見出し画像

データ分析 #47

昨今はデジタル化の進展に伴いビックデータやデータサイエンティストなどのキーワードが注目されていますが、今回はこの点を踏まえ、「データ分析」について考えてみたいと思います。

1.データ分析とは

「データ分析」とは何かを考えるにあたっては、まず、その目的を明らかにする必要があります。

「データ」とは、状態・条件などを表す数値・文字・記号のことです。

また、「分析」とは、所与の対象・表象・概念などを、それを構成する部分・要素・条件などに分解し、解明することです。

つまり、「データ分析」は、「データ」を構成要素に分解し、その「データ」の中身を解明した上で、何らかの示唆を得ていくことですが、その目的は何かと言うと、現状の問題を解決するために、その問題の本質をデータを用いて解明していくことと言えます。

つまり、「データ分析」とは、「データから問題を解明するプロセス」のことです。

したがって、どれだけデータを収集して数値計算しても、それが問題の解明につながらなければ、「データ分析」とは呼べないということになります。

画像2

例えば、ビール会社が先月の出荷量はなぜ減少したのかを解明する状況を考えてみます。具体的な「データ分析」の流れは以下のようになります。

画像2

繰り返しになりますが、「データ分析」は「データ」で「問題」を解決するために行うものであり、「データ分析」は「データから問題を解明するプロセス」です。

一方で、この定義は「分析手法」や対象とする「問題」には何ら言及していません。

したがって、「分析手法」や「問題」に関するこだわりを捨てれば、もっと自由に「データ分析」することができます。

画像10

「データ分析」というと、BIツールなどのリテラシーを高めることに意識が向きがちですが、より、大切なのは、

データから問題を解明するプロセスを構想する力

を身につけることです。

その理由は「データ分析」の価値が、

その分析により意思決定を改善することで得られる効用

にあるからです。

分析者の自己満足に終わらないように気をつけたいものです。

〈参考:分析手法と活用事例〉

画像4

2.データ分析の壁(1)

「データ分析」の価値を踏まえた場合、ビジネスにおける「データ分析」には乗り越えなければならない壁があります。

それは、「心理的な壁」と「費用対効果の壁」です。

これらは「データ分析」の壁というより、「問題解決における意思決定で乗り越える壁」と言った方がいいかもしれません。

分析者には、「分析能力」だけでなく、ビジネスを動かす「コミュニケーション力」も必要になります。

画像5

3.分析モデル

どんな「データ分析」でも「分析モデル」を用いる必要があります。

「分析モデル」とは、現実の世界を「データ分析」で扱えるように簡略化したもののことです。

「データ分析」を行う際には、現実の複雑な問題をもっと単純な問題に変換しなければなりません。この変換後のモデルを「分析モデル」と呼んでいます。

画像6

「データ分析」では、まず、現実世界における実問題をデータ的思考の世界における問題(すなわち「分析モデル」)に変換し、次に数学で分析モデルを解き、次にその解から現実の世界の実問題への示唆を得て、実問題の解明に繋げていきます。

「分析モデル」を意識しなければ、分析結果を正しく解釈できないし、また、改善する道筋も見えません。

先程のビール会社の出荷量の問題について、「ビール出荷量は何で決まるか?」ということを考えてみます。

この場合の「分析モデル」とは何かと言えば、例えば、「月間出荷量=a×月間平均気温+b」などと考えることです。日本語で言うと、「月間のビール出荷量は、月間平均気温と一次線形の関係にある」となります。

このモデルを選択したということは、以下の前提を置いています。

①ビール出荷量は気温だけで決まる(温度や休日などは影響しない)
②ビール出荷量と気温は、一次比例の関係にある(非線形の関係にはない)
③当月のビール出荷量を決める気温は、当月平均気温である(前月気温は影響しない)

裏を返せば、

①ビール出荷量に対する湿度や休日数の影響は無視している
②ビール出荷量と気温の非線形の関係は無視している
③当月のビール出荷量に対する前月気温の影響は無視している

ということです。

分析者は、「分析モデル」を常に意識して、「分析モデル」がどのような前提に立っているか、裏を返せば「分析モデル」では何を捨てているかを念頭において、分析結果を解釈し、また、「分析モデル」の改善を考える必要があります。

