研修医へのメモ~問診と鑑別診断について~

注意!これは研修医を指導する際に使用しているメモです。実際の研修は指導医と行ってください。

問診のみでもかなりの鑑別が絞り込めます。早期からその方法を身に着けると便利です。
漏れもダブりもなく物事を考えることをMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)と言いますが、これはフレームワーク(既存の考え方)を使うことが有用です。

まず症状に関してはOPQRST。

Onset発症機転(いつからか。突然発症/急性/亜急性/慢性など)
Palliative/Provoke寛解・増悪因子(どんな時に症状が変化するか)
Quality/Quantity性状・強さ(症状の表現。痛みなら、ちくちくする・しびれるなど)
Region/ Radiation/ Related symptoms部位・放散痛・随伴症状(咽頭痛と流涙を伴うなど)
Severity深刻さ(例えば救急車で来た、自家用車で運転してきたなど。受診のきっかけも)
Time course時系列

そして必ず知らなくてはいけないのは、患者さんの基本情報、AMPLE。

Allergyアレルギー
Medication内服薬
Past history/Pregnancy 既往歴/妊娠(生理)
Last meal 最後の食事
Event/Environment. 出来事/環境
(生活環境・周辺流行・職業・嗜好など・・鑑別次第でたくさん)


まずはこれらを図にしてみましょう。

あ

O:急性発症の
P:食事で増悪する・排便でやや改善する
Q:おなかの奥が鋭く痛い。
R:心窩部→右下腹部に移動。発熱を伴う。下痢を伴わない。
S:夜間に救急受診。親の運転で来た。
T: 自然経過で増悪寛解を繰り返していたが良くなった直後に増悪
の一例です。(わかりやすいように鑑別・加療に有用な情報のみ記載)

さて、これだけでも鑑別は絞れます。(この例はあからさま過ぎますが)
O:後述します。急性発症というのが感染症らしくあります。
P:例えば消化管由来の場合は食事によって増悪・排便排ガスによって改善します。これは、消化管の痛みが「消化管の内圧上昇によって生じる」からです。逆にこれに寄らない場合は消化管ではない可能性があります。
Q:最初はロキソニンでやり過ごす程度だったようです。
逆に発熱や疼痛がロキソニンでマスクされていた可能性が高いです。
痛みの性状も鑑別に有用です。チクチク→表面の痛み?しびれるような→神経性?圧迫されるような→虚血性心疾患?避けるような、説明がつかない→血管系?
といったように。
R:場所に関しては、その位置に存在する臓器をリストアップしましょう。
腹部なら皮膚・皮下組織・神経・腹膜・腸管・血管・腎臓・尿管といったように網羅的に。
腹部=臓器とは限りません。
痛みの部分を図示すると、神経や血管の走行に一致しているかも?
S:どのくらい深刻か。夜中にわざわざ救急受診するほどなのか。もしくは、近所に用事があったついでなのかでも鑑別は変わりますね。この人はよほど深刻であった様子。
また、受診のきっかけを直接聞くことも大事です。
同居人に指摘された?実は話していない、思い当たる節がある?
T:増悪寛解を繰り返していました。
消化管の場合は蠕動とともに疼痛を生じますので増悪寛解を繰り返します。
また、発熱も稽留熱でない限り、高い時間とそうでない時間があります。
マラリアは「何日に一度」という発熱をすることで有名ですね。

そして出た鑑別を大まかに原因別に分類します。
VINDICATE-Pを使うと漏れなく・ダブりなく分別できます。

Vascular(血管系)
Infection(感染症)
Neoplasm (良性・悪性新生物)
Degenerative(変性疾患)
Intoxication(薬物・毒物中毒)Iatrogenic(医原性)Idiopathic(特発性)
Congenital(先天性)
Autoimmune(自己免疫・膠原病)
Trauma(外傷)
Psychogenic(精神・心因性)/Pregnancy(妊娠)

これらはそれぞれ発症時期によって分類できます。
Vascular(血管系、というか管の物理的な障害):突然発症のことが多い
逆に突然発症=物理的な所以。管が裂ける、詰まるなど。
Infection(感染症):急性発症のことが多い。ただし結核など慢性の経過を辿るものもある。
Neoplasm (良性・悪性新生物):亜急性・慢性の経過が多い。
オンコロジーエマージェンシー(腫瘍に伴う緊急事態:出血、梗塞、感染などは別)
Degenerative(変性疾患):慢性の経過が多い
Intoxication(薬物・毒物中毒)Iatrogenic(医原性)Idiopathic(特発性):どれもあり得る。エピソード聴取が大切。
Congenital(先天性):だいたいは慢性ですが、気が付かれないだけである日突然発見されることも少なくない。成人してから発見されることも。
Autoimmune(自己免疫・膠原病):亜急性・慢性の経過を辿ることが多いですが、クリーゼなど急性発症もあり得る。急性であるほど緊急事態。
Trauma(外傷):突然発症が多いですが、亜急性の経過を辿ることもあります。(慢性硬膜下血腫や血胸などは時間をかけて形成される。とくに抗血栓薬には注意)
Psychogenic(精神・心因性)/Pregnancy(妊娠):除外診断。心因性は最後、妊娠は最初。

特に経験の少ない症例(変性疾患や自己免疫性疾患など)は疑わないと検査をすることすらできません。いずれも予後を大変左右するので、しっかり鑑別しましょう。
もっとも、検査に出すのは頻度の高いものからになりますが、同時に緊急度/重症度も判断基準です。ゴールデンタイムを逃さないように!

さて、それらのどれが該当するかという話になりますが、オッカムのカミソリ/ヒッカムの格言という言葉があります。
オッカムのカミソリ:あらゆる事象を一元的に説明できる(カミソリで一気に刈り取る)
ヒッカムの格言:あらゆる症状がそれぞれ別の所以による
リスク因子のない人は、一度にたくさんのことが生じることはまれですのでオッカムのカミソリで刈り取れることが多いです。
一方リスク因子がある(高齢、生活習慣が悪いなど)場合はヒッカムの言うようにたくさんのことが同時に併存しがちです。
厳密にはヒッカムもオッカムのように一元的に説明できるかもしれませんが、まずはどちららしいかを考えると良いでしょう。

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