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学際情報学府 M1前期の振り返り【暫定版】

この記事について


執筆者は2022年の4月から、東大の学際情報学府 社会情報学コースのM1になりました。前期(S1S2セメスター)でできたこと、できなかったことを振り返るためにこのnoteを書いています。自身の振り返りがメインですが、学府での生活の様子や社会人で大学院に行くとどんな感じになるのかを知りたい方にも、お役に立てる部分があるかもしれず、公開することにしました。目標1時間で書くので多少の粗はご容赦ください。

執筆者の状況


20代後半の会社員・フルタイム。基本リモートワーク。大学は他大学。ここに入る前に社会人と並行して放送大学大学院の修士課程を終えています。修了後、指導教員に相談したところ学府を勧めてもらい、進学を決めました。領域は社会学×メディア研究(暫定)。質的研究メイン。

何をやってきたか&できるようになったこと

入学後主に行ったのは(1)ゼミ、(2)必修授業、(3)選択必修+選択授業、(4)M2の先輩たちの研究発表聴講、(5)学園祭企画への参加、(6)個人の研究です。

(1)ゼミ

私のところでは隔週半日、半期に1回発表がありました。通称“M0”として参加させてもらっていた昨年後期はリモートでしたが、今年からは対面に。学府は学部組織を持たない(と言っていいはずですが、要確認)ので、Dの先輩がM1M2の指導をとても熱心にやってくださいます。

私の大学院生のイメージ(特に共同研究の少ない文系)は、個々人が自分の研究を独立して進める、というものだったのですが、全然違いました。ゼミでは、発表者の研究がどうしたら成立するか、より良いものになるかをメンバーが真剣に考えます。案外、本人以外が「この研究はひとことで言うとどういうものなのか」をずばっと言い当てたりすることもあり、議論を聞いていてとてもエキサイティングです。自分の研究をしっかり進めることだけでなく、他者の研究を適切に受け止め、コメントできる力を付けることも極めて重要だと考えるようになりました。

私も初期状態に比べると先輩たちを見習っていくつかの着眼点を持つことができるようになりましたが、それもまだ機械的というかチェックリスト的で、芯を捉えたコメントはできていません。

ちなみに、学府では指導教員(入学後に決まる)のほかに副指導教員をつけることができます。そのほかにも、ゼミを授業として開講している先生も多く、自分の指導教員のゼミ以外にも参加しやすい環境です。私も社会学の理論・学説研究を主にしているゼミに迷い込んで参加しています。領域横断がしやすいのは、学府の本当にいいところです(もしかしたら東大のいいところでもあるのかも。他を知らないので何とも言えませんが)。

(2)必修授業

必修授業は数コマありましたが、オンラインもしくはオンデマンドメインで、それほど大きな負担にはなりませんでした。学府には以下のコースがありますが、M1前期の必修授業は自身の領域外の各コースのことを良く知るために設計されていました。学府らしさが一番よく表れているかもしれません

社会情報学コース
文化・人間情報学コース
先端表現情報学コース
総合分析情報学コース
アジア情報社会コース
生物統計情報学コース 

具体的には、①お題を与えられてグループワーク+発表という授業、②先生方の研究について1回1人・オムニバスで講義、というものです。①については先端や生物統計所属の方、留学生、私のように社会人を経由してきた方、内部進学生など多様なバックグラウンドの人が集まり、立ち上がりはかなり苦戦しました。与えらえたお題も1~2文で抽象的(私のところはポピュラーミソジニー)、事前の講義もなしという鬼設定で、さらにバックグラウンドも異なるので、議論をどこから始めていいかわからない。皆が共有している前提は何か、逆に何がずれているのか、にあたりをつけることから始めることになります。ゼミとはまた違ったディスカッションやコメントの能力が必要とされました。

