リモワ全盛期にマクルーハンについて考える/マーケターにおすすめのマーケ本以外#2

私はマーケター向けのメディアの編集者をしています。同時に大学院で政治学、組織論、メディア論などを勉強し、この春修士課程を修了しました。マーケターや経営者の方々に取材したり、ビジネス書を読んだりすると同時に、学術論文や学術書にも触れるなかで、タイトルに「マーケティング」という言葉が入っている本や雑誌以外にも、マーケターが読むと面白く感じるコンテンツがあるのではないかと思うようになりました。それらを少しずつ紹介していくのがこのnoteです。

コロナ禍では人々の行動の多くがオンラインに移行し、マーケターもお客さんとの接点を店からECサイトやSNSに移したり、リアルイベントで発信していた情報をブログやコンテンツに移行したりしていました。オンラインに移行したことで、確かに販売の機能や情報伝達の機能はほぼ完全に移行できた企業が多いのではないかと思いますが、お客さんには、本当に対面時とまったく同じメッセージが伝達しているのでしょうか。それとも、実はなにかしらの違いが現れているのでしょうか

そんなことを考えたとき、マクルーハンのメッセージを思い出しました。そこで今回のnoteでは、マクルーハンをわかりやすく解説していた教科書を取り上げようと思います。メディア論はいまのところ独学なので、わかる範囲のことだけを慎重に書いたつもりですが、間違っていたら教えてください。。。

『よくわかるメディア・スタディーズ[第2版]』伊藤守編著/ミネルヴァ書房

本書はメディアに関する研究をしたい学生向けに、どんなふうに問いを立てられるのかいろいろなヒントを提供する……という感じのテキストですが、中でも今回のnoteでは、マクルーハンの解説パートを紹介します(長谷正人「メディアの物質性」pp.16-19)。

マーシャル・マクルーハンは1960年代から電子メディアについて論じ、日本も含めて各国でブームとなった人物です。以下の言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

メディアはメッセージである

※1964年の『メディア論』が初出。

私もこのフレーズだけは知っていたものの、本書の解説を読むまで何が言いたいのか、あまりピンときていませんでした。

本書によると「メディアはコミュニケーションを媒介するための透明な道具であるという常識」に疑問を投げかけ、「それぞれのメディアがもつ物質性からも、私たちはなんらかのメッセージを受け取っている」と考えることもできるよね、と訴えることが、マクルーハンがこの言葉に込めた狙いだったようです。

私たちはなにか情報を届けようとするとき、その内容こそがメッセージだと思ってしまい、日ごろは電話だろうがLINEだろうが、伝達手段を気にすることはあまりありません。内容が伝われば、方法はなんであれひとまずOKと考えます。ですがマクルーハンに言わせると、電話というメディアや、LINEというメディア(マクルーハンの時代にLINEはないですが)はそれぞれ独自のメッセージを持っており、情報に加えてそれらも伝わっていくのです。

ではそれぞれのメディアは何を伝えているのか。本書ではメディアの物質性という言い方をしていますが、マクルーハンは「スケール」「ペース」「パターン」の3つの語を用いて説明したそうです。新聞を例に挙げると、

1. スケール=扱う記事の対象が、私たちがものを考えるスコープになる(全国紙なら日本、地方紙ならその地方?)
2. ペース=毎朝毎晩発行されるという時間感覚(昔は重大事件が会った時だけ発行されたらしい)
3. パターン=さまざまな大きさの活字が入り組み、大きな見出しから全体を把握し、そこから興味のある情報を拾って読むという独特の読み方。

私たちはメディアの内容ばかりでなく、その物質性からもメッセージを受け取っている、というマクルーハンの指摘。具体例を通じて理解すると「確かにそうかも」「意外と当たり前なことかも」と思うところもありますが、1960年代にこの論点を見つけていたマクルーハンはすごい感覚を持っていたのだろうな…と思わずにはいられません。コロナ禍での急速なオンラインシフトを見て、マクルーハンがどんなことを語るのか、聞いてみたいですよね。

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さて、本書の章立ては「Ⅰ メディア・スタディーズの輪郭」「Ⅱ メディアの物質性・歴史性」「Ⅲ メディア社会の構造」「Ⅳ グローバル化と文化の移動」「Ⅴ メディアの表象文化」「Ⅵ 空間を編成するメディア」「Ⅶ メディア公共圏のデザイン」に分かれおり、今回取り上げたマクルーハン解説はⅡの部分にあたります。他にも各メディア産業やファン・カルチャー、ネット文化について触れたⅢ章は、マーケターの方やメディア業界で働く方が特に面白く読めるパートなのではと思いました。

個人的な感想ですが、マーケティングはメディアと不可分なものであり、デジタルマーケティングの進展を考えると、両者が重なり合う領域はもっと広くなっているはずなので、マーケティング研究とメディア論を融合する研究がどんどん出てくるのではないかなーと期待しています(自分でやれたら良いですね…)。

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