鑑賞ゲリラ Vol.40 『卒展with鑑賞ゲリラ』第1弾 開催レポート 2024/1/21開催
開催情報
【開催日】2024年1月21日(日)
【会場】愛知県芸術文化センター8階
【展覧会】「第19回 名古屋学芸大学 卒業・修了制作展 」
メディア造形学部 映像メディア学科/大学院 メディア造形研究科
●会期:2024年1月13日(土)~1月21日(日)
●場所:愛知県芸術文化センター8階(ギャラリー展示室E・F・G・H・I)/アートスペースX地下2階、名古屋市東文化小劇場
卒展with鑑賞ゲリラ
現役大学生・大学院生の力作が多数展示される卒業制作展(卒展)に訪れ、お気に入りの作品を探したり、対話型鑑賞したり、制作した学生の話を聞いたりしながら、アート鑑賞を楽しみます。
「卒展with鑑賞ゲリラ」のレポートでは、対話型鑑賞した作品や、参加者の気になった作品などをお伝えします。
2024年の第1弾は、名古屋学芸大学メディア造形学部 映像メディア学科/大学院 メディア造形研究科の卒展で開催しました。
展覧会の印象
作品イメージと展示場所がマッチしていた地下2FのアートスペースX、没入感満載の静かな写真エリア、作品同士の呼応を楽しみながら、回遊することが出来たインスタレーション領域のエリア、それぞれに若い力や苦悩の輝きを感じた展示でした。
作品は割と整っていました。メディアの大学だから、もっと尖ったものがあってもよかったと思いました。
対話型で鑑賞したのはインスタレーション領域の作品に絞られてしまいましたが、参加者の「推し」としては、フォト領域の作品も多く選ばれていました。どちらの領域の作品も、作家さんの感性で今できる事をのびやかに表現されている作品だと感じました。
アート作品と商業的なメディア(エンタメ、報道、SNSなど)の区切りがなくなってきたことを実感する内容の卒展でした。
自己探求がそのまま表現になっている作品が多い印象がありました。
ある意味、美術館の企画展よりも難解な作品が並ぶ卒展は、作家のトークを聞くことでやっと腑に落ちる感覚があります。(モヤモヤを持ち帰り、家で考えるのも楽しいですけど)好意的に作品についてお話しいただき、とても感謝しております。参加者も満足された様子でした。
対話型鑑賞をした作品
《む》大野みなみ
▶午前の部
場所的にちょっと気の散る感じもあったが、小5の子供がいたのでやってみた。 どう転ぶかと思ったが、意外にも面白く、こんなに考えて頭捻ったけど、タイトルが「む」だっ たことで、ストーン!みたいな愉快さがあった。(タイトルは参加者からの質問で作家さんから伝えてもらった)
無邪気で、無心に話せた作品だった。
《CrispAir》伊藤純
▶午前の部
沢山の発言や、鑑賞者同士のやり取りも生まれた。早めのインフォメーションを心がけ、あまりモヤモヤ残しに拘らず、ある程度の腑に落ちた感で終わりたかった。対話だけでかなり深まった が、作家の話を聞いたことで更に納得できたと思う。
▶午後の部
母娘でご参加の二人がそれぞれ解釈が全く違っていたので楽しく思考できた。カラフルなコードと檻に入っているバルーン (レジャーシート)の謎を作家に聞くことができ、満足された様子。作家に、年配男性の「気の強い女が監視台に座って威張って命令してるのだろう」という感想を伝えたところ、男性本人は妙に焦っていたが、作家的にはそれは良い感想だとのこと。あとひとり参加者がいたらさらにユニーク な展開ができたと思う。
《でも静かに》西川滉都
▶午後の部
鑑賞者が男性ばかりだったので、メカニックな作品でも充分対話できたと思う。自分は本来苦手な分野だったが、参加者が沢山の発想を広げてくれた。作家のトークでグッと深まる作品だった。
《双子の森》日比野曜
▶午前の部
(下見をして)「空間に傷をつける」というテーマを決めてのぞんだが、キーとなる展示物(傷のついたアクリル 板)が部屋の中央から移動されていたせいで見え方が変わってしまった。しかも映像が妙に編集されていて、そこばかりに目がいく。ギリギリまでいろいろ悩んでいるのだなと創作の過程に理解を示しつつ、主題が変わってしまい少々残念だった。参加者は、わからないと言いつつ、全員がそれなりに何か見つけようと言葉にしてくれた。
