忘れられない試合
プロのスポーツをテレビや生で観戦して記憶に残るものが一つでもある人は少なくないんじゃないだろうか。
私は生涯忘れないだろう試合がある。忘れもしない2012年12月1日 J1 最終節アルビレックス新潟VSコンサドーレ札幌の試合だ。
当時の僕は中学三年生の受験前であった。幼少期は何度か試合を観戦していたそうだが、正直それ以来見る機会は減っていた。そんな受験生の私でも連日地元のニュースでは取り上げられていたためアルビのJ1残留危機は知っていた。残り1試合勝たなければ確実に降格。更にヴィッセル神戸、G大阪両チームが引き分け以下でなければならないという誰の目からみても厳しい状況であった。
当時の私は中学校の保健室によくたむろしていた。中学校の保健の先生は大のアルビサポーターでありよくアルビの話をしていた。詳細は覚えていないが仲のいい友達3人とその先生にチケットを手配してもらい受験勉強真っ只中の私達は最終節を観に行くことにしたのだった。
読者にはスタジアムでサッカーを観戦したことがない者もいるかと思うが、スタジアムにはホーム席とアウェイ席と全体を見渡す観覧席の大きく分けて三種類存在する。明確なルールはないがホーム席アウェイ席にはそれぞれ熱狂的なサポーターが陣取って常に声を出し続けている。そんなことをしってなお私たちはホーム席のチケットを取った。今考えるとこの試合の結果次第で長年応援していたチームが降格するかもしれないと必死のサポーター達の中ミーハーな私達がよくいけたなと思う。
その日は友達のお母さんに車でスタジアムまで送ってもらい、天気予報では初雪が降るということもあって段ボールとビニール袋を車から降りる際渡された。その時は経験が浅い私には渡された意味が分からなかったが席についた瞬間真冬の寒さでキンキンに冷えた席を体感した。その刹那ビニール袋を覆い被した段ボールが神器へと変貌したのだった。あれがなければ試合開始前に私の戦意は喪失していただろう。
段ボールとビニール袋に感謝している間に試合が始まった。試合前から熱気で溢れていたスタジアムの空気は何段階も倍増したのを覚えている。ミーハーな私達はチャントと呼ばれるいわゆる応援歌などほとんど知らない状況であった。当時中学生の私達は応援グッズを買うお金もなかったため前日に近くのスーパーのイートインスペースで段ボールにマジックペンで選手の名前と番号を手書きしお手製応援パネルを作っていった。そんな応援パネルを掲げて周りのサポーターの見様見真似で応援していた。
そんな中アルビレックス新潟は前半早々に一点を先取したのだった。あの時の空気が揺れる感じは何にも言い換え難い。多くの人がオレンジの服を見に纏ってる中ニット帽とダウンジャケットで防寒しか考えてない服装の私達のことも周りは仲間と認識してくれハイタッチをし共に祝福し合った。徐々にチャントも覚え始めた前半終了間際アルビレックス新潟は追加点をもぎ取ることに成功した。試合会場はお祭り状態だった。
だが忘れてはいけないのはこの試合に勝つだけではいけないということ。当時はスマホが普及し始めたばかりでガラケーを使う人も多かったがハーフタイム中はみんなが携帯をいじり他会場の試合結果を確認していた。ハーフタイム時点でG大阪は負けておりヴィッセル神戸は引き分けだったのだ。
サッカーでは前半2-0というスコアは危険とされている。プロでも少なからず驕り油断するからだと言われているが後半ピッチに出てきた選手たちにはそんな気配は一切なかった。スタジアムの空気がそうさせたのかもしれない。
後半は札幌に一点取られる場面があったが選手達はその後2点を追加しアルビレックス新潟は4-1というスコアで大勝を収めることができた。
他会場より一足先に試合が終わったためまた全員の携帯チェックタイムが始まった。G大阪は終盤に磐田に勝ち越し点を許し負けたこと、ヴィッセル神戸は後半早々に許したPKでの失点に追いつくことが出来ず負けたことがスタジアム内に知れ渡った瞬間試合中のどの瞬間よりも大きな声で包まれた。「アイシテルニイガタ」というチャントが幾度となく響き渡る。その日は結局試合中に初雪が降ったがそんな雪をかき消す熱気が間違いなくそこにはあった。喜びに満ち溢れ泣くサポーターにつられて私も涙腺が緩んだのを覚えている。
連日スポーツニュースを扱う番組では最終節の結果が取り上げられた。そこには段ボールを持った私達の姿が映し出されてる映像もあった。まさに記憶にも記録にも残った試合だ。
それ以来サッカーに魅了されたのはいうまでもないだろう。現在アルビレックス新潟はJ2リーグで戦っている。コロナウイルスの影響で約3か月中断しているが開幕試合では3-0で勝利を収めている。リーグが再開したらJ1リーグで奮闘する姿を見るために私もサポーターとして力になりたい。
アイシテルニイガタ
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