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いるよ

 三十五歳、引き篭もり暦十年。
 親も諦めたのか、ここ三年程何も言わなくなり姿も見ていない。
 二階のトイレに行き、親が外出している時に下に下りる。四畳半の部屋にはもう何年も俺以外の人間は入っていない。
 俺自身も、もう立ち直ろうと言う気もなく毎日毎日ネット三昧。今日も雑談板を覗いて暇つぶししている。
 今日も俺が常駐している板を見ていたのだが、どうも興味を引かれるスレがない。どうするかと考えた時に、ふと他の板を覗いて見ようと言う気持ちになった。
 特にこれと言った目的は無い。どうせ見るなら今まで行った事の無い過疎っている板にしようと決めた。
 俺は趣味のカテゴリー内でも一番マイナーだろうと当たりを付けた板を開いた。
 いつもの雑談系の板とは違い、スレの数も少ない。中でも一番下に表示されている古そうなスレを開いた。
 立った日付が八年前でレスの数が四十二。最終のレスは一年以上前で、その前のレスはさらに一年前。
 スレが立った時にポツリポツリとレスがあった以降は年一回のレスしかなくなっていた。

「こんなスレが残っているのかよ」

 俺は失笑し、独り言を呟いた。
 せっかくこんな過疎スレを開いたんだから、これは記念書き込みするしかない。
 俺は面白半分にそう考えた。
 だが何を書き込むか。この板のテーマには全く知識も興味も無い。
 まあ、何でも書き込めばいいか。

『誰かいますか?』

 俺は一言書き込んだ。
 普通は新しい書き込みがあればスレは板の一番上に表示が上がる。俺はわざと目立たないように上がらない処置をして書き込んだ。
 俺は書き込みした事に満足して、またいつもの板を開く。
 一時間程経過した。俺はふと、書き込みしたスレが気になった。どんな内容でもスレに書き込めば反応が気になるのだ。
 まあ、何も返信はないと思いながらもスレを開く。
 リロードすると新着が一件。

「おお書き込みがある」

 少しの驚きと少しの感動で画面を下にスクロールする。

『いるよ』

 短い書き込みだった。
 そのスレに一切関係ない、俺への返信だけのレスだった。
 時間は俺の書き込みから三分後。こんな偶然もあるのかと驚いた。
 もしかしたら、板のマニアが同士を求めて常にスレを巡回しているのかもしれない。
 俺は試しに、同じ板の違うスレを開いて書き込みをした。

『誰かいますか?』

 開いたスレも先程のスレと良い勝負の過疎り方だった。
 三分待ちリロードする。

『いるよ』

 また同じ書き込み。IDも同じ、同一人物の書き込みだ。
 時間差は二分四十秒。少し早くなった。
 俺は試しにもう一つのスレに同じように書き込んだ。

『いるよ』

 また同じIDで同じ書き込み。
 暇な人も居るものだ。
 俺は自分の事を棚に上げそう思った。
 他にもこんな人が居るのだろうか。
 俺は他の過疎板でも試して見ることにした。
 違うカテゴリーのマイナーな板を探し、一番下のスレを開く。ここも一年以上書き込みが途絶えていた。

『誰かいますか?』

 書き込んで三分待ちリロード。

『いるよ』

 思わず「あ!」と声が出た。
 心の中にほんの少しだけ、もしかしたらと思っていた事が現実になった。
 また同じIDで、同じ書き込みだった。
 返信までの時間差は一分。
 また短くなっている。
 偶然では有り得ない。前の板とはカテゴリーも違うし、俺を追跡していないと書き込める時間ではない。

 俺はでたらめにチョイスして三つ程スレを開き『誰かいますか?』と書き込みした。
 書き込み順にリロードする。

『いるよ』

『いるよ』

『いるよ』

 俺は愕然とした。

 どうして?

 なぜ?

 最後の書き込みは俺の書き込みから十秒後。
 もう暑い季節でもないのに、背中に嫌な汗が流れる。

 もう止めよう。

 俺は気を取り直していつもの板のスレを開いた。

『いるよ』

 俺の書き込みを待たずに、同じIDの書き込みが先回りしている。

 気が付くと、全身がガタガタ震えていた。

 不意にどこからか視線を感じた。

 もう何年も俺以外が入った事の無い部屋。

 やめろ、駄目だ、言うな!

 俺は心の中で叫んだが、口がまるで別の生き物のように開く。

「誰かいますか?」

「いるよ」

 どこからともなく声が聞こえた。
                   了

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小説家になろうで活動しているアマチュア作家です。SF短編集小説をAmazon KDP電子書籍 で発売予定。長編はSFのみ、短編は色々なジャンルを書いています。 リアルは猫好きの愛妻家。貧乏暇なしの毎日です。 無言フォロー歓迎、相互フォロー希望です。
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