授業を通じて、いわゆる“文系”と”理系”の研究の進め方の違いや、そもそも何から議論を始めるかを設定すること、意見交換しやすい雰囲気をいかに作るかなど、考えさせられることがとても多かったです。

最後に私たちのグループ担当の先生が、「これから共同研究をすることが増えてくると思うが、その時に今回の経験を活かしてほしい」という趣旨のことをおっしゃっていて、本当にその通りだと思いました。共同研究もそうですし、アカデミックの知見を社会に還元しようと思ったときにも、似たような状況は絶対起こるので、そういう時にも役に立ちそうだと感じます。

②については、オンデマンド視聴・コメントシート提出で、時間の制約なく視聴できたのが良かったです。作業が煮詰まったときに視聴してコメント書いていました。

(3)選択必修・選択授業

これも他コース、他学部の授業を比較的自由にとれます(だからこそ何をどうすればいいのか難しい)。私は主に以下の授業を取りました。

文学部開講の社会学の学説史(学部の必修授業。4単位までなら学部のものも単位になる)/人文社会系研究科の社会学理論系ゼミ/学府開講の社会学系基礎科目/学府開講の情報法・政策系基礎科目

ここでも越境がしやすくて助かりました。学府に進学してくる人は院でバックグラウンドとなる学問領域をガラッと変えるケースも多いと思うのですが、そのときは学部の授業を取るとかなり視界が開けます。社会学部の必修授業をM1前期で取っておいたことは、数少ないファインプレーの一つでした。その授業自体もとてもおもしろかった。

ちなみにここで挙げたものは全部オンライン開講でした。オフラインのみの科目もありましたが、仕事との両立との兼ね合いで受講を諦めました。

何人かの先生から、「学府の授業は学部がないこともあって先生方の気合が入っており、結果的に重くなる(負荷が大きくなる)」「でもM1の時の知識詰め込みが後に効いてくることがある」ということを聞いていましたが、おおむねその通りだなと思います。取る授業にもよると思いますが、結構大変でした。

※私の出身大学には学部の授業には「鬼仏表」なるものが存在したのですが(授業の難易度や単位の取りやすさを先輩が評価したものが代々引き継がれる)、大学院にあるのだろうか。シラバス読んだだけでは内容がわからないものも多いので、可能なら受講した先輩を見つけて事前に聞いておくと良いです。私も結果的に受講してよかったものの、想定とは違ったものがありました。

(4)M2の先輩たちの研究発表聴講

ただ聞けばよいというものではなく、コメントシートの提出が求められます(授業の一環)。大学院ともなると、自分とまったく同じテーマ・同じ方法論を対象としているなんてことはまずないので、わからないなりにも何か言わないといけない。

役に立ったことの一つは、研究が研究になる過程をリアルタイムで見られることです。具体的には論文を書き始めるまでにどんな作業が必要なのかGW頃の構想発表と7月の中間発表があるのですが、そこでどれだけの差分があるのか、スケジュールの相場観などを知ることができます。また、先生からのコメントでどんなことをつっこまれるのかも知ることができる。これは完成した論文を読むだけではイメージしにくいので、研究の内容を吟味することとは別に、勉強になりました。

(5)学園祭企画への参加

東大の院生が一般のオーディエンスに対して10分で研究の最前線を発表する企画「10分で伝えます!東大研究最前線」とは?に参加させてもらいました。めちゃ大変でした。Dの方も多いので当然と言えば当然なのですが、自分と他の院生の差分を実感する出来事でした。コロナで入構者数を絞っていたこともあり、ハイブリット開催でオペレーションは大変そうでした。私もなにかしたかったけれど自分の発表がポンコツすぎてそれどころではなかった。文系理系やキャンパスの立地問わずいろんな方が参加していたので、ある意味半期を通じて東大の雰囲気を最も感じることができた機会だったかもしれないと思います。

また、人は締め切りがなければなにかをまとめたり結論づけようとはしないので、そういった意味でも、次回もぜひ参加したいです(余力があれば…)

