気持ちを加えるとしたらどんな気持ちがのりますか?作品の視点でも鑑賞者の視点でもいいので何かありますか?
▶儚い感じがする。消える前に大丈夫と言って抱きしめてあげたい。
▶葬儀の参列者みたいな感じ、自分の葬儀に自分で参列している。
F:私も不思議に思ったのは、動きがない。人だとしたら直立不動、虚無な感じで魂があるのかなと感じました。
▶後ろの網が寝かされている棺のように見える。
▶今、パレスチナで(戦争を)やってるみたいに、 誘拐された人たちが袋を被せられて、連れて行かれる感じがする。
▶人とするなら実体が良く分からない。
▶頭から袋を被せられているような心境なのでは。
▶たくさん泣いた心象風景のようであって、自分に出せない感情のようだ。▶上の所の網の書き方を見ると、寝かされるとしてもきれいな、ハンモック的な所に寝かせてある。
F:森とかリラックスできる空間に、ハンモックを吊ってという感じですか?
▶汚く無くて、綺麗な所。
▶怖いとかそういう感じは無い。

F:最初は人のように見えたけど、だんだん物体として無くなっているものの両方の感じがしました。
▶奥の色は白とグレイの複雑なグラデーションがある。
▶真ん中のバラのようなものは何だろう。

F:鑑賞も後半になってきたので、タイトルをお伝えします。タイトルは「透明マント」です。それを聞いて感じることはありますか?
▶あえて、自分で着て姿を隠しているようだ。
▶マントが小さくて顔しか隠せなかった。本人はそれを被って中から外をみている。歩いているような、動きを感じる。
▶透明マントを着て、その自分を鏡でみている。本人は繊維ごしに見ているから網が見える。
F:顔だけ被っているということを聞くと、たまたま、顔の奥に花瓶があって透明で透けているから私たちにはそれが見られるようにも見えます。
▶見られている視点と他を見ている視点が一つになっている。
▶マントをまとう瞬間の徐々に隠れているところの絵のようだ。
▶マントをしているなら、上の所が気になる。帽子みたい。
▶帽子を被るというよりもここに空間を作りたい。バラの花の息づかいが息苦しい。
▶ここに顔があるなら、首が長くなるがバランスはとれている。

F:やはり息づかいを感じますか。
▶帽子を被ってる人の目線で見ると、目の前にバラをみていることになる。
▶見ているものと見られているものの視点が一緒になっているようだ。

F:最初のほうで(絵の中に)人を発見して、その人に対しての話がたくさんありました。その後で透明マントという課題を超えて、どこに視点があるか、透明マントの内側にある視点と外側にある視点の話もたくさん出て、楽しい鑑賞になりました。ありがとうございました。

【ファシリテーター】菅原まみ子
【レポート】野中美佳


一見、地味な感じの作品ですが いろいろなストーリーが思い浮かぶ奥行きの深い作品でした。ファシリテーターと参加した鑑賞者の間のざっくばらんな会話の中でどんどん鑑賞が深まって行くのも聞いていて楽しかったです。(野中美佳)

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