戦略の考え方についてのまとめ(追記あり)

(2020年9月30日:もう一つ書くべきものがあるのを忘れてたので追記)

会社を6年もやってて恥ずかしいことだけど、僕は戦略という言葉の意味がずっとよく分からなかった。困ったことに、戦略という言葉はとにかく乱用されていて(みんな何にでも戦略をつける)、読めば読むほどに混乱していた。

最近いくつかちゃんとした本を読んで(最後に掲載している)ようやくその意味をある程度理解できたので、noteにまとめている。

戦略とは何か

戦略とは、「邪魔する人たちがいるなかで何らかの目的を達成するための基本方針と、それに基づく一連のアクション」のことだ。営利企業であれば、競争相手に対して永続的な優位を確立して超過利益を出し続ける方針と、そのための各種施策が戦略となるのだろう。アメリカの人権弁護士であれば、保守的な裁判官がいるなかでも人権侵害を無くしていくために、どういう訴訟をどの順序でどういう論拠で戦っていくのかが戦略になる(ところで、先日RBGの映画を見たけど、とても戦略的で感動した)。

邪魔する人がいないのであれば、必要なのは計画である。例えば、ダビデがゴリアテを倒すのに必要だったのは戦略で、エベレストを登るのは計画だ。一方で、世界で初めてエベレストを登ろうとするのは戦略になる。

僕は戦略思考が苦手だ。理由は、僕のこれまでの行動様式が戦略的でなかったからだ。僕は他人を気にせずに難しい目標を立て、その実現のための計画を作ってそれを粛々とこなしてきた。

しかし、それが常に最善なわけではない。自分が不得意な領域、すなわちいくら努力しても普通の人並みにしか出来ない領域で戦略的思考をしなかったことは、大きな失敗だったと思う。例えば高校サッカー部時代、レギュラーになりたいのであれば、同じポジションの選手を見て、どうすれば自分が選ばれるかを考えるべきだった。しかし、僕はひたすらに自分が考えるベストなゴールキーパー像を目指し、ベストと考える自主トレを続けていた。結果として、レギュラーにはなれなかった。

この例からも分かるように、「弱者」ほど戦略を深く考えないといけない。粛々と努力しても敵わないような状況では、その努力を適切な方向に振り向けないといけない。

ゲームのルールを理解する

スポーツでなくても、ほとんどすべての事業にはその業界特有のゲームのルールがある。例えば、以前に書いたように、リテール金融であれば「ホワイトスペースが無くなったタイミングで規模の大きいプレイヤーが勝つ」というのがゲームのルールの一つだ。また「最終的にユニットエコノミクスが成立すること」というのも当然ながらルールだろう。ネットワーク効果が強烈に効く事業であれば、最終的にはユニークユーザー数の勝負になる、ということもあったりする。

自明なもの、意外と知られていないことも含め、ルールをきちんと理解する必要がある。ゲームのルールは最終的には物理法則のように働く。ジャンプすれば数秒は宙に浮いておくことができるが、人間はずっと宙に浮いていられない。同様に、これらのゲームのルールを無視した事業は、長期的には継続することができない。

戦略を立てる上でのアプローチ

ルールを理解した上で戦略を考えるわけだけど、大きく二つのアプローチがある。

一つは相手が気づいていない大きな波に乗ること。皆が乗ろうとしている潮流に突っ込むのは戦略ではない。スマホ決済は、当時の中国では多くの人が気づいていない波だった。ジョブスがiPhoneを出したとき、多くの人はスマホが次の携帯だとは思っていなかった(ブラックベリーはあったけど、一部のビジネスパーソン用の特殊端末だった)。

相手が気づいていない/乗ろうとしていないトレンド(=機会)を見出さないといけない。機会は短期間しか存在しない。見つけたら全力ダッシュしてそれを活かさないと、大勢の競争相手がやってきて踏み潰される。

もう一つは、自分の優位を活かすこと。ここでいう優位とは自分の特徴を競争の文脈で捉え直すことだ。絶対的な優位を想像させる「強み」という言葉より、優位という言葉のほうがしっくりくる。

ユニークな特徴は、往々にして強力な優位の源泉になる。例えば、一度聞いたら忘れられないような声(=特徴)は、歌手をする上では極めて強力な優位だ。

個人であれば性格や固有のものに根付いたもの、組織であれば当該組織の文化(=そこにいる人の性格と、ハード・ソフト両面の組織機構が折り重なってつくられる)に根付いたものは強い優位になりやすい。国レベルになれば、国民性に根付いた優位は強い。

経営戦略の理論とかを読んでいると、前者がポジショニング・アプローチで、後者がリソース・ベースド・ビューである。どちらのアプローチがより有力なのかは競争の性質によって異なるけど、0か1かの話ではないと思う。この二つにある程度のウェイトづけをしつつ、どちらも満たす戦略を考えるのが良いのだと思う。

戦略コンセプト(戦略仮説)の作りかた

ここまでを踏まえると、戦略とは「ゲームのルールを理解した上で、他人が見出していない機会を掴むか、自らの優位を活用して、競争相手を出し抜き、目的を達成すること」となる。

問題は、どうやってそれを実現するかだ。大抵の機会は多くのプレイヤーが必死に探しているし、固有の優位というのは簡単には見つからない。チェックボックス式なやり方は戦略コンセプト(=戦略仮説)を検証するのには役立つけれども、肝心の仮説はチェックボックスからは導出されない(というより、そういうことをやっていると仮説設定が遠のく)。

科学的発見であれ、発明であれ、戦略であれ、すべての仮説設定は同じようなプロセスで生成される。制約条件を決める。見えている課題をまとめる。まずある程度デスクトップで調べる。生データにあたる。人に話を聞く。現場を見る。気づきをまとめる。それら気づきなどを組み合わせつつ、いい仮説を考える。

ゴミみたいな仮説ばかりが思い浮かぶ。

良さげな仮説が出てくるけど、検証するとやっぱりゴミで棄却する。

もがく。

もがく。

他のことをする。

運がいいとコンセプトが降ってくる。

あくまで経験論だけど、比較的リラックスできる状態にありつつ、締切が明確にある状態だと降ってきやすい。

そして、そのコンセプトに基づいて基本的な方針とそれに対応する一連のアクションを定義して、その後は計画を作ることになる。


参考文献

戦略の意味を理解するのに役立った本

ポジショニング・アプローチとリソース・ベースド・ビューについてはこれが網羅的に書かれていて良かった。いずれにせよ、入山先生のこの本はビジネスパーソン必携だと思う。

アイデアの作り方といえばこの本だけど、哲学的な裏付けでいうとこれはアブダクションという思考方法である。そちらのほうが根っこは深いので、そのあたりに関心がある人向けの本も紹介してみる。





ここから先は

0字
頂いたお金は寄付に使います。毎年、noteの収益よりずっと大きな金額を寄付しています。2023は7,135,805円でした。

週末随想

¥800 / 月

毎週日曜日(その時の滞在国時間)に書きます。毎週の行動記録、雑感、振り返りが主な内容になります。守秘義務に反するものは当然書けません(匂わ…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?