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『ジェルナと魔兵器』


「おい大丈夫か」
「・・・・・・ゴホッゴホッ」

    街はずれの沼地に倒れていた女はひどく衰弱していた。目は虚ろで、唇は乾き、纏った服は煤と砂埃で汚れてボロボロだった。今自分が見捨てれば間違いなく息絶えるだろう。

    トミは女を肩に抱えて家に連れ帰った。訳ありの女だとわかっていても放っておけなかった。

「ほら飲め」
「・・・・・・」
「いいから飲むんだ」

    トミは半ば強引に女の口に白湯を運んで含ませた。柔らかな枕の感触に安堵したのか、女はそれからしばらく眠り続けた。


    翌日、早朝からトミは街の市場に出向き、そこで調達した食料で朝食をつくっていた。

「よお、目が覚めたのか」
「・・・・・・」
「ほら、いい匂いだろ。あったかいスープだ。栄養つけないとな」

    目を覚ました女はぽかんとした顔で部屋を見回した。肌に潤いが戻り顔色はよくなったが、その目に力はまだなかった。

「ここは・・・・・・」
「ははっ。初めて喋ったね」
「・・・・・・」
「体調が戻るまでここにいたらいい。汚い家だけど」
「・・・・・・」
「うなされてたよ。メティナって何だい? 寝言で何度も言ってたけど」

    女はスープを飲みほした後、ゆっくりと話し始めた。

「私逃れてきたんです」
「えっ、どこから」
「パラメンシアです」

    パラメンシア国。この穏やかなルクソーム国から1400キロ北にある巨大国家だ。悪い噂が絶えない。魔力を持った人間の新鮮な血と臓器を原料にして魔兵器を開発しているという恐ろしい話を聞いたことがある。

「これまた随分遠くから」
「私はジェルナといいます。パラメンシア地方東部のメティナという村に古くから住む魔人族の末裔です」
「魔人族?」
「はい。私たち魔人族は平和を愛する民。なのに国は・・・」
「何があったんだい」
「・・・・・・うっうっ」

    こらえていたものを抑えきれなくなったジェルナは、それ以上口を動かせなかった。


(続く)



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