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ミャンマーと変わりゆく世界地図

クーデターによるミャンマー軍事政権への再帰はあっという間に起きた。プラハの春よりは長かったけれども。

現地従業員862人全員の無事も確認でき、顧客生活にも大きな変化はないとのこと。市場開放は軍事政権時代に始まったものであることを考えると、鎖国は考えにくい。NLDが政権を取る以前の、ビッグブラザー付きの市場システムに戻るということなのだと思う。

ちょっと、このタイミングで、これからの世界について考えていることを書いておこうと思う。ある意味で、以前に書いたnoteの続編になる。

 

俯瞰してみると、ミャンマーの出来事は21世紀に世界中で起きる地政学的な変動の一つなのだと思う。中国が世界の超大国に返り咲こうとするなかで、民主主義や自由権の尊重といったものが普遍的な価値であるとみなされた時代が終わり、各国の政治制度や機構はこれから再び多様化していく。その揺り戻しの騒乱の中に僕たちは生きている。



20世紀後半においては、民主主義や自由権の尊重は西側諸国から支援を取り付けるための必要条件だった。国内経済が不安定になると自分の首が危うくなるので、多くの独裁者たちも、ある程度の妥協をしてきた。だけど、中国の台頭により、自国では独裁政治をしながらも、外国からの支援を安定的に取り付けることは可能となった。

例えばカンボジアでは、2017年に最大野党である救国党が国家反逆罪により解党させられた。結果的に起きたことはEUからの関税優遇措置撤廃と、中国からの投資増加と関係強化だった。似たようなことは多くの途上国でドミノ倒しのように起きている。

 

そもそも民主主義という政治形態は、歴史上のある一部の期間に、ある一部の地域でだけ機能してきたものだ。ダロン・アセモグルは、民主主義は民衆の力と政府の力が微妙に均衡するところでのみ成り立つ制度であると喝破した。エマニュエル・トッドも、民主主義は有権者が同じ程度の知識水準と地元に対する理解をもっていてこそ可能であると説いている。

両者の主張に共通することは、民主主義はすべての国が経済発展の後に至る最終最善の解などではなく、ある時期に生まれる均衡状態であるということだろう。技術進歩により格差が拡大しつつ、民意操作が容易になっている現代においては、民主主義が成立してきた国においてすらも、民主主義が危うくなっている。

言い換えると、各国の政治制度は時間を経ても一つの形態に収束しない。「すべての国は将来的には民主主義や自由権尊重に向かう」というのは、第二次世界大戦後に、パックス・アメリカーナの世界において流布した幻想だったんだと思う。これからも、これからも、「歴史の終わり」がやってくることはない。

例えば、会社組織においても、ガバナンスを強く利かせる会社もあれば、ガバナンスを軽視する企業もある。確かにガバナンスを利かせることで業績を伸ばしている企業も多いけど、オーナー企業などでは過度にガバナンスを利かせることでその会社の良さを殺してしまう場合もある。重要なことは、組織の構成員や事業環境にあった仕組みをつくり、パフォーマンスを最大化させることだ。国家であれば、その国の文化や慣習などを踏まえながら、人々が幸せに暮らしていける世の中をつくるためにベストな政治制度を選択するべきだ。組織論に一般解はなく、あるのは固有解のみだ。

 

改めて自分の立場を表明しておくと、僕の専攻は日本国憲法と人権論だったし、大学一年生の頃には人権弁護士になろうと思っていた。自分が創設したNPO法人Living in Peaceという名前は、日本国憲法前文の平和に生きる権利に由来している。

だから、今起きていることは、極めて悲しいことだと思っている。だけど、僕は実務家であり経営者なので、自分の大切にする価値は守りつつ、現実的にものを考えようとしている。

 

ただし、民主主義の死は、鎖国や交易の廃止を意味しない。民主主義が生まれるはるか以前から、人々は異なる文化や宗教を持つ人々と交易をしてきた。「相互の利益のために、フェアな条件で取引を行う」というのは、民主主義よりもはるかに堅牢で長続きしてきた価値観だ。ピーター・フランコパンが書いているように、世界はずっとグローバルに交易を行ってきた。

なので、今後のミャンマーにおいても、外国人である僕たちがこの国で仕事を継続することができる可能性は相応に高いと思う。暴力的な反政府運動(今は極めて平和的にやている)や、西側諸国からの理不尽な制裁が起きない限り、鎖国が起きる確率は低いだろう。

それに、こういった商売上の関係維持とそれに基づく現地の人たちとの関係構築は、世界中で平和を維持するための基盤にもなる。産業人ができる国際貢献は、こういうときだからこそ、事業を地道に続けることなのだと思う。



五常は、世界中に金融包摂を拡げるために設立された。ミャンマーでは金融サービスの浸透が他国に較べても遅れていて、今も多くの人が良質で低価格な金融サービスを必要としている。そのような人々がいる限り、そして、事業をすることが可能な限り、僕たちは事業を通じてより多くの人々により良い金融サービスを届けていきたい。


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