【習作】白磁のアイアンメイデン 第1話 「踏んでさしあげますわ」その1

彼、魔術師ヘリヤがそれを目撃した際、彼が己の正気の確かさを疑ったのも無理はないだろう。なにせここは泣く子も歴戦の傭兵も黙るラシュ平原、通称“忌み野”であり、彼はそこを、かれこれ二週間ほどさまよっていたのだ。

まして彼が見たものが“執事とメイドに見守られながら、屈強なリザードマンの群れに跳び後ろ回し蹴りをぶちかます女”となれば。

しなやかな体のラインを強調する真紅の衣装に身を包んだ女は、舞うような足技でリザードマンたちを“蹴り”散らしていく。肩まで伸びた黒髪を揺らしながら、最後の一体を追い詰める。

天高く振り上げられた女のピンヒールが、リザードマンの顔面にたたきつけられる。それで終わりだ。

呆然と見ていたヘリヤの前で、女の体を包む衣装がするりとほどけ、真紅のドレスへと変った。
いつの間にか腰まで伸びた黒髪を揺らしながら、彼女は微笑む。
「さあ、お茶にいたしましょう」

【その2へつづく】



そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