鑑賞ゲリラ Vol.41 『可視/不可視』レポート(1) 2024/3/21開催
開催情報
【開催日】2024年3月21日(木)
【会場】古川美術館 分館爲三郎記念館
【展覧会】「Scenery-景色とつながる4つのメソッド」
会期:2024年3月2日(土) ー 3月14日(日)
参加作家:近藤正勝(KONDO Masakatsu) 中田ナオト(NAKADA Naoto)
三田村光土里(MITAMURA Midori) 米山より子(YONEYAMA Yoriko)
内容
作品
近藤正勝《山と渓谷(ピンクストライプ)》2022年 キャンバス 油彩
近藤正勝《A BIRD(Looking UP)》2018年 キャンバス 油彩
鑑賞内容
古川爲三郎記念館は初代古川爲三郎氏が終の棲家としたの数寄屋づくりの邸宅です(昭和9年建立)。爲三郎氏は映画や飲食業をはじめ様々な事業で地域の発展に尽力し名古屋の文化にも大きな功績を残されました。まずは数々の意匠が施された瀟洒な邸宅の、その玄関を開け放つと目の前に飛び込んできた作品から鑑賞することにしました。
( 閉じていた玄関を開けて、しばらく見ていただく)
ファシリテーター(以下F):何がありますか?
▶︎雪山
F:それはどこから?どうして雪山と思われましたか?
▶︎山の白さから
▶︎針葉樹ぽい森が広がってる
F:どんな印象ですか
▶︎全体的にカラフル
▶︎冬の感じがしない 真冬の感じがしない/春の訪れる感じ
F:どこから真冬じゃないと思われましたか?
▶︎光の加減
▶︎木に雪が積もっていない
▶︎新芽が出てくる
F:春を待つ感じでしょうか。では近くで見てみましょう。
邸宅内へ移動する
F:雪山で春が近い感じ。と言われましたが、近くで見たらどうですか?
▶︎雪が降っている最中
▶︎この木(手前の1本)が浮き上がっている。緑の深い色。
F:ここですか?
さっきカラフルとおっしゃいましたが、カラフルからどんな感じがしますか?
▶︎楽しそうな感じ。カラフルで楽しそうな景色。
▶︎朝方か夕方
F:だいぶ時間が空いてますね。
▶︎お日様が空高いところではなくて際際にある感じ。
F:楽しい感じともおっしゃいましたね。
▶︎手前に離れて立っている気がすごく気になっていて、これだけ見るとちょっと寂しげな感じもします。
F:逆の印象ですね。奥は楽しい感じで、手前の一本だけがポツンとあるような感じ。先ほどすごく印象的とおっしゃった方もいましたね。緑が濃いと。
ではその木に着目してみましょう
▶︎こっちから(絵の左側から)日が差している。でもこの一本だけこっち(絵の右側)から。山の肌を見ると手前から差している。影がなぜあっち(反対側)についている…なぜだろう
F:なぜだと思われますか?
▶︎さっきも朝なのか夜なのかわからなかった。自分にすごくオーロラの願望がある。だからこう見えたら鮮やかだろうなと思ったのかもしれない。
F:オーロラはどの部分から?
▶︎しじまの色/カラーリング/一番上が真っ青の天空の宇宙空間。ああオーロラがこう見えたら明るくて、みんなで見えるね。ということが思い浮かんだ。
F:先ほどは、こっちから日が差しているような山肌の明るさ、だけど木の影が逆とおっしゃいました。不思議な感じということでしょうか。
▶︎こっち(手前の木)がリアルで影も見える。だけど空だけが抽象的で、どっちが東なのか西なのかわからない感じ。
F:抽象的とおっしゃいましたが、ストライプと影のないところのことでしょうか?
▶︎(頷く)
F : この絵の中に、具象的な部分と抽象的な部分があって、それが不思議感を醸し出しているということですね。
▶︎木立がか細いですね。こちら(1本の木)と比べると、とってつけたように見えます。
F : では近くで見てください。
▶︎あ、これ木立でないいんだ!絵の具が垂れている・・垂らしている。
そうすると湖面?湖の中に1本木が立っている?
F : 湖といってもここは白い。凍っているという感じでしょうか?