このように考えると「分析モデル」には限界があります。

「分析モデル」は、プラモデルのようなものです。プラモデルとは、実物の形状と色彩だけを再現した代物です。「分析モデル」も、現実の世界の特徴だけを数式で表現したものです。

「分析モデル」をどれだけ精緻にしてもその中身は現実とはまったく異なります。「分析モデル」は現実を数式で模試化したものであり、どれだけ変数や数式を増やしても実物とは異なるプラモデルのようなものです。どれだけ立派なモデルを作っても、所詮はプラモデルに過ぎないことを意識しなければ、誤用して誤った意思決定につながる可能性があります。

したがって、「所詮」と「されど」を意識する必要があります。

「分析モデル」は、所詮、現実を単純化かつ近似化したものに過ぎない、されど、現実のある特定の特徴について定量的な知見を与えてくれる

この「所詮」と「されど」の感覚を持って「分析モデル」と常に対峙することが重要になります。

4.データ分析でビジネスを変える

単なる「分析力」だけではビジネスは変えられません。

「データ分析」を行う際には、その前後の「ビジネス課題」と「ビジネスの意思決定」を意識しなければなりません。

どんなに分析の精度が高く、緻密でも、結果として問題解決に繋がらなければ意味がありません。

画像7

「データ分析」でビジネスを変えるためには、3つのプロセスを意識する必要があります。それは、「①ビジネス課題を見つける(問題の発見・明確化)」「②問題を解く(問題解決型の姿勢)」「③問題の解を実際のビジネスに使わせる(ディシジョンメイク、アクションプラン)」です。

画像8

分析問題に対して数値解を求めるだけの分析者は、「バックオフィス型」の分析者です。従来はこのような分析者が多くいました。しかし、これからの分析者、特にデータサイエンティストと呼ばれる人たちはビジネス課題とビジネスの意思決定を結びつける「フォーワード型」の分析者を目指す必要があります。なぜなら、それが「データ分析」の価値を決めることになるからです。

5.データ分析の壁(2)

先に「データ分析」が成功するまでに乗り越えなければならない壁として2つの壁を紹介しました。

「データ分析」が成功するためには、その2つの壁に加え、さらに2つの壁があります。

画像11

「データ分析」には、これらの壁を乗り越えたサクセスストーリーが事前にイメージできなければなりません。

具体的には、

どのようなデータを集めて、どのような分析を行って、分析結果からどのような知識が得られて、それをどのような意思決定にどのように活用すれば、従来の意思決定プロセスと比べてどのような改善が見られて、その結果、どれだけの効果が得られるか

をイメージします。

このようなサクセスストーリーをイメージした上で、「データ分析」の成功を阻害する4つの壁をどう乗り越えるを考える必要があります。

期待通りに分析結果が得られてビジネスに寄与できるかどうかは、実際に分析をしてみないと分からない(分析の壁)
しかし、仮に期待通りの分析結果が得られるとして、その場合ですらサクセスストーリーを描けないようでは、データ分析をやる前からそのデータ分析が無駄に終わることは明らか(データの壁、心理的な壁、費用対効果
の壁)

6.データ分析でビジネスを変える力

分析者は、「データ分析」を行うに当たり、以下の4つの問いに対し、自問自答することで、より「データ分析」を「ビジネスに変える力」に変えていくことができます。

画像10

この4つの問いをクリアするためには、以下の3つの「正しい心構え」を持つことが必要です。

①正しい動機を持つ ⇒意思決定を支援することが目的だということを常に意識する
②懐疑的になる ⇒知識と洞察力を駆使して、因果関係が真実か、錯覚かを見極める
③謙虚になる ⇒データ分析と現場の経験や勘はどちらが優れているということではなく、相補的な関係にある

7.まとめ

「データ分析」について考察してきましたが、以下はそのまとめです。

「データ分析」とは、分析対象とするビジネス課題を解決(そのための意思決定)することであり、現実問題をデータの数値解析から解明していくプロセスのこと
ITの発達は、分析力から数学的能力を解放した。高度な数値計算やITリテラリシーはあくまで手段に過ぎない。
重要なのは、問題を解明するストーリーを描く「構想力」、すなわち「問題解決力」である


参考文献・引用:
「会社を変える分析の力」 河本薫 著 (講談社現代新書)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?