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ヒトが生命のコードを書ける時代

EconomistのSynthetic Biologyに関する特集の雑感。

神様が書いた生命のコードを眺めながらちょこちょこ改変し、その結果を試していた時代はもう終わり、人間が一から生命のコードを書けるようになる。土台になっているのは計算機械の処理能力とアルゴリズムの進歩だ。ディープラーニングはここでも活躍している。

バイオテクノロジーの関連産業はとても広い。医療や美容は当然として、素材(昆虫素材とか)、食料(人工肉とか)、燃料(バイオ燃料とか)など様々な領域にまたがる。GAFAが代替した産業は結局のところ広告と小売くらいのもので、バイオテクノロジーが産業にもたらす変化に比べたら可愛いものなのかもしれない。

ただ、僕は生命科学・工学の発展がもたらす結果にかなり心配している。AI脅威論は比にならないくらい。倫理的な問題を無視したとしても(まあ僕は罰が当たると思っているけどね)、リスクが大きく思えてしょうがない。個体の生命のコードを完全に解析し操作することができたとしても、その生命同士の相互作用ははるかに複雑で、それの解析はずっと難しいのだろう。そんな状態で、何かを始めることはあまりにも危なくないか。

現実的にすでに始まっている蚊を絶滅させるGene Driveでいうと、今は大きな実験室エリアでその環境への影響を調査しているらしいけど、実験室レベルで分からないことだって多いはずで、それが理由でとんでもないことにならないだろうか。実はマラリアを媒介する蚊がエコシステムにおいて無くてはならない存在だった、とか。

テクノロジーについていつも同様の懸念が提示されるのは理解している。核兵器が作られたとき、多くの人々が人類滅亡シナリオを憂慮した。今のところ、核によって人類は滅びていない(チェルノブイリや福島があっても)。だけど、それで危険を制御できている訳でないのは明らかだし、バイオテクノロジーについても全く同じことが言えるのだろう。滅亡してからリスク制御の不備を嘆くのは遅すぎる。


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