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「証券営業を3年経験したらどこに行っても通用する」は本当か?

結論:× だが、通用するまで努力する胆力が身に付く可能性が高い

ちょっと長いですが、私の最近の気づきと反省を。

私は新卒から約5年間、証券会社に所属しておりました。今は違う世界におりますが、勤めていた当時は会社に心酔し、仕事に没頭していました。

もちろん、派手なストライプの入った紺スーツにカラーシャツ、ハイブランドのネクタイを身にまとい、髪型もしっかりジェルで固めたツーブロックという典型的な「証券マン」を決め込んでいました(笑)

そんな私だからこそ書ける「証券会社を離れてわかったこと」を書いていければと思います。

証券会社に入社を希望している就活生や証券会社に入社した若手(特に、転職を考えている人)に読んで頂けたら幸いです。

「証券営業を3年経験したらどこに行っても通用する」

証券会社、特に営業によって構成される「支店」には、長い伝統による強い思想と文化があります。その強い思想と文化によって、多くの「強い営業マン」が生まれてきました。彼らの強さを讃えて、「スーパーサイヤ人」「ソルジャー」「戦闘部隊」などと表現されることも多々あります。

そうした経緯から、「証券会社を3年経験したらどこに行っても通用する」という格言も生まれたようです。

入社当日、私も実際に支店長から「ウチで3年やればどこに行っても通用する」と言われたのを強く覚えています。また、支店の中には「俺の営業はどんな業種でも通用するんだ」と豪語していた課長さんもいました。

当時は「へぇ~そんなもんか。うちの会社ってすごいなあ」「それを断言できる課長の自信ってすごいなあ」と思っていました。

冒頭に結論を書きましたが、最近は彼らの言っていたことはちょっと違うのではないかと思うようになりました。

そのように思うようになった背景として、3つあります。

①2ヶ店目で投資銀行部門(IBD)のフロントを経験したこと
②2年前にメーカーである家業に転職したこと
③今年からIT関連の会社を設立したこと

この3つの他業界(IBDとリテールは他業界と考えた方がいいくらい違う)での営業活動で壁にぶつかってきました。

私の経験から、証券マンが他業界に行った時に通じる部分・通じない部分を書いていきたいと思います。

証券営業について

まず、証券営業とは何をする仕事なのでしょうか?

証券会社の営業活動を単純化すると、

①口座を開設して貰い、
②お金を預かり、
③金融商品やその他サービスを提供し、
④対価として手数料(収益)を貰う

の4つに分解できます。

新入社員は①から始まり、役職や年次が上がるにつれて②→③→④の順番で重要性が高まっていきます。

私が新入社員の時には、①の口座開設を100件、②の資金導入を10億円というのが目標として掲げられていました。その目標を達成するために、住宅エリアであれば1日100~200件の飛び込みをしたり、ビジネスエリアであれば30~50件の飛び込みや200~500件のテレアポを行います。

証券営業の日々は断られる連続で、精神的にもキツい仕事です。私の同期も1~2年目で100人前後がやめていきました。

個人的には支店の方々や同期にも恵まれ、尊敬する上司とも出会いました。振り返っても楽しい日々を送りましたし、今でも当時の方々とは交流があります。

証券営業のメリット

業界を離れてわかった証券営業を行うメリットは以下の3つです。

①経済・金融・財務・会計の理解が高まる
②経営者に会える
③予算へのコミット力が高まる

どうでしょう?就活生でも志望動機に書きそうなことじゃないですか?実際に①と②は、私が就活生の時にも志望動機として話していました。

①は、誰でも想像つきますね。証券営業は、主に株や投信を販売する仕事です。金融市場は政治・経済など様々な要素が複合的に絡み合い、相場を形成しています。株を売るとは、自身の相場感を売るに等しいのです。従って、あらゆるニュースや公開情報を基に自分の未来予測を立てる必要があります。

顧客開拓においても財務・会計の知識が必要です。帝国データバンクや商工リサーチなどの財務情報を基に、社長の琴線に触れる話を事前に想像したり、手紙の文章に盛り込んだりします。私の経験上、企業理解が深まれば深まるほど、開拓率も上がっていきます。

また、開拓後もお客様の決算書をいただく場合があります。より良い提案をするために、いただいた決算書を分析していると、自ずと財務・会計のスキルも上がります。

②も大きなメリットです。

会社の大小にかかわらず、経営者からしか学べないことは多いです。特にゼロイチを経験した創業者は人間的にもぶっ飛んでる人が多く、私自身も経営者のお客様との仕事を通じて大きく成長させていただいたという実感があります。

