「おめでとう」は悪魔の言葉。 【エッセイ】
「入学おめでとう」
「就職おめでとう」
「結婚おめでとう」
僕らの日常には、おめでとうが溢れている。
「内定おめでとう」
行きつけの美容院で、帰り際に言われた。僕は得意のつくり笑顔を披露して、「ありがとうございます」とお礼を言った。
帰り道、頭の中で「おめでとう」が繰り返されるたびに、僕はストレスを感じていた。
「おめでとう」と言うとき、僕らは相手が喜ぶだろうと信じて疑わない。本当にそうだろうか。
もちろん、祝福の気持ちを伝えるときはあるだろう。しかし、入学とか就職とか、一般的に誰しもが経験することに対して放たれる言葉は、決して祝福の気持ちからだけではない。
社会から要請された”正しいこと”を真面目に行ってきた人々が、僕らが来るのを待っているのだ。
自分の人生を肯定してほしい。自分と同じ道を歩む仲間を増やしたい。
彼らが発する祝福の言葉は、ほかでもない彼ら自身に向けられている。
「おめでとう。ようこそ、こちら側の世界へ」
僕の耳には、悪魔の声に聞こえてならない。