見出し画像

『冷蔵庫バス』(ショートショートnote杯)



 どうしても思い出せなかった。ここがどこなのか、なぜ自分がここにいるのか。

 濃霧に包まれ視界が悪い。一人佇んでいると、微かな足音を響かせて男の影が近づいてきた。男は全裸だった。変質者かと警戒したが、心細かった僕は思いきって声をかけた。

「すみません。ここはどこですか?」
「ここかい?……ふふっ」

 男は鼻で笑ってそのまま歩いていった。目を凝らすと霧の中にうっすらと複数の人影が見える。全員シルエットが裸だった。

「あっ」

 なんと自分も全裸だった。慌てて股間を両手で隠す。


 霞んだ視界の奥から光が近づいてくる。バスのヘッドライトだ。バスは窓が一切ない特殊な外観だった。バスは停車し、開いたドアから全裸の人間がずらずらと降りてきた。みんな生気のない表情をしている。

 最後に降りた黒髪の美女に声をかけた。

「あの……」
「はい?」
「バスはどこから来たんですか?」
「100年前の東京よ」
「……」
「覚えてない? 私たちずっと冷凍されてたの」


(了)



#ショートショートnote杯 #短編小説 #ショートショート #掌編 #超短編




読んでもらえるだけで幸せ。スキしてくれたらもっと幸せ。