圧倒的に低い日本の死亡率とワクチン接種率

基本的に、僕は環境に文句は言わないほうだ。嫌なことがあれば、それを変えるために自分にできることを粛々と取り組むからだ。だけど、感染症対応については自分にできることがほとんどないので、文句の一つでも言ってみたくなる。

人口5000万人以上の国における、直近の感染者数・死者数・ワクチン接種数を調べてみた。ソースはWorldometer日本経済新聞。途上国・新興国のデータについては過小評価されている可能性もあるけれども、それでも含めている。なお、平均は加重平均なので、どうしても人口の多い国(インド・中国など)に引き寄せられる。

画像5

画像5

直近の100万人あたりの累計死者数は加重平均で390人、感染者数は18,050人。新興国で過小評価されている可能性を考えると(かつインドと中国は人口が大きいので平均値に与えるインパクトも大きい)、実際はもっと高いのだろう。それに対して、日本のそれは79人、4,456人とかなり健闘している。

個人的な意見だけど、死者数は主に、政府の能力、国民の努力、医療の強さの関数であるのに対して、ワクチン接種率は政府の能力のみの関数である。民間に介在する余地はほとんどない。日本のワクチン接種率は圧倒的に低い。先進国中では最下位だ。

画像5

「日本人はワクチンを受けたがらないから」という言説は事実に基づいていない。Economistのチャートを見ると分かるように、国際比較すると、日本人のワクチン接種を受けたいと思う人の率は中程度だ。

画像3

(追記)「日本の死者比率は低いのだから、ワクチンを自分たちが優先的に用いるのは自己中心的であり、いまの状況はむしろ望ましいのでは」という内容の意見があった。確かにワクチンの量には限りがあるので、自国を犠牲にしてでも、まずは死亡率が高い国に集中させべきという意見は人道的には正しい気はする。

ただ、ここで議論しているのは政府のパフォーマンスの話なので、政府がそのような自己犠牲精神で故意にワクチン接種を遅らせていない限りにおいては、論点がズレている気がする。

なお、もし日本がそういう立場を取るのであれば、それを国民に説明するべきだろう。個人的には、そういう自己犠牲は尊いと思うけれども、大多数の人々の支持を得られる気はしない。(追記終了)

そして、データを見る限り、ワクチン接種率が60%を超えたあたりで、1日あたり感染者は劇的に下がっていく。下のチャートでも、アメリカとイギリスの直近感染者数の下がり方は顕著だ。言い換えると、60%に届かない限り、感染拡大に歯止めがかかりにくい可能性がある。

画像5


いまの状態は、「失敗の本質」で描かれた構造から全く変わっていない。日本軍は現場が優秀だったので、その現場の優秀さをレバレッジした作戦を立てることが多かった。一方で、上層部が基本的に無能であり、科学や事実ではなく、空気や忖度で物事を決めた結果、いくつかの戦略的な打ち手で大失敗して大勢の兵卒が犠牲になった。

そして、この構造は日本企業・組織に脈々と受け継がれている。本件に関していえば、国民の頑張りのお陰で被害は最小限に済んでいるものの、政府の弱さのために苦しみや不便が続いている。負けると知りながらアメリカとの戦争を続け国民に塗炭の苦しみを経験させたことと、「決めたことだから」とオリンピック開催に向けて犠牲を辞さずに準備を続けているこの状況が極めて類似している気がする。

感染対策もこの1年で大した進歩が見られない。未曾有の事態だから初期の対応が失敗するのはしょうがないとしても、1年も経てばファクトが集まるのだから、もうちょっとまともな対策が打てないのだろうか。例えば、百貨店が閉まっている隣で、高級ブランドのブティックショップは開いている。飲食店の時短の効果検証も聞かれない。知事自らが飲食店を回り、その目的は現場感覚を知ることではなく(それならお忍びで行くのがいい)パフォーマンスだ。

冒頭でも書いたように、僕は基本的に文句はあまり言わず、どんな状況でも自分にできることを粛々と実行することを旨としているのだけど、今回ばかりは政府に頼らざるをえない。

頼むからちゃんとしてほしい。そして、なんだかんだ優秀な人材は官民ともに一定数いるので、そういった人々を登用し、仕事を任せるようにしてほしい。政府の失敗による経済・社会・人命へのダメージは計りしれず、そのしわ寄せは往々にして最も立場が弱い人にいく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?