③は、他業界の営業マンや営業スタイルと比べて、初めてわかったことです。証券会社で働く中で最も身につくことだと思います。

証券会社には「やらなければいけない仕事」があります。それは、「公募」と呼ばれる種類の商品です。基本的に株か債券のいずれかですが、期限内に決められた金額を売り切らないといけない商品です。支店内で割り振りを決めて、ノルマとして売り切りを命じられます。

公募の辛いところは、自分が「あまり儲からないだろう」「損するだろう」と思っていてもお客様に売り切らないといけない。もちろん、予想が外れ、儲からないと思っていた商品が儲かることもありますが、私の肌感で8割くらいは想像通りの結果になります。それが辛くてやめていく社員も多かったと思います。私もすごく心が痛かった。

また、2年目以降になると予算がつきます。毎月〇〇万円の手数料(収益)を稼ぎなさい、というものです。社内ではコミッションと呼ばれています。

一般的に、これが証券会社で言われるノルマに当たります。

私の時代は2年目の半年は100万、その後300万、500万、700万と上がっていったと記憶しています。当時は、新卒から3年間で月1,000万稼げるようになったら1人前とよく言われており、皆がそれを目指していました。

こうした業務の中で、営業としての予算へのコミットメントが自然と高まります。このコミットメントの高さが重宝され、証券営業の出身者を優先的に採用する会社もあるそうです。私の家業にも証券営業の出身者がいますが、予算コミットメントは他の社員とは段違いです。

証券営業のデメリット

反対に、証券営業を行うデメリットは以下の3つだと考えています。

①利益意識がつかない
②ITリテラシー、PCスキルが身につかない
③一般常識・倫理観とズレる

①については、単純です。一部の債券などを除き、証券営業には単価交渉がありません。つまり、利益を意識する瞬間がないということです。

モノを販売する営業であれば、単価と数量は営業にとって非常に重要な交渉要素です。「Aの商品を500個なら単価200円でうるけど、1,000個買ってくれたら単価180円で売りますよ」「Aを150円にする代わりに、他社の商品をうちのBに入れ替えてください」など交渉自体のリードタイムも長くなり、利益率も変動します。製造業であれば、工場の稼働状況や労務費なども鑑みて交渉を行います。

しかし、証券営業は予算として「コミッションの多寡」のみで図られているため、利益率を考える必要性がありません。

他業界に移る場合には、最終的な利益額・利益率や受注後の稼働も含めて考える営業手法を身につけないといけません。

②は、証券リテール以外の方は驚かれると思います。

少なくとも私が支店にいた3年半で、お客様に対してメールを送ったことは一度もありません。全て電話での対応になります。メールを送らないのは、人のお金を扱うという業態のため、リスク回避のためにメールを禁じていたようです。銀行リテールも同様だそうです。また、提案資料も全て本社が作成しており、Officeツールをつかったこともありませんでした。

IBDに異動になって、初めて学んだのが「顧客へのメールの送り方」でした。IBDは仕事柄、Officeツールを使えないと仕事になりません。そのため、関数の使い方やショートカットなどゼロから学ぶ必要があります。私も人並みに使えるようになるまで大変苦労しました。

金融リテールという特殊な業界をのぞいて、ほとんどの業界でメールやOfficeツールを駆使して、仕事を行います。現在リテールで営業されている方は、早期に一定程度のスキルを身に付けることをお勧めします。

③は、私が証券から離れるまで気づかなかったことです。

例えば金銭感覚。証券営業は、一般企業と比べるとかなり高級取りです。

日経より)

働いている当時はわかりませんでしたが、これだけの給与を出すことがどれほど凄いことなのか、経営に携わるようになってからわかりました。

私が勤めていた証券会社では、総合職の独身男性は30歳まで寮に入ることが義務付けられていました。寮の駐車場に行くと、ピカピカの高級車が何台も並んでいます。私の所属していた寮でも多くの同僚が入社2年目頃から車をローンで購入します。明らかに身の丈に合わない高級車を買って自分を追い込むのです。次のボーナスは全て車のローン返済に充てる、と言っていた同期もいました。

