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カフェの音風景 ① 島子屋 2022年8月 瀬戸内国際芸術祭にて

最近とあるプロジェクトに参加して、昔から興味があったフィールドレコーディングを始めた。普段仕事で入っている山の音を録っていたんだけど、周りの音風景を観察しているとカフェの音風景が美しいことに気がついた。
 人々の声、音楽、スタッフの応対、コーヒーを入れる音などが、空間に反射しあって心地よいサラウンドを提供してくれる。そんなカフェの音をとるプロジェクトなんて面白いんじゃないか。
 カフェで大げさな機材を持ち込むわけにはいかないので、イヤホンタイプのバイノーラルマイクとレコーダーを持って録音することにした。

*ヘッドホンで聴くと臨場感を感じることができるのでおすすめです。


初めての録音は香川県の直島にある「島子屋」
2022年の瀬戸内芸術祭に遊びに行った最終日に、直島から広島にいる友達に会いに行く前にちょっと食べていこう、気になっていた島子屋が宿泊している場所からも港からも近いので行ってみようということになった。

 瀬戸内の島々の建物や路地は、江戸時代からあるようなものが多く、そして美しく残っている。会う人会う人、特に高齢の方々は本当に優しい。観光サービス的ではない優しさで、アートや観光客を受け入れている。資源や土地の少ない島で、途方もなく力強い自然を受け入れる。そのような暮らしは、おのずと物や土地を大事にして、おおらかに生きるようになるのだろう。
 瀬戸内の島々を見ていると、もともと日本はそのような島国だったのではないだろうか、と思えてくる。厳しい自然に抱かれながら、それと共にある。とても単純なことだけれど、資源が海を越えてやってくる、ゴミが見えないところで処理されるような私たちには、彼らのように在ることは難しいだろう。
 しかし私たちが今の在り方で、ある種の軽さを持って自然と新しい関係性を結んでいくことはできるのではないだろうか。生きるための厳しさのなかでは生まれない関係性に、僕は可能性を感じている。

 島子屋についた。確かに島だわ、と言いたくなるいい感じの雰囲気。
平家の瓦葺きの建物をリノベーションしていて、なんとも言えないゆるやかな雰囲気をまとっている。小上がりの板の間にローテーブルがあって、そこに座ってごはんを食べる。天井は抜いていて、広い空間。古いラジオのようなスピーカーからBGMが流れている。席は適度に離れていて、天井が高くて心地よいザワザワとした声もBGMになる。室内はクーラーが入っていて嬉しい。本がたくさん置いてあるのでいつまででもいたくなる。
 烏骨鶏がいて、烏骨鶏の卵ごはんを食べることができる。めっちゃ美味しい。僕は烏骨鶏の卵ごはんと、プリンとコーヒーをたのんでゆっくり味わった。

 あと1週間くらい瀬戸内にいたい。3泊4日では短すぎたのだ。こんな小さな島々に、アートと宗教と暮らしと自然がある。都会の刺激的なアートではなく、巨石のように対峙して自分をゆっくりと変容させるようなアートたちとの出会いが多かった。
 もしアートがこの島になかったら。平成の時代に飲み込まれて、全く違う形になっていただろう。小豆島には八十八ケ所巡る場所があるような霊場だ。だけど宗教的に力を持った場所でも、文化は解けていってしまって、衰退している地域は沢山ある。そう考えると、現代のアートはある意味で宗教より力を持っているのかもしれない、とふと思った。

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