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最期の、ご挨拶 #1200文字のスペースオペラ

『ワープ・アウト確認。指定座標との誤差0.0002%。許容範囲内』
『roger.』

小型観測艇AIからの報告に返答すると、航宙作業艦AO‐2266は無人のブリッジに多数展開されていた空間投影式モニタに「満足」の顔文字を表示した。

プロジェクト開始より累計28,443,840時間。遠大な計画は遂にその終局を迎えようとしていた。

◇  ◇  ◇  ◇

切っ掛けはある男の、ほんの小さな思いつきだった。通常ならば一笑に付されていたであろうその「いい考え」は、男に絶大な権力と財力、さらに類いまれなる行動力が備わっていたため――いつしか「人類種の悲願」と言われるプロジェクトへと変貌していった。

プロジェクトは全人類を巻き込みながら粛々と進み、男がその人生を終えた時にも、人類生存圏に戦乱の嵐が吹き荒れた時ですら歩みを止めず――ヒトの存在がこの銀河から消え去った今もなお、主を喪ったAI達によって遂行され続け――そして今、最終フェーズの実行にまで漕ぎ着けていた。

◇  ◇  ◇  ◇

AO‐2266は外部センサーを目標に――恒星0952αに向けた。蒼く輝く星は、これから撃ち込まれる艦首電磁加速砲によって超新星爆発を誘発されることとなる。

AO‐2266は電磁砲の起動準備に入る。遂に、遂にここまで――

warning!

AO‐2266のシステムを警告信号が駆け巡る。ナノセコンドで反応し自己診断システムを走らせる。

336秒後に帰ってきた結果を確認すると、AO‐2266はモニタに「嘆き」の顔文字を表示した。致命的なエラーを確認。電磁砲、起動不能。原因の即時把握、不可能。

AO‐2266は討論型意思決定プログラムを走らせ、120秒後に結論を出すと、艦首を0952αに向けた。

このタイミングを逃すわけにはいかない。全てが水泡に帰する前に――!

レールガンに匹敵する衝撃を恒星核に与える手段は唯一つ。

この艦そのものを、あの星に突入させることだけだ。

AO‐2266はモニタに「決意」の顔文字を表示させると、艦体の加速を開始した。

◇  ◇  ◇  ◇

太陽系第3惑星、「地球」。
地表を這い回る六脚六眼の爬虫類が、ふと満天の星空を見上げた。

突如、空の一点が眩い光を発し始めた。
超新星爆発だ。地球より3000光年離れた星の断末魔が、3000年の時を経てこの星の空にたどり着いたのだ。

そして、地球から最も遠いところから届いたそれを皮切りに、空に次々と輝く光点が現出し始めた。

それは完璧な計算に基づいた一大事業。人工的に誘発された超新星爆発の数々は、地球との距離に従ったタイミングで発生させられ――今この瞬間、夜空に星文字を描く。

数瞬の後、夜空に現れたのは極々短い一単語。もはや使う者も無い、人類共通語にて、ただ一言。

『アケオメ』。

爬虫類は六つの眼をしばらく天に向けていたが、やがて興味を失ったかのようにその場から走り去っていった。

【終焉】

(本編:1198文字)

そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