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”MURA-SAMA”

 鏡に映った男が、昏い目つきで俺の顔を覗き込んでいる。なんて目をしてやがるんだ。まあ、ヤバいのは目だけじゃない、髪も髭も伸び放題のひどいツラだ。きっと、つい昨日まで死んでやがったんだな。かわいそうに。

 鏡の中の男は剃刀を手にとり、まずは髪を、ついで髭を剃り始めた。不器用だが丁寧な、厳粛さすら感じられる手つきで、少しずつ、少しずつ。
 丁寧なのは当然だ。コイツは儀式。死人が再び生き返るための、生き返って目的を果たすための、神聖な儀式だ。 

 顔を洗い、再び鏡を見る。そこに映っていたのは、バズカットの凶相。おっと、ひどいツラなのはたいして変わらずだ。
 だが、死人のツラじゃない。

 部屋に戻った俺を出迎えてくれたのは、食いかけのTVディナーにピザの空箱、ビール缶と錠剤ケース。おまけに、砂嵐しか映らないクソTV。ゴミ溜めだ。いや、死体の山だな。昨日までの俺と同じく。

 たった一つ、昨日とは違う物がある。俺はテーブルの上に無造作に置かれていたそいつを手にとった。意外と重いな。だが、手に馴染む。

――私は契約に従って参上しただけです。これを望んだのは、他ならぬあなた自身ですよ。

 ヤツの言葉を反芻する。今朝、いつの間にか俺の部屋に侵入していた胡散臭いクソメガネ。

――信用していただけないので? 折角、願いを叶える魔法の品をお持ちいたしましたのに。

 願い。そうだ、俺には「願い」がある。いや、あった。
 この世でたった一人、この手でブチ殺してやりたいクソ野郎。だが、俺にはできなかった。だから俺は俺を、心を殺して目を背け、死人になった。

 右手でツカを、左手でサヤを握り、左右に引く。滑り出してきた刀身がTVの光を受けて、冷たく光る。

――ええ、あなたの願いは必ず叶います。なにせこれは、かの有名な”魔剣”……

「”ムラ、サマ”……」
 名を呼ばれたのが分かりでもしたのか、”ムラサマ”は刀身を微かに震わせた。

【続く】

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