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【前編】「分断を越えて、対話を生むメディアをどうつくる?」イベントレポ

UNLEASHさんのイベント「分断を越えて、対話を生むメディアをどうつくる?」に参加しました。今年の夏から欧州を回り、対話を生むメディアを取材するエディターの向さんが、「対話を生むためのメディアのあり方」をテーマに、2時間たっぷりお話してくれました。

メディア運営をしている、コミュニティ/コンテンツに興味があるという人に新しい視点をもたらしてくれるエッセンスが盛りだくさんだったので、前後編に分けてレポートします。前編は向さんのトーク、後半は向さんとUNLEASH編集長・モリさんとのディスカッションを掲載予定です。

話し手:向さん(UNLEASHエディター)

「分断」に気づいたきっかけ

イベントの話し手は、今年の夏から欧州を回り、対話を生むメディアを取材する予定の向さん(Twitter:https://twitter.com/m___hal)。

向さんがメディアへの関心をもったきっかけは、学生時代のアメリカ留学にさかのぼります。ちょうど大統領選挙の年を「みんなオバマが大好きっていうリベラルな州」で過ごしたそうです。
少なくとも私の周りでは、と前置きした上で、向井さんは当時の様子を振り返ります。

差別的な発言をする人たちをギャグっぽく見ていたところがあった。みんなが観ている番組で、コメディとして取り上げられていたり

差別的な発言をする人がギャグとして成立するほど「多様性を認め合うのが当然」という空気があったといいます。

しかし、それから数年が経ち、気づくとアメリカの大統領はトランプに。
自身の留学経験とはまったく異なる状況に、「どうしてこうなっちゃったんだろう」と考えながら、いろんな人の話を聞いたところ、「分断」というキーワードが浮かび上がってきました。向さんはここで、留学中に出会わなかったトランプを支持した人たちの存在に目を向けたのです。

悲しみや怒りをため込んでいてトランプに投票した人たちがいる。安定やコミュニティを重んじて生きている人たちがいる。留学していたとき、なんでそこに思い至らなかったのかと反省しました(向さん)

「分断」を生む原因のひとつに、自分と同質の意見しか身の回りに集まらなくなってしまう「フィルターバブル」の問題が挙げられますが、向さんは自身の留学中も、ある意味フィルターバブルだったのかもしれないと振り返っていました。

フィルターバブルが「うっかり」割れるためには?

フィルターバブルが強く問題視されている背景には、ネットが普及し、コンテンツ/広告のレコメンド機能がさかんに活用されていることがあります。

また、向さんは「情報にあふれているネットの世界でメディアを運営し、ビューを稼ごうとすると、一時的な感情を煽る内容に最適化されてしまう側面もあります」と指摘。ご自身がインターネット好きだっただけに、「不幸な状態だな」とずっと問題意識をもっていたそうです。

しかし多くのメディアを調査・取材するうちに「うっかりバブルが割れるおもしろい事例」を発見。今回のイベントでもそのいくつかを紹介してくれました。

1つ目は、オランダの女性ジャーナリストグループ「Bureau Boven」が作ったポップアップストアを紹介してくれました。

これは冷戦時のヨーロッパで、自由を求めて抗議運動に参加した「個人の物語」にテキスト、動画、音声に触れられるようになっており、日本でも展開されたそう。向さんがここに見出したのが、物語がもつ「つながりを生む」という力でした。

冷戦時代にチェコで共和党員だった男性の物語に、強く共感していました。そのチェコ人の男性は、元共和党員だった過去に対する社会の偏見を恐れ、周囲に打ち明けられないと記していた。
それに対し、日本人の男性は、『弱さを見せられない日本の職場と同じだ』と話していたんです。個人の物語は、国や時代、思想を超えて思わぬつながりを生む。(講演スライドより)


2つ目は、リーマンショックを経験した当事者を匿名で取材したジャーナリストの事例。そのジャーナリストは金融の専門家ではなかったからこそ、自らが学んでいく過程を表に出していったそうです。

専門家でなくてもしっかりした問いを立てれば、読者にとって価値ある情報を出せる。知っている人から「こういうものですよ」と言われるよりも、金融危機のような大きな問題を考えていくためのヒントになります(向さん)

この例でも、キーワードは「個人の物語」。金融危機といったトピックでは、わかりやすい敵を作りたくなってしまいますが、個人で働いている人がどういう気持ちでその行動をとったのかを丁寧に紐解いていき「こういう仕組みの中でこうせざるをえないという人がいたのだ」ということが見えてくると、絶対的な悪が存在しないこともわかってきます。(これについて、私も記者時代の取材でまったく同じことを考えてきました。どんな人にも物語があり、事情がある。その背景を知らずに叩くことはできない。だからこそ、取材をしていると誰のことも大好きになる)

ところで、向さんの「うっかりフィルターバブルが割れる」という表現がとても素敵だなと感じました。無理やりバブルを割って他と交わりなさいというのではなく、あくまで「うっかり」。尖っていない、丸みのある言葉です

「分断」を超える4つのの方策

向さんが考えている「分断」を超えるための方策はこの4つ。

①奥行きのあるストーリーテリングが大事
②読者をプロセスに巻き込む
③オンラインとオフラインの場の掛け合わせ
④ニュースを発信する人の多様化を進める

すごいと思ったのは、実際にイベントの場で②と③が体現されていること。

向さんはイベントの冒頭、「夏からオランダに『対話』を生むメディアについて取材に行きます。こういう取材をしてほしいとかいうのがあったら教えてほしいです」と、参加者に呼びかけていました。ジャーナリスト/エディターって、自分の正義・問題関心・知識に従って突き進む、という感じになりがちな部分があるからこそ、こんなふうに言われたら、すごく協力したくなってしまいます。私も見習いたいセリフです。

前編はここまで!後編は今週中に書きます!

※レポ公開後、向さんから教えていただき、留学のくだりで出てきた「共和党支持者」を「差別的な発言をする人」という言い方に変えさせていただきました。笑いのターゲットになったのは差別的な発言であり、共和党支持者にも多様性を認め合おうとする人はたくさんいるとのこと。確かにその通りだと思いました。

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