(6)個人の研究

まったく進んでいない。困っている。どうしよう。

特に強く実感したこと【執筆中】

発表はとても難しい。ただ自分のやったことを話せばよいというものではない。自分が発表者の時はどう発表すれば質量ともに良いフィードバックをもらえるかをよく考えることがめちゃ重要。

ディスカッションやコメントの難しさ。自分もコツを掴める日が来るのかとても不安。院生になると他の方の研究に対し疑問点やコメント挙げる機会が急に増えるものの、そのようなトレーニングをする機会はあまりないように思います。授業やゼミのおかげでとりあえず、「思いついた疑問をとにかく口にする」状態から、「なぜ自分はそのような疑問を持ったのかを一歩引いて考えられる」ことができるケースが増えた気はしますが、ここからどうやって先輩たちの水準にもっていけばいいのか、まだよくわからない。

③資料や学説を読んでそこにある内在的論理を掴む、ということがどういうことかが、さっぱりわからない→なんとなく想像がつくに変わった(できるようになったわけではない)。この書評が面白かったです。

生活のこと

社会人(フルタイム)でどうやって日々生活している?(成立してるの?)とよく聞かれますが、なんとかなった…よかった…というのが正直な感想です。これについては会社の多大なバックアップがありました。感謝しています。具体的には仕事中の中抜けを柔軟にできるようにする、会議の時間と必修授業の時間が被ったらずらしてもらう、などです。また「頑張って」と応援してくれる人が多かったことも助けられました(研究成果でなにも還元できていない)。会社員としてのパフォーマンスも、あくまで自分の評価ですが著しく落ちたということはなかったと思う。ただ普段であればやらなかった細かいミスが出たことがあり、その後は意識的に処理速度を落とす、確認を数回行うなどするようにしていました。究極のマルチタスク状態に置かれ続けることが、一番つらかったです。頑張っても頑張っても、まだまだやることがある……。

でも、徹夜は1回もなく(もっと頑張れよという声が聞こえそうだ)毎日5~7時間は寝ていました。その代わり、アイドリングタイムはとても少なかったように思います。起きて即仕事→授業→仕事に戻る→終わったらすぐごはん支度→食べる→洗い物→研究・課題→お風呂(スマホ)→倒れるように寝る、が隙間なくぎっしりと言う感じ。慣れればなんとかなりますが、負担はかかっていたように思います。睡眠を減らせる人は、休憩を多少挟むと良いはず。土日は最低でも1日、できれば1日半、調子よければ2日、大学に行き、研究に充てるようにしていました。それでも全然足りないのはわかっています……。

私は学府入学前に、放送大学大学院で社会人と研究を両立する訓練を積んでいたことも、プラスに働いていたと思います。いきなり学府のペースはつらいかもしれない。

嬉しいこと

放送大学大学院に入ったころよりもまわりが社会人大学院ブームになっていて、いろんな大学院に励まし合える仲間がいます。本当に嬉しい。

つらいこと

・(広く)社会を対象に文献をいろいろ読むなどしていると、たまに人間や社会のいやーな面が見えて、自分の足場(信じていたものが)がいきなり崩れるような感覚になることがあります。そんなに頻繁ではありませんが、そういうときはメンタルにきます。が、究極的には自分で乗り越えることしかできないし、それが研究をドライブしていくこともあるので、頑張るしかない。

・M2になって様々な期限に追い立てられると大変なことになる(予想)。課題をこなす、などは隙間時間でもなんとかなるのですが、研究となるとどうしてもまとまった時間や穏やかな心がないと進まない部分もあります。細分化できる作業とまとまった時間が必要な作業をしっかり切り分けて、焦らずやっていくしかないのですが。

…時間が来たので、いったんここでストップします。改訂版を書きたいのですが、それよりも研究を進めたほうが良い気もするので、できれば、ということにしておきます。



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