▶︎(頷く)だから上の縞色が反映してるのでは。
(皆さん感嘆)
▶︎そうか、木立ちもはっきり見えないわな。際までずうっと湖が続いている。
F :今のお話ですと、これは雪原ではなくて湖で空の色が写っているのではないかということですね。ちょっと見方が変わりましたけども、凍った湖に空の色が写っているということでイメージ変わりましたか?
(沈黙)
▶︎この木に何かしらの意志を感じる。作者の意思を読み取れるんじゃないかと見ていて…これが爲三郎さんなのかな?と。
いろんなご苦労もあったんだろうけど、一本立っていて、東北大震災の時に残った1本の松の木のように、さっきは寂しいと思ったけど、(爲三郎さんは)夢と希望を与えられた方なので、オーロラも夢とかそういったものを含んでいるような
F : 1本の木から爲三郎さんじゃないかと。また感情までも言っていただけましたが。皆さんはどうですか?
▶︎自分は自分。独立した感じ。
F : 力強い感じですか?
▶︎なんか俯瞰してみている感じ。全体を眺めて冷静に全体像をみているイメージがあります。
F : それは作者の方が ですか?この状況を冷静に見ている。
▶︎そうです。
▶︎私は山が爲三郎さんだと思う。山があって裾野の方に木が茂って山の豊かさが下に広がっていく感じを持っていて、山の麓にいっぱい木があるんだけど、ちょっと離れたところに文化的なもの、人がちょっと目を向けないところも山のおかげで成り立っているような。そんなふうに感じました。
F : 山が爲三郎さんで、裾野は文化的というか人々のいる社会。社会を見ていて包み込む包容力のあるイメージでしょうか。
▶︎はい
F : この絵は爲三郎さんを書いていらっしゃるイメージですか?
▶︎(頷きながら)山があって、そこに色々なものが生まれたりする。山の豊かさを感じられる。
F : 雪原からずいぶんイメージが変わりましたね。先ほどは玄関先・遠景からご覧いただきました。さらに山に入っていきましょうか?
別の部屋へ移動
F : 床の間の絵には何が描かれていますか?
▶︎鳥
F : 先ほど春が近づいてきてるんじゃないかとおっしゃいましたが、どうですか?
▶︎緑の若さ
▶︎カケス/かけす?
F : 情報入れますね。鳥の種類は決めていないそうです
▶︎でもいそうな気がする
▶︎花じゃないけど花のようにも見える
▶︎鳴いてそう
F: どこから?
▶︎口が上向いているから
▶︎キュキュキュキュきゅ(いきなり鳴き真)
(一同笑)
▶︎鳴き初めの下手くそな鳴き方/練習中
F : これから本格的な春がやってくる感じでしょうか、さっき玄関で見た時は雪山だとか冬とかそういう寒いイメージがあるとおっしゃっていましたが、室内で近づいてみたらオーロラとか春の訪れとか季節が少し変わりました。また爲三郎さんにも寄って行かれました。ここではいかがでしょう。どんな印象ですか?
▶︎春を告げる。(窓から差す)日差しと相まっていい感じ。
ピンクの垂れ下がりが桜に当たった日差しのように降り注いでいるような。
▶︎白なら寂しい
▶︎春を呼んでいる、彼を呼んでいる。何かを呼んでいる 彼女?
▶︎私ここにいるよという存在を示している
F : (待合を手で示して)山が遠くにあって、近くに行ったら鳥の囀りが聞こえて、あ、春が近いかな。みたいな感じでしょうか。皆さんのお話からそのような流れになってますね。
▶︎爲三郎さんの旧宅とするなら、そこで鳴く爲三郎さんそのもの。
F : 今、皆さんと順に作品を鑑賞してきましたら、爲三郎さんが両手を広げてようこそどうぞお入りくださいと招いてくださってるような気がしてきました。いいことがありそうな感じがして、とても心地よい気持ちになりました。ありがとうございます。
近藤正勝さんの作品を、日本家屋の縦横のラインや意匠にかけて読み解いていけたらと考えていましたが、そのような話にはならず、絵そのもの持つ心地よさや違和感など作品からダイレクトに受ける印象からストーリーが出来ていきました。
皆さんの想像力と表現のおかげで季節の繊細な移り変わりを共有させていただきました。本当に見方は千差万別で鑑賞の楽しみは深まるばかりです。そして作品の持つ包容力にあらためて感じ入りました。また次回、近藤さんの作品を鑑賞する機会があればまた違う印象になることと思います。
【ファシリテーター・レポート】大野有紀子