また、日々の交通費も半端ではありません。多くの社員がタクシーで出社しているため、毎朝6時半ごろから寮にはタクシーの行列ができていました。当時はそれが常識で驚きもしませんでしたが、今振り返ると恐ろしい光景です。終電があったとしても、飲んだ帰りは「面倒くさい」とタクシーで帰ります。

飲み会は先輩が後輩の分を奢るというのが暗黙の了解です。私の直属の先輩は飲み好きの人で、私たち後輩に奢るためにカードローンをしていました。私は借金までは至りませんでしたが、今考えると恐ろしい金額を後輩に御馳走しました。

証券会社に勤めていると大金を扱います。先も述べた通り、新人でも1年で年間10億円の入金が目標です。最初は、口座を開いてもらう、10万円預けてもらうだけでも有り難かったのが、1,000万を預かっても喜びさえなくなります。3,000万、5,000万、1億、3億...と次第に金額の目線も上がっていきます。そんな大金を20代そこそこの若者に預けて下さるお客様は、超がつく富裕層です。彼らの資産を扱っていると、次第に「自分もお金持ちになった」ような気分になってくるのです。

スタートアップでも同じような事例があります。私が実際にお会いした起業家も資金調達したお金をブランド品の購入や水商売に使っていました。

当然ですが、このようなお金の使い方は、世間の常識とはかけ離れています。私自身、父親から「お前の金銭感覚おかしいぞ」と注意されたこともありますが、当時はそれが当たり前。まったく気づきませんでした。現在は、妻に助言をもらいながら、自分の身の丈に合った支出をするようにしています。

以上、3つのデメリットを挙げましたが、どれも致命傷になるものではありません。業界での慣れ(経験)とスキル習得(練習)をすれば全く問題になりません。

営業は「胆力」が根本

偉そうなことは書けませんが、私は営業には「胆力」が必要だと考えています。

営業は売ってナンボ。結果が全て。その結果をどのように出していくかは、営業次第です。諦めてしまう人、やり方に迷う人、努力をやめてしまう人、頭がよくて泥臭いことができない人...いろんな人を見てきました。

トップセールスを見ていると、手法はさておき、マインドとして泥臭く、ひたむきな姿勢を常に持っています。このマインドに比べたら、スキルや知識、経験なんて二の次で良いと思います。

証券営業はその「泥臭い、ひたむきなマインド」を身に付けるには良い土壌です。

私も証券営業で身に付けたこの姿勢を維持しながらチームにいい影響をもたらし、結果を出していきたいと考えています。

証券営業の転職先

証券営業の方々はどのような会社に転職するのでしょうか?私の知る限りで書きたいと思います。

数百人いた私の同期たちも入社から5年間で4割くらいが会社をやめました。どのような転職先が多いのでしょうか?

・IFA:営業に自信のある人が行きがち
・M&Aブティック:同上
・保険会社:外資系P社が多い
・他の証券会社:グローバルマーケッツやIBDへの転職が多い
・スタートアップ:最近増加している
・VC/PEファンド/コンサル:皆の憧れだが、いけるのは少数
・起業
・家業

私の知る限りは、上記のような感じです。やはり同業への転職が多いようです。

しかし、個人的には今後の金融業界でこれまでのような良い環境は続かないと考えています。AI、Fintech、ブロックチェーンなどのテクノロジーの台頭やネット証券の普及によって私が在籍していた5年間でも明らかに対面証券の位置付けは下がっていくのを身をもって感じました。これから採用減・人件費のカット・リストラがますます進んでいくでしょう。

特に若手の方々には証券営業で培ったマインドを生かして、ITベンチャーやスタートアップをはじめとする成長産業に進んでいただく方が有益だと考えています。

証券営業から他業界に行くなら早いうちに

また、転職をするのであれば絶対に若いうちの方が良いです。個人的には5年目までだと考えています。

考えてみて下さい。成長するスタートアップが、「メールもOfficeソフトもほとんど使ったことのない、巻紙営業しかしてこなかった30歳越えの社員」を前向きに採用するでしょうか?教育コストが明らかに高いのです。

結婚し、子供ができた時に「給与が下がってでも将来成長する会社に転職する」という意思決定をできるでしょうか?私も辞めたくても辞められなくなった同期たちの悩みを沢山聞いてきました。

従って、成長産業に行くのであれば早いうちに準備し、実行するのをおすすめします。

最後に

最後までご覧いただき、ありがとうございました!今回は自分の経験を思い出しながら、一気に5,500文字を書き上げることができました。

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