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夕方が僕らの時間だった頃、カセットウォークマンと出会った。

小学校高学年にさしかかると、欲しいものも色気付く。僕の時はレッツ&ゴーでミニ四駆が流行り、平成ガンダムの1周目が終わろうとしていた。塾通いの同級生がクラスの中でも増え、夕方のアニメの話をできる友達が少なくなっていた。

自分で欲しいと言った記憶はないのだけれど、それでも振り返ると誕生日プレゼントで過去一番嬉しかったものは4年生の時に父が買ってくれたカセットウォークマンだ。紫がかったブルーのメタルボディ、液晶表示なんて洒落た機能はついていない中間コントローラー付きのケーブル、当時の自分の耳には大きくて痛かった付属イヤフォン。

父がなぜ、自分の内にこもっていくようなガジェットを子供に与えようと思ったのかはわからないし、いま聞いても「覚えていない。そんなの買ったっけ?」とか言われそうだ。でも、こうしてウォークマンを手にしたことで僕は加速度的に音楽を聴くようになる。

と言っても、ロクに好きなミュージシャンもいなかったころ。好きのきっかけはいつもテレビからだった。僕らの時間、夕方5:00~7:59。小学校低学年まで9:00には寝ていた習性から、8:00はもう「大人の時間」。ミュージックステーションを流し見するようになったのは中学にあがってからだ。だから、テレビからと言っても大抵はアニメの主題歌やCMソング。キャラクターや番組タイトルが歌詞に入った、いわゆるアニソンがメインだった。

だからこそ、その番組は主題歌が異質で気になっていた。ドラゴンボールGT。それを正史と認めるか、今でも物議を醸している作品。(僕はストーリーももちろん好きなのだけど、それはまた別の話)

びっくりしたのを覚えている。1週間前まで影山ヒロノブさんがOP/ED共にシャウトしていたのに、番組名が変わったら主題歌までなんか変わっていて、めちゃめちゃ爽やかになってる!お洒落な曲調に独特のカメラワーク、書き込まれた作画とマッチする歌詞。DAN DANではなく、一気に心が魅かれていた。

特に好きだったのが初代と2代目のエンディング、DEENの「ひとりじゃない」と、ZARDの「Don't you see!」だ。どちらもオープニングの「DAN DAN心魅かれてく」と比べてキーがマイナーに寄っていて、それなのにアップテンポで明るい。DEENの池森さん、ZARDの坂井さんの透き通った声も素敵で、両親に「エンディング!エンディングだけでいいから見て!!」って言って、聞かせた。次の回から「お話はいつ終わりそうなの?」と母が聞いてきた。しめた、と思った。

僕が誕生日に父から、両親からカセットウォークマンを与えられるのはドラゴンボールGTが中盤の山場を迎える頃だ。街にはレンタルCD・ビデオ店が出来て、月に一回くらいのペースで母にねだってCDを借りに行った。とはいえ、今は大好きなDEENやZARDの初期の曲の入ったアルバムを親が借りてもカセットにコピーしなかった。いつもテレビで聴いてる曲をイヤフォンから聴くことが最優先だったからだ。

そんな僕をどう思っていたのか、その年か次の年のクリスマス。サンタクロースは僕を沼に叩き落とした。ZARDのアルバム「SUN & STONE」が、25日の朝に机の上にラッピングされて置かれていた。アルバムの11曲目には「Don't you see!」の文字。1週間後のお正月、お年玉をまず小洒落たデザインの60分カセットテープにして、僕はひたすら「SUN & STONE」を聴き続けた。春休みにスキーへ行く山形の祖父母宅への2時間半の新幹線も、何の苦痛でもなくなっていた。

そして、小学校最後の運動会。徒競走で初めてビリにならずに帰ってきた僕を出迎えたのはDEENのベストアルバム「SINGLES +1」だった。9曲目には「ひとりじゃない」。この時、僕は同級生より少し遅れてサンタクロースが誰なのかを知った。

もちろん、「SINGLES +1」も別カセットにコピー。2段ベットの中で毛布にくるまり、ウォークマンでどちらかのアルバムをかけながらマンガを見たり、ゲームボーイでポケモンをしたり。

そんなふうに毎日使っていたので、僕はウォークマンを2回壊すことになる。どんな故障だったかは覚えていないけれど、2回あったことだけは覚えているし、その時どんなにイライラしていたかも覚えている。

おもちゃやゲーム機、テレビにマンガ。うちはそれまでなんでも弟と共用だった。そのことに何か不満を覚えたことは当時なかったけれど、初めて何かを独り占めできたのは、カセットウォークマンがくれた大好きな曲との時間だった。

あれから20年。気持ちが乗らない時に立て直したい時、気持ちをガンガンにぶちアゲて行きたい時、カセットウォークマンからスマホとワイヤレスイヤフォンに変わっても、透明感のあるあの声を僕は耳の中に独り占めする。

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