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鑑賞ゲリラ Vol.31 『日常とモノクローム』レポート(1) 2023/8/26開催

開催情報

【開催日】2023 年 8月 26日(土)
【会場】ギャラリーA・C・S
【展覧会】市橋安治展 没後 4 年ー’00 年代後半からの表現ー「思うままの理を累々と描く」 
 会期:2023年8月19日(土)〜 9月2日(土)
【出品作家】
 市橋安治(ICHIHASHI Yasuji)
 

内容 

作品

《飛翔》 2009 年  銅版画 / ed25  45×60cm

鑑賞の記録

F:作品を見て気づいたこと、思ったことを聞かせてください。
▶飛行機がたくさん飛んでいる。
▶怖い。戦争を思い出す。
▶「風立ちぬ※」を思い出す。
(※スタジオジブリ制作のアニメーション作品)
▶室内を描いていると思った。 (作品左下にある)四角形が扉で、(クロスのモチーフは)広い壁の模様だと思った。 (作品はモノクロだけど)色があったら、だいぶん印象が変わるかもしれない。
▶ビビットな感じかも。
▶背景がモワモワしていて暗いけれど、(作品の)下部にきれいなものがある。風景?この先にきれいな 場所があるような気がする。
▶下のふわふわした部分は波のように見える。色からは暗いイメージを受ける。他の人の意見と同じで、 海の上を飛行機が飛んでいて、戦争しているような。・・・でも、四角形が気になりますね。

・・・戦争中の風景を連想する言葉が多い中、室内を描いているという見方もありました。クロスモチー フがたくさんある中に、一つだけ左下に描かれた四角形に目が向かいました。

F:実は、四角形は作家さんのサイン、落款のようなものなんです。
・・・ファシリテーターが種あかしをすると、他の作品のサインも確かめる皆さん。
▶でも(サインの場所が)他と少し違うような・・・。
▶他より真ん中寄り?
F:配置が変わっていますよね。サインでさえ、作品のモチーフのひとつとして取り入れているとか・・・?
▶石碑みたいに見える。風景に溶け込んでいる。
▶飛行機の向こうの建物・・・記憶の中の風景みたいに感じる。
▶やはり戦争というイメージがしっくりくる。
F:爆撃を受けている、ネガティブなイメージ?

・・・戦争や暗いイメージへ戻りかけたところに、全く違う発言もありました。
▶四角形から大須の「アリスの館※」を思い出した。狭い空間から広い空間へ続いているような扉。
(※名古屋市中区の大須にある「水曜日のアリス 名古屋」というショップ。小さなドアから店内へ入れるようになっている。)

・・・お店の話に少し脱線して、少し緩んだところで・・・
F:ネガティブではないイメージですね。それでは、この作品をネガティブではないイメージで見ると、 どうでしょう?
▶部屋の壁だとしたら、クロスモチーフで壁の穴をふさいでいる。
▶風景ではなく、心の中かも。
▶ルール、規則性がある。
▶縛られている。辛い。
・・・ネガティブなイメージへ戻ります。

F:どこからそう思う?クロスが×(バツ)に見えるところ?
▶規則性、ルールがあるところが、社会のルールに縛られているイメージ。

F:タイトルを明かすと・・・、《飛翔》なんです。タイトルを聞いて印象に変化はありますか?
▶カラス(が飛んでいる)?黒いし・・・
▶心の中にある何かが飛んでいる。
F:何かとは?
▶考えていること。辛い、悲しい、嬉しい、一つずつ違うこと。
▶タイトルとイメージが合わない気がする。
▶クロスに規則性を感じて、飛翔というタイトルには結びつかない。 ▶クロスが飛行機だと見ると、(向かって)右上から左下へ落ちていくように感じて、鳥が 飛んでいると見ると、(向かって)左下から右上に飛び立つ、前向きな印象になる。

F:「飛翔」という言葉は希望や良いことに向かっていくイメージがありますが?
▶やはり、作品には重い印象を受ける。
▶重たいものがあってからこその、そこから飛べたら飛翔になるのかも。
▶飛翔する前の状態を描いているのでは?モワっとした背景は過去。これから飛翔して、きれいなところへ行くのかもしれない。
F:ネガティブではなく、暗いところから飛び出す、「飛翔」といったところでしょうか。

【ファシリテーター】平岡靖教
【レポート】富樫水奈子
【鑑賞時間】20分


同じモチーフが繰り返された作品、同じモチーフの作品が複数並べられたギャラリーの中は、リズミカルで、どこか異空間にいるような不思議な感覚になりました。

鑑賞した作品は、記号でもある「クロス」がたくさん描かれた作品です。
シンボル化したように描かれている日常的なモチーフ(椅子、電球、テーブ ルなど)に比べ、それ自体が象徴的であったり抽象的です。
鳥や飛行機、壁紙の模様など、人によって見え方が違うのが興味深いです。
鑑賞中に何度も出た「戦争」「暗い」「怖い」という言葉は、恐らく、現在の世界情勢が大いに 影響しているでしょう。鑑賞者の発言にあったように、使われた色が違えば、印象が全く異なったかもしれません。

具体的モチーフでないからこそ、見る人によって異なる解釈を生み、文化、時代背景によっても捉え方が異なる作品だと思います。(富樫水奈子)

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