▶午後の部
下見の時と最終形では、私的には下見の時の方が断然良かった。 でも考えがあって、あれこれ試してみて会期中に完成形としたのはあれだった。その作品の変化と彼の心のあり様なども身近に感じられて・・・彼もあれで完璧だとは全く思ってないのが滲み出ちゃってたところも含めて、そういう意味でやっぱりこの作品は好きだった。
《多世界解釈》長屋琉我
▶午前の部
参加者が中年男性ばかりだったせいか、作品を構成するモノの中に昭和を探して盛り上がった。 作者は大学生のはずだから親の影響か・・・等々、人物像にも話が及んだ。また、ショッピングカート から溢れるモノに消費社会を見る人が多く、この作品の鑑賞のポイントと考えていたようだった。
▶午後の部
参加者は対話型鑑賞は初めてで、美術館へもあまり行かないそうだ。日展は見るが現代アートには馴染みが無いと言われる人もいて、言葉にしやすい作品として選んだ。午前中に出ていた消費社会を彷彿させる感想は出てこず、それぞれの物品から思い出す自分ごとを言葉にされていた。
作家から、それらのものは親や祖父母から無条件に与えられ押し付けられたもの(自分を構成しているもの)で、カートからぶちまけているのだと聞いた。午前中の人たちが聞いたら、なんと反応しただろうか。
参加者の気になる作品リスト
午前・午後それぞれ対話型鑑賞をした後、鑑賞者の皆さんに、気になる作品を探してもらいました。(▶は皆さんの感想)
展示室E・F
《瞬く姿》村田諒
▶シャッターチャンスが絶妙。
《ぬくぬくと》伊藤伽笑
《揺れを描く》藤川彩
▶絵画のよう、美しい…
《温情-うーたん卒業写真集 完成記念パネル展-》池田莉央
▶インパクトがある。卒展に個人のポートレートを出すコンセプトが気になる。
▶(会場で)うーたんに会えた。かわいかった。
《勿忘い》杉本瑞樹
《路の間に間に》臼淵健人
《漂着》森勇登
▶日常に見る風景。自然に溶け込んでいるところが素敵。
展示室G
《ふめい》大平直人
《范范と、こよなく》森香月
《Immersive auditory experience-水空間-》木本優花
▶音のインスタレーションはたまにあるが、身体を揺らされるのは初めてかも。もっと浸っていたくなった。
《記憶は香りを呼び覚ます》吉田瑞希 伊藤麻由佳
▶抽象感がいい。
《Luminique》石濱靖登
▶夢の中にいるよう。
展示室H・I
《ChouChou》石原由菜 細田蘭 原大空
《夢のような人》田中美緒
《Crisp air》伊藤純
《Lipression》谷口ヒカル
▶発想が面白い。目や鼻も同様に反応すると、さらに良い。
対話型鑑賞スタッフの感想
対象作品は、展示スペースや隣接する作品の干渉ぐあい、対話しやすさなどを優先して選びました。在廊の確認がとれたという点に引っ張られた感もあり、インスタレーション作品に偏ってしまいました。
普段から作家やギャラリストのトークを入れるようにしているので、卒展でもそれが出来たのはよかったです。作家に頼り過ぎな部分はあるかなと思いましたが、作家の思いなど、作った本人にしか分からない部分を共有できる空間を作れたのはよかったです。
小学生の発言が子供らしかったり、大人顔負けの感性だったりで、皆を刺激してくれました。
会場にところ狭しと並べられた作品群に、参加者の目があちこち移りやすく、鑑賞に集中するのが難しい状況が続きました。
対象の作品が、下見した時とは配置やその他が大幅に変わっていたので驚きました。鑑賞テーマを変えざるをえなくなり、想定外の展開になりましたが、逆にいい経験となりました。改めて作者の思考の過程、創作の過程を知ることができ腑に落ちました。参加者はモヤモヤのままだったようですが、それも対話型鑑賞ならではの感じ方、いい鑑賞ができたと思います。
ぱっと見のインパクトに目を奪われる作品も、作家のトークを聞くと、思想や内面的なものが顕になってよかったです。意外性のある作品が多かったと思います。
ご協力いただきました名古屋学芸大学の関係者皆様に、改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。
【ファシリテーター】大野有紀子 取嶌朋子 平岡靖教
【スタッフ】野中美佳 富樫水奈子