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就学前教育で「非認知能力」をつけることの重要性

 前回、就学前教育が「成功」の鍵であることが、ペリー幼稚園プログラムによって証明されたことを伝えた。
 そして、その成功には「学力」よりも「非認知能力」が大事だということもある程度わかってもらえたと思う。
 そこで今回は、人生の成功者に近づくために必要な「非認知能力」について、更に見ていこう。

大人になってから「学力」・「IQ」の挽回は難しい

 乳幼児期の教育が子供の「非認知能力」を高め、それが「人生の成功」において非常に重要である。
 「人生はいつでもやり直せる」という言葉をよく耳にするが、実際、人生は後から挽回するのが非常に難しいというのが現実だ。
 ノーベル経済学賞受賞者であるシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の『乳児教育の経済学』という本には、「学力」やIQなどは幼少期には確立され、大人になってから子供のIQや問題解決能力を高めるのが非常に難しいと述べられている。
 また、ヘックマン教授は「20代で集中的な教育をしても、幼児期ほどIQを高めることはできません」と発言している。
 もちろん、大人になってからの、いわゆる学び直しで人生を挽回した人は存在するし、そういった研究もある。けれど、多くの研究者はヘックマン教授に賛同する。理由は単純で、乳幼児教育で「学力」や「IQ」が確立することがわかっているから、その時期に集中的に良質な教育をする方が「コスパ」がいいからだ。

マシュマロを我慢できる子供

 この社会を「学力」だけで生きていくことは不可能に近い。むしろ、学力をつけるに至るまでの「やり抜く力」や「意欲」や「根性」といったプロセス上での「非認知能力」が重要になる局面の方が、人生においては圧倒的に多いだろう。
 意欲や長期的計画を実行できる力、他人と働くたに必要な感情の制御が、大学進学率や収入、健康状態、犯罪率に大きく関係するということだ。
 マシュマロ・テストという実験を知っているだろうか。
 初めに、4歳から5歳の幼児たちに「今すぐマシュマロを1個もらう」のがいいか、「15分待ってマシュマロを2個もらう」のがいいかを選ばせる。
 これは子供たちの自制心を見る実験なのだが、このマシュマロ・テストを受けた子供たちを追跡調査した結果、マシュマロを我慢できた子、つまり15分待つ方を選んだ子は、その後の人生で社会的成功(財産や地位・名誉などを手に入れること)を収める確率が高かった。マシュマロを我慢できる秒数が長いほど、大人になった時の自尊心が強く、ストレスにうまく対処できる人間に成長するそうだ。ついでに、肥満率まで低かった!
 もちろんこれは確率の話しで、マシュマロを待てなかった子供が成功できないわけではない。自制心が無く、ネガティブで、肥満体な成功者はたくさんいる。しかし、そういう少し目立つような成功体験保持者を参考にするのは、普通の人間にはおすすめしない。彼らは、特別な何かを持ち合わせているから、データが示す「成功者」の王道パターンから外れても成功を収めることができているはずだから。

遺伝子で全ては決められない

 「生まれ」か「育ち」かという議論がある。
 最近の研究では、遺伝子が全てを決めるという考え方は否定されるつつあるそうだ。
 理由は、どんなに素晴らしい遺伝子(例えばイチローの子供やスティーブ・ジョブズの子供であるなど)を持っていても、その遺伝子が効果を発揮するかどうかは、その人の生活習慣や環境次第だということがわかってきているからだ。
 環境が遺伝子にまで影響を与えるなら、結局は「生まれ」か「育ち」かという議論で0か100を明らかにするよりも、子供の育つ社会的環境を整えることが大切だと思う。たとえば、貧富の差に限らず、保育園から大学までの費用を国が負担するとか。出産すると育児に必要なお金や物資が支給されるとか……。実現できている国はあるのだから、決して不可能ではないはずだ。

「努力」の才能は家庭環境で身に付く

 ある教育社会学者が恐ろしい研究を発表した。
 家庭環境が子供の「努力する才能」を決めているのではないか、というものだ。
 裕福な家庭の子供が、よく習い事を掛け持ちしていたりする。大体は、親が子供に「させている」ことが多い。そういった経済的にも環境的にも恵まれている子供は、子供の頃から勉強や習い事の練習をする習慣が身についているから、「努力」を難なくできる傾向があるそうだ。そういう子供は学習意欲が高いから、結果的に学校の成績も良くなるのは必然と言えるだろう。
 一方、貧しい家庭の子供は、そもそも「努力」をする習慣がないという。学校で学ぶ意義を見つけられず、勉強に励むことに価値を1ミリも感じていない。確かに、学校の休み時間に読書や塾の課題などをしている生徒に、ちょいっかいを出して「真面目かよ!」とからかっていた生徒には、「今を楽しむ」をスローガンに青春している馬鹿が多い。
 事実、内閣府が実施した調査でも、貧しい家庭に生まれた子供の方が圧倒的に「テストで良い点が取れなくても悔しくない」という割合が高かった。貧しい家庭に生まれた子供は、「意欲」という「非認知能力」が身についていないことが窺える調査だ。

 ただ、いくら環境が大事だとしても、その環境をすぐに整備することは容易ではない。特に経済面。
 勉強する習慣や、部活をしている人なら自主練習をする習慣は、貧富の差に限らず、どの家庭、どの子供にでも平等に身につけるチャンスがあるはずだ。塾や習いごとに通わなくても、今の時代、ネットに効率の良い勉強方法や、わかりやすく解説してくれている動画配信者が溢れているし、そもそも子供のやる気次第といった側面もある。そのやる気をコントロールするのが親の役割でもあったりする。果たして、「やる気」や「しつけ」に一体どれほどのお金が必要だろうか?ほとんどいらないだろう。
 また、昔ほど、良質なコンテンツを手に入れるのにお金はあまりかからない。現代では、適切な情報に早く辿り着くといった「情報強者」になることが重要なのかもしれない。
 要するに、将来をできるだけ早く見据え、さまざまな誘惑に負けないように「自制」することで、「努力」する習慣が早く身につき、それが才能へと変化していくから、「非認知能力」を身につけるための良質な就学前教育はとても重要、ということだ。

次回は、「学力」だけでは生きていけない時代について見ていく。
 
 




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