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狼兵は死なず、ただ牙を

 目の前に座る老人は、枯れ木の如き姿をしていた。吐く息すら枯れていた。

 かつて、我らが皇都軍に第29独立歩兵小隊、通称「狼小隊」なる部隊が存在していたことを知る者は少ない。無論、先の大防衛戦争より数えて百と数十年、最早歴史の教科書の一部としてしか戦争を知らぬ國民が大多数であるが故ではあるだろう。しかし、決して理由はそれだけではない。

 彼らは英雄であった。常時最前線に在り、多大な犠牲を払いながらもそれに数倍する戦果を上げ――しかしながら、大戦の終結後、煙のごとく歴史から消え去った。公式非公式問わず、ありとあらゆる資料より皇都軍第29独立歩兵小隊の名はことごとく塗りつぶされ、隊そのものも終戦後即座に、且つ秘密裡に解散させられているのである。

 一体、如何なる力学が働いたが故なのか。偶然から第29独立歩兵小隊の存在と、それが不自然に隠蔽されている事実に行き当たった私は、職業意識と何より純粋な好奇心から調査を開始した。だが、いかんせん百年以上前の事である。調査は難航を極めたが、いくつかの幸運と人の縁の助けにより、最終的に一人の老人の元にたどり着いたのである。

 老人の名はオガミ。「狼小隊」唯一の生き残りであった。

 雪山深くに隠れ潜むように住む老人をいざ目の当たりにした時、正直に言おう、私の心には疑念が渦巻いていた。何せ、真に大戦に従軍していたというのであれば、齢は軽く百を超えるはずなのだから。疑問を直接ぶつけると、オガミ老人は「人を喰った」笑みを浮かべてこう告げた。

――その答えをお見せしましょうか。

 その後の出来事を詳述することは、私の筆力では叶うまい。故にただ一文を持って語り、後は読者諸兄のイマジネイションに委ねたく思う。

 即ち、「狼」とはメタファアにあらず。

 白昼夢の如き事態が過ぎ去ると、オガミ老人は私に微笑みを向け、朴訥とした口調で全てを語り始めた。

 彼ら「狼部隊」の、全てを。

【続く】

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そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ

感謝の極みです・・・!
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男女問わず殴ったり蹴ったり斬ったり手からビーム的な何かを出したりとか大好きおじさんです。とりあえず逆噴射小説大賞に応募するために20年ぶりぐらいに小説書きました。書き続けられるといいなあ。ツイッター https://twitter.com/tairada
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